その3 都庁で記者会見!スピーキングテスト中止を求めて
2022.1.10
都立高校入試へのスピーキングテスト導入の中止を求めます!
― STOP!「東京都中学校英語スピーキングテスト事業」
その3
都庁で記者会見!スピーキングテスト中止を求めて
2021年12月27日午後2時より、都庁第一庁舎6階中央スペースにて、「東京都中学校英語スピーキン グテスト事業」の中止を求めて、記者会見を開きました。今回はその模様をお知らせします!
1.五人のスピーカーが、スピーキングテストの問題点を洗い出す!
新聞各社(朝日、毎日、東京、読売、しんぶん赤旗)や他にフリーの方も含めた記者の皆さんが参加、新英語教育研究会(以下、新英研)のほか日本外国語教育改善協議会の世話人の皆さん、西東京、小平、東村山市などの市民団体や教育関係者の参加もあり、熱気でクラクラしそうな会場で、島崎嗣生さん(新英研)の司会進行のもと、5人のスピーカーの発言と現場の声を伝える2人の元公立中教員が、それぞれの観点から、スピーキングテストの問題点を洗い出しました。
(1)池田真澄さん(新英語教育研究会会長):
スピーキングテスト!6つの問題点
池田さんはこのスピーキングテストの問題点として、①中3生、約8万人の評価を短期間で公平に行うこ とはできるのか、②評価の信頼性は担保されるのか、③授業と英語教育への弊害-入試に出るとなると減点されない、正しい英語を話さなければと生徒が委縮する恐れがあること、④情報漏洩の危険性―名前と顔写真、テスト結果が一企業に集約されてよいのか、⑤入試配点、重すぎる英語の割合―内申点の一教科分に相当、⑥経済的格差から学力格差へ―学校外で対策をできる家庭と困難な家庭の格差が結果の差になること、の6点をあげました。特に、テストの評価基準に、「母語からの影響をどの程度受けているか」、という項目がありますが、「日本語話者は日本語の影響を必ず受ける。気にしていたら会話などできない。世界には多様な英語があるのに、入試は別だというのはおかしいのではないか」と述べました。
(2)久保野雅史さん(神奈川大学教授):
政策決定のあり方に異議あり!
久保野さんは、区立中学校3年の保護者として、プレテストの事前登録(顔写真や生年月日など)の過程 を傍で見てきた経験を述べ、また、スピーキングテストという施策の決定過程の不透明さに言及しました。2013年、安倍内閣の第2期教育振興計画を受けて、東京都英語教育戦略会議が設置された構成メンバーは、 文科省視学官、英検・ベネッセ・楽天などの試験ビジネスの関係者、また学識経験者の中には民間テストの開発に関わった研究者もいたこと。2016年9月、戦略会議は「都立高校入試において、今後は「話すこと」 を含めた4技能を測る入試の実施方法の工夫について前向きに検討すべき」という提言を行いましたが、これを受けて「英語検査検討委員会」が設置され、「入学者選抜では指導要領で求められている力が身についているかを測る必要がある。だから話すことも測るべき。しかし従来の検査日程の中で『話すこと』の採点を完了させることは、現状では極めて困難であり、民間の資格検定試験は、『話すこと』を含めた4技能を総合的に評価するものとして社会的に認知され、一定の評価が定着している、民間の知見を活用することが必要なのだ」という結論になったことを説明しました。最初からメンバーを見ると、結論が見えてきます。
実施に関する事業者選定のスピードもかなり早く、特定の企業を優遇するような形で、行政が歪められたのではないか、「この政策決定の不透明さは、見逃せません。」と久保野さんは指摘します。「歴史の事実と して残さなければいけないと思って」久保野さんが記した研究ノート「東京都中学校英語スピーキングテスト事業とは何か―歴史の批判・検証に耐えるだけの記録の蓄積を」(『英語教育の歴史に学び 現在を問い 未来を拓く』(渓水社)に所収)をぜひご一読ください。
(3)石山久男さん(東京教育連絡会)
石山さんは元神奈川県の社会科教員で、東京の教育諸団体、市民、保護者、労働団体などが集う東京教育連絡会を代表して、心配しているのは、英語の教員だけではないよ、という意味も含めて発言をされました。東京は私立高校も多いですが、8割以上の中学卒業生が都立高校を受験するので、都内の中学生を子どもにもつ保護者にとっては、大変重大な関心事であることなど、様々な疑問を提示されました。1つは、大学のスピーキングテストが導入される予定になり、いろいろな問題が出て中止になったのに、なぜ都立高校だけがこれをやるのか、東京で全く問題なくできるのか、という疑問を投げかけられました。例えば、聴覚障害の方はどうするのか、ということが何も決定されていないという問題があります。またプレテストで試験会場にいったら、案内する人間がいない、またいろいろな対策はあるが、それでもやっぱり他の人の発言の音が耳に入って非常にやりにくかった、というような具体的な声もでている、と指摘します。もう一つは、採点がフィリピンで行われること、公平性がどのように確保されるのか、それについての説明もほとんどされていないということ、そして、テストが行われるとなれば、先生たちは、一生懸命に対応に努力されると思うが、今の学校の体制や、ものすごく忙しい先生方の実態の中で、それが本当にできるのか、と疑問を投げかけます。そして、保護者で心配な人は、塾など民間の方に頼って、お金をかけなければならない、経済の格差という問題がかなり深刻に響いてくるのではないかと言及しています。3つめの大きな問題は、個人データの一民間企業への集積と漏洩の危険の問題。東京都の公立中学校の卒業生の様々な個人データ等々がベネッセの手中に入るわけで、これはものすごい利益の元になり、しかも個人データが漏洩されるかもしれない、という点に懸念を示しています。このような問題がいろいろあるテストについては、もう即刻中止する決断をしてほしい、というのが東京教育連絡会の一致した意見、と石山さんは述べました。
(4)中山滋樹さん(日本外国語教育改善協議会 世話人)
中山さんが所属する改善協は長年、外国語教育に関する提言や要請などを行っている団体です。大学の入学共通テストへの民間試験導入問題については、2018年から文部科学省などに意見を提出しています。大学入試共通テストへの民間試験の導入は、「全国ではできない」ということは、もう確認済みであるのに、それを「東京都だとできる」というのはとても不自然である、といいます。「スピーキングテスト」を中止すべき理由を物理的な部分と考え方の部分から指摘しました。物理的な面として、受験環境に関わる問題や、また、問題作成、運営、評価等を民間委託し、教育委員会の手を離れるという問題がありますが、「都立高校の入試に、東京都の教育委員会が責任を持つことができない」ことに疑問を呈しています。考え方の上でも、「受験生一人当たり、合計しても数十秒ぐらいのテスト時間しかなく、それでスピーキングテストをやったと言えるだろうか」と指摘します。たった数十秒で評価されるということは、生徒にとってはすごいプレッシャーになることを指摘します。また、出題の仕方ですが、リスニングやリーディングの場合は、答えを事前に一つに設定できますが、スピーキングやライティングは、そうはいきません。受験生が別々の返事をするので、リーディングなどに比べると格段に難しく、だからこそ、評価を民間に投げて、ブラックボックス化させることは大変危険であり、教育委員会が全責任を負える形にしないと大変まずいことになると懸念します。そして、大学入試の時にも、「スピーキング能力のために、入試を変えるのだ」と言われましたが、本来、スピーキング力を伸ばすには、「先生が、生徒の話を一人ずつ聞いてあげる」ということが必要であり、「入試以前に、「少人数クラス」を環境として作ることが、絶対条件になる」と言います。「大学入学共通テストへの導入がはかられた時にその問題点について色々な書籍やデータが出ており、そういうものを、ぜひ振り返り、共有して、客観的で合理的な判断をしてもらいたい」「客観的で、合理的な視点に立てば、今回のスピーキングテストは、当然中止になるはず。」と締めくくりました。
(5)大津由紀雄さん(慶應義塾大学名誉教授 )
*いただいたスピーチ原稿をそのまま掲載します。 わたくしはことばの認知科学(こころの科学)を専門とする研究者です。今回はその視点から「中学英語スピーキングテスト」の問題を二つ手短に指摘したいと思います。
最初の問題。一般的にスピーキングテストの構築がきわめて困難であるのは発出形態のスピーキングの入力(出発点)である「発話意図」が言語的にコントロール(制御)不可能であることによります。受容形態であるリーディングテストの場合には、対象とする文法項目や語彙などのレベルや文章の構成を考慮したうえで、作問することが可能です。たとえば、受け身文とか、中学2年生程度の語彙を含んだ文章を出題することができます。ところが、発出形態であるスピーキングの場合にはそれができません。したがって、評価がきわめて困難になるのです。文章の構成について言えば、構成に注文を付ける方法(たとえば、話の中にこういう内容を含めなさい)がありますが、そうすると、スピーキングで重要な役割を果たす構成力を見ることはできなくなります。プレテストで言えば、Part CのTelling a StoryとPart DのExpressing Your Opinionでこの問題が顕著です。
次の問題。「話す」という行為にはいくつかの部分プロセスがあります。最初にあるのが思考する=考えるプロセスです。つぎに、思考の結果を言語化するプロセスがあります。そして、最後に、言語化されたメッセージを音声化する(発音する)プロセスがあります。それぞれを「思考」「言語化」「音声化」と呼ぶことにしましょう。「中学英語スピーキングテスト」ではそのすべてを対象としています。ここで重要なのは「思考」と「言語化」はライティングでもテスト可能だという点です。残るのは「音声化(発音)」のみで、それだけを対象としたいのであれば、Part AのReading Aloudだけで十分ということになります。しかし、「音声化(発音)」だけに絞ったテストを行うことにすると、発音だけはよいが、自分の考えをまとめ、ことばで表現することはからきし苦手という、よくある問題が出現することになります。この辺りに、スピーキングテストに対する検討が十分に煮詰められていないのではないかという感を強くします。
端的にまとめれば、スピーキングテストに内在する原理的な問題と「中学英語スピーキングテスト」の在り方に関する検討不足という問題があるということになります。他の方々が指摘された現実的な、深刻な問題が多々あることを併せて考えると、少なくとも現時点でのスピーキングテスト導入はなんとしても中止すべきものとの結論に至ります。
最後に、英語のスピーキング力育成を真剣に考えるのであれば、今回のような短期・短絡的手段によるのではなく、教員養成課程および教員研修の充実、教材や指導法の開発など、地に足がついた中期的計画が必要であることを指摘しておきたいと思います。
2.記者との質疑応答から
Q:大津さんへの質問です。中期的な計画に基づく教員研修とはどんなものですか。
A:本当に学校教育の中で、英語のスピーキング力といわれるものを、育成しなくてはいけないかどうかという検討をきちんとしなくてはいけないと思います。私自身はそういう必要は無いと思っているのですけれども、今の質問を受けて、議論のために仮にそれが必要だとしますね。きちんと実効をあげるためには、まず教員養成課程と教員の研修の中で、スピーキングをきちんと取り上げなくてはいけない。では、具体的にどういうことをやるか、私はスピーキングの訓練というのは、基本的にパブリックスピーキングの訓練から入っていくのが有効ではないかと思います。これは、人前で話すということで、例えばアメリカ合衆国の小学校では教室でShow & Tell などが、小さいときから実施されていて、子どもたちのパフォーマンスに対する事細かなコメントが、先生方から出されます。それと同じようなことを日本の教員養成の課程でもきちんと行っていく。Speech to inform 、「情報を提供するためのスピーチ」というものの練習をきちんとやり、その上にSpeech to persuade、「相手を説得するためのスピーチ」訓練を重ねていくという、地道な段取りを立てて行っていく必要があると思います。
Q:もう1つ大津さんへ。今回のテストで、仮に力がつくとしたら、どういうものになってしまうとお考えですか。
A:私はこのテストで、少なくともプレテストを見る限りは、スピーキングに関する力というのはつかないと思います。これはさっき中山さんが的確に指摘してくださったことですけれども、結局、正答というか、模範解答というものを想定しておかないと採点がたちゆかなくなるようなテストの設計になっているので、スピーキングをするのだけれども、目指すところというのは、正答に限りなく近づけていくようにするということで、スピーキングの本質とはまったく違ったことになってしまいます。ですから、こういうことをやったからといって、スピーキングの力はつかない、多少発音が良くなるということはあると思いますが、それはとても些細なことだと思います。中山さん補足していただけますか。
A:アドリブでしゃべるというのは、ものすごくいろんなものを、一斉に短時間で投入する能力だと思うんですね。たぶん日本語でも、ものすごく難しいことだと思うんです。日本語で同じことをやったときに、うまくしゃべれたかどうかを日本語の能力としてだけ判断するかというと、かなり違うと思うんですね。いろんな入社、入試の面接試験で、よい返事ができなかったときに、それについてこの面接者は日本語が下手だねという判断は行われないと思うんです。ところが今回のような入試の時には、上手く喋れなかったら、内容や考え方は脇に置いて英語が下手だねという判断にいきなりなるということが、これはおかしいというのが、私の考えるところです。評価としてでてくるものが、はたして英語の力なのかというところに、疑義があるということはぜひご理解いただきたいと思います。
3.コロナ禍、新学習指導要領下で、現場からの声は今や悲鳴に
新英研からは、元公立中教員の吉岡潤子さんと柏村みね子が、現場からの声を発信しました。柏村からは、「コロナ禍で我慢を強いられ、また高度化した新中学教科書の下で単語、文法事項が増え、教師は追い立てられ、授業についていけず、早々にあきらめる生徒が増えている。生徒も教師もこのままでは壊れてしまう。テストが持ち込まれれば、ますます授業は規格化し、豊かさが削られていく」ことを訴えました。吉岡さんは、「スピーキングテストが始まれば、それに対応した定型練習をせざるを得なくなるが、子どもたちは楽しいと思うだろうか。伝わる楽しさがないと話す気になれないだろう。教員研修で、パフォーマンス評価について学んだが、先生によって評価はバラバラだった。やはり導入には無理がある。生徒たちが犠牲になる前に止めなければならない」と述べました。
4.市民の声、現場の声
記者会見後、いくつかの都議団を訪ね、資料を渡し、最後に新英研と各市民団体の参加者、都議さんらで、スピーキングテスト問題への取り組みを交流しました。3年前からすでにこの問題に取り組んでいた市民団体の方からは、「英検やGTECなどを区の予算で全員に受けさせているなど、都内でも教育格差がある中でのテスト実施は不公平である」「なぜ英語だけ1教科の内申点に匹敵する点数がプラスされるのか」「テストで授業を変えようとするのではなく、少人数学級の実現を」などの声がありました。現場で働く中学校教員からは、「塾や業者がすでにスピーキングテスト対策の営業をしている」実態や、「スピーキングテストの問題の質を問う」声、「3観点評価が入った混乱、子どもに寄り添う姿勢を持とう」などの声がありました。高校教員からは、「入試の3文英作文でもなかなか書くことができない生徒たちが、スピーキングテストに対応できるのか」といった疑問の声も上がりました。各運動が結びつき、子どもたちの明日のための取り組みを認め合うことができ、新たなエネルギーを得ることができました。
5.メディアの反応
12月27日の夜、朝日新聞のWebのEduAに記者会見の速報が掲載され、その後、しんぶん赤旗、東京新聞にも記者会見の様子が記事になりました。先日も、取材をしてくれた社もあり、徐々に運動がメディアに知られていっていることを実感しています。「次の手は?」と皆さんに聞かれますが、運動の組織を整え、春休みに1つイベントをという案がある状態です。当面、Change.orgやこのニュースを広げていただければと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
文責:新英語教育研究会 事務局長 柏村みね子
stoptokyospeakingtests@gmail.com
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