CLOSE AND CLOSER -日韓合作?希望の歌をつくり、歌う-

2024年6月6日

 この記事は、雑誌「新英語教育」2004年3月号の「CLOSE AND CLOSER 日韓合作?希望の歌をつくり、歌う」をWEBサイト用に手を加えて転載したものです。

管 幹雄(かん・みきお 山形県立酒田工業高校)

(時間は過去にどんどん遡ります。)

1 初演

 本誌2003年11月号「読者の広場」で池田真澄さんが紹介して下さったように、公式には2003年夏の新英研第40回大会つくば山大会の閉会行事の中で歌われたものです。ということになっていますが、実はちょっとおまけがあるのでした。(?)

2 前夜

 大会の成功のために現地の新英研(関東ブロック)は相当な準備をし、リハーサルを繰り返していました(「新英語教育」2003年12月号)。作曲がやっと何とか間に合って閉会式で歌うことになったのはいいけれど、失敗は許されないゾ。開会・閉会式担当の東京支部の真剣な熱気に煽られ、最終日の前日の晩楽しみにしていた「住井すゑさん」の映画も新英研総会も欠席して密かにリハーサルを決行。平和・環境・人権教育の分科会で使われた部屋に行き、ギターを準備しながら集中していると、二人の若い男女が乱入してきた。「これから丁度やろうとしているところなのに何なの?」と思ったら、なんと韓国KETG(Korean English Teachers’ Group)の会長、ヨン・ヒョンジョンさんと、同ウルサン支部長のキム・デソンさんではないか。‘Oh, good evening. Excuse me, but I am going to have a rehearsal for tomorrow.’ ‘Oh, are you? So are we.’ ‘???’ ‘Do you think it is OK for us to put these posters on the wall with tape?’ 先程まで分科会会場だったその部屋は、最終日の朝に予定されている課題別分科会「韓国・朝鮮の言葉と文化」の会場に当たっていたのだった。
 折角だ!‘Will you listen to my song? I mean… will you be the first and only two audience of my recital, singing 'Close and Closer?’二人は満面の笑みで快諾してくれた。それは本当に幸運なことだった。日韓協同でようやく出来たClose and Closer を人前で歌うのは初めてだというのに、その聴衆がなんと韓国の二人だったのだ。これが何かのめぐり合わせでなくてなんであろうか。(その後これまで多分何十回もClose and Closer を歌ったが、二人はあの夜を忘れない、素敵だったと言ってくれているし、この時の歌が他のどの時のものよりもよかったと自分でも思うのだ。)

3 新英研全国大会2002・山口大会

 丁度一年前、2002年の新英研山口大会にKETGの釜山支部PETGから5人の人達が参加してくださった。イー・キースー会長は平和教育の分科会に参加して、山形新英研事務局の冨樫和子さんの「平和のメッセージ」や愛知の近藤さん、福岡の糸山さんのレポートなどを高く評価してくださった。
 最終日の午後、一応の大会日程が全部終了してその午後。日韓英語教育交流会がホテル松政の一室で開かれた。長野の室井美稚子さんの「アンニョン・コリア」(三友社刊)のテキスト作りや双方から実践の紹介がされ、活発に意見が交流された。
 この夜の交流会は実に楽しいものになった。みんな入り乱れてそれぞれの場所で話が盛り上がり、気が付けば私の右隣にはソ・ジョンホさん、池田真澄さんが向い側に座っている。いろいろ話しているうちに Seo さんが詩人だということが判明(後で詩集まで出しておられることも)。それを聞いて池田さんが閃く!「ソさん、日韓の交流・KETGと新英研の協同をイメージするような詩を書いて送って。管さんがそれにメロディーをつけて曲を作るから。」(オイオイ、聞いてないヨ~。)Seo さんは相当に忙しい人らしく直ぐに返事をしなかったが、池田さんがもう一押し。これで決まってしまった。

4 歌詞

mp3ファイル


歌詞と訳詞(PDFファイル) 

5 歌の内容について

 構成は最初の2行が独立しています。ここは序章。1番と3番が一つ目のモティーフ。交流し理解し合おうと互いに呼びかける。2番と4番が二つ目のモティーフ。ここの詞がまた優れています。2番の最初のClose and Closer では「和解」と「未来」、4番で交流によって生まれる「共有」と「『過去と現在』の克服」、それらが最後のくり返しの中でもう一度「未来」の中への統合されていく形になっています。

6 曲作り

 新英研のメーリングリスト(=パソコンネットワーク)で2003年3月に池田さんがソさんからのこの詞の初期形を紹介して下さった。ずっと読み進める。素敵な内容だ。そして、Close and Closer のところに来たとき、今回のメロディーが自然と頭に浮かんだのだった。♪Close and Closer… 後は少しずつ自然に進んだ。ちなみに手を入れて第2形を作って下さったのは池田さん。この形がなかったら、完成まで漕ぎ着けることも今の形になることもなかったと思います。池田さん、多謝。

7 日本語訳

 日本語訳については仮の訳を載せましたが、深いテーマが平易な言葉で語られているので、生徒達に訳させると面白いでしょう。それぞれの授業の余裕や生徒の乗り具合そして力量によって、1)個人訳、2)ペアでの訳、3)グループ訳などで「Close and Closer」名訳募集などとして、みんなで採点をしてもいいでしょう。試訳でのタイトルは現在のところ「近づこう、もっと近くに」としていますが、生徒達は若い感性でもっといい訳を作るのではないでしょうか。さらに或いは各地の方言でとか?(英語だけの詞やディジタル化したものも、必要でしたらご連絡ください。)

8 語法

 比較表現、疑問詞節、疑問詞句、助動詞can、関係代名詞what、未来時制、現在完了形などが含まれますが、語法について述べる紙幅はなさそうです。語彙も語法も余り難しいものは使われていませんが、内容が深めなので中1から大学まで幅広く授業で扱うことができるのではないでしょうか。

9 生徒達の反応

 囲みにしましたが、中々いい感じ方をしてくれたようです。普段は(特にアジアなど近隣諸国の)外国人の考えに接する機会が多くないので、新鮮な驚きになったようす。詞の内容と日韓の合作というこの作り方そのものにも希望の光を見出した生徒達が多数いました。
CLOSE AND CLOSER  < 感 想 >

  1. 詞について--国境の壁を乗り越えて、親しい仲になれるという思いが伝わってくる。
  2. 国が違っても感じ方が同じだということを知れてよかった。
  3. 詩の内容はとてもわかりやすくて良かった。曲はギターのメロディがとてもセンスが良かった。全体的にギターのメロディがこの歌詞をいろどっているように思った。(Ao-Jo)
  4. 日韓問題は両国が理解し合わないといけないので、歌に乗せてというのはとてもいいと思った。曲のイメージは夜想曲。(Ig-Mas)
  5. とても気持ちが込められていて心に響いてくる曲だった。全体を通して最高。(Onu-Tak)
  6. 先生のギターの強弱がうまい!&テクもうまい。この曲の詩を見ると悲しいようで、だけど希望の歌になっていると思う。コラボとはすごいね~。(Kat-Mas)
  7. We can find where to go/ We can find how to love… の所が親密な感じがしてよかった。We can overcome the past/ We can overcome the present の所も感じるものがあった。音楽も詩にあっていて、素晴らしいものでした。今の国際問題の解決策になればいいと思った。(Kaw-Yas)
  8. 作詞家が書くような詞だ。しぶい。感動。(Sait-tak)
  9. 異国の方が書かれた詩だけれども、日本人との考え方は全く同じなんだと異国人と日本人の親密性がとても感じられた。
  10. これからの世界に必要な言葉がたくさんあっていいと思った。全体を通して、日韓だけではなく、世界中にいえることだと思った。
  11. TVでは韓国の人の日本のイメージが時々よくないようなことを言う人がいることを聞くが、中にはSeo さんのように前向きに考えている人もいるということを改めて知った。
  12. よく『近くて遠い国』などと言われるが、歌詞の‘The East Sea is not a barrier between us’ The Sea of Japan is not a long distance’のところはそれを越えようという感じがでていていい。(Shoj-Da)
  13. 心に『響く』というよりも『しみわたる』感じの詩だった。この詩のような心を持つ人が増えれば日本と韓国はもっと友好的になれると思う。今回の合作のように交流の機会が増えてほしいと思う。(Tog)

10 未来形?

 future tense ではなく、この歌の発展のことで。多分4番のくり返し部分の一行目をそれぞれ「♪近づこう~~」とか韓国・朝鮮語と日本語で交互に歌えるようになるとさらに楽しいかな?と思っています。これからの作業です。(ぴったりの日本語がないでしょうか?)

11 終わりに

 この曲は私個人的には書き始めてから2週間くらいで完成まで行きました。しかしもう少し広い意味では実に長い年月がかかっています。
 2001年、私は新英研第1回韓国平和と友好の旅に参加しますが、いろいろなことがあって何度も何度もチャンスを逃し、最初に行きたいと思ってから8年してやっとの訪韓実現でした。
 2002年の1月号「アジアとの交流」特集号でも少し書かせて頂いたように、新英研としては90年代に北海道支部が韓国済州島の英語教育研究会と交流を始めるわけですが、そのことが土台となって2001年のツアーでソウルのKETG本部訪問が実現します。それはまた池田真澄さんや菊地恵子さん、大田(テジョン)市の日本語教師金鶴童さんたちの献身的な努力とご支援によって初めて可能になったのです。それがなければ2002年に釜山の先生方が山口大会に参加することもなかったでしょう。これらの多くの前提があって Seo さんと私が出会った。決して大げさでなく、これらの一つのことが欠けてもこの歌は出来ていないし、これらの積み重ねと人的な交流を通して韓国KETGの人達は私達を「友人」と読んでくれるようになり、詞も完成したのではないでしょうか。
 互いに理解し合おうという努力が欠けると、また我々は友人ではなくなることがあるかもしれません。そういう過去の歴史ゆえの両国間の危うさがあり、それを克服しようとしてやっといい関係ができたのだということを生徒達にも語ってやりたいと思うのです。ソさん。素敵な詞をありがとう。ここまで新英研と韓国の交流のために力を尽くして来られたみなさんに、この歌を捧げます。日韓の交流の発展、東アジアと世界の平和のためにこれからも行動することを誓いながら。ありがとうございました。

12 おまけ

 この歌の特集の「3月号」が出るころまでにはCD録音の形にしたいと思っています。当方までご連絡下さい。T+F0234-22-5779 E-mail: fwic7129@nifty.com

2024年6月6日授業に歌を

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