共に学び、共に高まる教室をめざして ―私の「学習集団づくり」―
緒方 智子(おがた ともこ 長崎・長崎総合技術大学)
1.授業づくり
(1)授業を構成するもの
授業の成否を決するのは教科内容、授業過程そして集団がつくる雰囲気等があると思います。特に英語科の教室では、「音声」が不可欠ですので「話したくなる雰囲気」「クラスメートの話を聴く雰囲気」が重要です。これは「指導過程」と同じくらい、否、あるときはそれ以上に、指導者による意識的な指導や「見えない」指導を必要とします。これを、私は「学習集団づくり」と呼んできました。実践例をあげながらこのことについて稿を進めたいと思います。
(2)授業の雰囲気づくり(「学習集団づくり」)
雰囲気づくりのとりかかりは、教師の描く授業のイメージと「思い」を子どもたちに、熱く語ることからはじめます。そして、構成員としてはどのようにあって欲しいかを示し、それを発揮する手だてとしてペアと小集団をつくります。私自身は
- ①感じのいいスカっとする声を響き合わせて欲しい。
- ②身体を動かし、心を開いて欲しい。
- ③共に学び、共に伸びる心をもって欲しい。
- ④けじめのあるクラスをつくって欲しい。
などを理由を添えて子どもたちに語りました。そして"響きあい"をつくるために、以下の2つのことを求めました。
(3)子どもたちに求めたこと
- 「発音三原則Clearly, Kindly, Loudly」を大事にしよう。
このことばは、東京新英研から学んだもので、提示順は多少異なっていますが、よく使わせていただいています。心地よく響きあうクリヤーな声を必要に応じて出せる力は、授業の中で大切に拾っていこうと心がけている「つぶやき」の声と共に、とても大切なものだと思っているからです。これは「自然」にはなかなか育ちませんので、意識的指導をこころがけます。 - 「交わりの力」・「人と関わる力」をつけよう。
この社会を生き抜くには、他人と交流できる「人と関わる力」が不可欠です。これは言語学習以前の基本的な力だと言われますが、私は言語習得の中でも獲得されていく力だと思っています。ことばは自分を見つめ、ものを考え、人とつながっていくものでもあるのですから。 そのために、いろいろな声かけを行います。
「『ねェ、ここ、わからない、教えて!』と声をかけよう」
「聞かれた人はsharingを楽しもう!」
「人に説明できてはじめて自分の理解も深まるよ。みんなが伸びたらもっと高い学びになるの、勉強が楽しくなるから不思議よ」等々。そして、一言、「教えてもらったら"Thank you."」「"Thank you."と言われたら、"My pleasure!"または"Welcome!"」と"関わり合いのことば"を入れていきます。これらのことばでお互いの顔がにこやかになるから不思議です。ことばの力です。
2.ペアと小集団づくり
「交わり」や「関わり」の場面を多く作り出すための「装置」として、ペアと小集団をつくります。学級担任や子どもたちの意向で学級の座席を使って男女混合4人班を作る場合と英語の授業用の独自座席をつくる場合がありましたが、後者が大部分でした。作り方も長い間いろいろ試みましたが、最終的には一番簡単な作り方に落ち着きました。
(1)作り方
教師が以下の指示を英語で出し、それに従って子どもたちが動いてつくっていきます。グループ替えは学期ごとにしました。
- “Everybody, stand up and go to the back with your belongings, such as your textbook, notebooks, file and pencil case."(全員学習用具をもって後部へ移動)
- “Choose your partner."(自分が一番学習しやすいと思う人とペアを組む)
- 男女混合班をつくるために以下のようなペアの座席配置図を色チョークで板書する。(図)
“Now, this is a seat map. White for the girls, and Yellow for the boys. You can choose any seat after I say’Go’. - Ready? Go! (好きな座席にペアで座る)
- 着席した2組のペア男女4人を1グループとして、私がGroup1, Group2とコールしながら、小集団をつくっていきます。上記の座席図で言えばA、B、C、Dが1グループです。AとB、あるいはCとDは自分たちが選んだペアであり、座席も自分たちで選んでいますが、構成したグループはたまたま選んで座った座席の「ご近所さん」です。クラスの座席が奇数の場合はトリプルになることもあります。その他状況によっていろいろな場面が出現しますが、そこは臨機応変に対応します。要は自分が選び、自分が決める、ということです。
(2)条件
この座席決定の条件は下記の3つです。これを認めるかどうかを挙手で確認をした上で座席決めに入ります。生徒たちは好きな人とペアが組めるというので、テンションが高くなっていますので、勢いよく手があがりますがこの確認(教師と生徒との約束・信頼)はその後の指導を行う上でポイントになります。
条件1、授業開始のベルは英語の座席で聞く。
条件2、共に高まるために座席でグループをつくる。グループにはキャプテンをおく。
条件3、気持ちよく安心して学べる学習雰囲気をつくるための座席決めなので、もしそれに障害が出ていると英語担任が判断したら、担任の責任として座席を変える、の3つです。
条件2のキャプテンの仕事はグループ内の司会・進行、グループノートや点検簿の管理、そして仕事の「振り役」です。
キャプテンの仕事には学習ガイドの役割はありません。グループの中で英語の得意な人を了解を得て、"You are our teacher."と言ってその役を振ってよいのです。それだと気が楽なせいか、キャプテンはすぐ決まります。"You are our teacher."の"teacher"は固定ではありません。誰でもなれるし、また、なるようにし向けていきます。係をおくことによって、気兼ねなく聞ける環境を作ること、また、「教える」ことによって自らの学びが深まる体験を得させていくこと、等を意図しました。さらに、現在よくみられる勉強はできるが、学級の中では自分を閉じて小さくなっている子どもたちに「出番」を与えたいという思いもありました。「偉ぶって」とはじかれることを恐れていた子どもが素直に自分の力を発揮し、"Thank you.""My pleasure."のかけ合いを楽しむ風景はいいものです。英語の苦手な者ばかり集まった班では教師がサポーターになるか他の班に"teacher"の派遣を要請するように勧めました。
(3)机の配置
大体は黒板に向かった一斉授業スタイルですが、必要に応じてペア学習が入ります。「横ペア」、「縦ペア」、「斜めぺア」を授業の中で頻繁に使います。メンバーを変えたいときはゲームでToday’s partnerと出会わせたりもします。グループは必要なときだけ「座席合わせ」となります。内容によってはグループ間の合体もあります。
(4)小集団の活用
- 授業の一部を進行
各グループがローテーションで授業の復習部分(15分程度)を担当して英語で授業を進めます。前に出て英語で指示を出し、級友はその指示で動く、という体験はまさに「ことばの力」の体感です。響き合いに必要な音量・音調・態度の習得も期待しました。(この詳細については「新英語教育」’99年9月号、’00年4月号参照) - 学習内容の確認と意見交換
いわゆる「教えっこ」です。『学習記録』の中に、「○○に説明していて、自分がよくわかっていなかった」や「△△はすごい。オレちょっとやばい。勉強する」など、人との関わりがよく書かれていました。しかし、学習内容に関わる意見展開までにはなかなか至りませんでした。その原因は指導者サイドに起因する課題提起の不十分さにあったと反省しています。 - 発表
テーブルスピーチやスキット等の練習や発表をグループで行います。特に音読や暗唱、スピーチ発表等では2班合同し、教室の四角においた発表台を扇型で囲むように机を寄せあい、進行・記録等の係をおいて、「発表会形式」で行いました。これは子どもたちには好評でした。4カ所同時開催ですから、緊張感が和らぎ、発表者との距離も近いので、親密度が増す感じがあったからでしょう。合同班を変えたりしながら、回数も多く開けました。 - グループ間競争
これは達成感のある課題で所属意識や連帯感を育て、気持ちを高揚させるのがねらいです。教師のいうことには耳を傾けない子どもも仲間たちに言われると何となく腰をあげます。まさに集団の力です。"Pop Up Reading"と称して、挙手も指名もなしに、ここぞと思うところで立ち上がって音読(または暗唱)をするというイベント(教室を2分割し15分程度かけて行います)では、「班員全員ができたら、small present」という"くすぐり"を入れていたこともあってよく燃えました。得意な子どもと苦手な子どものがんばり合いや苦手な子どもがクリヤーできたときの班員の笑顔は今でも思い出せます。しかしこれも、「力」がいじめにつながる「毒」を内包しています。要注意です。 - 学習管理
宿題・家庭学習・学習用具の確認と点検、家庭での自主学習確認と結果の報告等を自己申告で「グループ日誌」に記入、それらの書かれた日誌を通しての教科担任のペンでの語りかけ等がこの中に入ります。個々の生徒の状況把握と語りかけは授業成立にとって重要です。しかし、これも行き過ぎは管理主義に陥る危険性を内包しています。常に自己警戒が必要だと思います。
3.終わりに
ペアや小集団の活動の中で「比べ・学び・追いつき・助ける」という標語をよく紹介しました。「追いつき・追い越せ」ではなく、「追いつき・助ける」が占有や孤立、異質排除を超えたSharingとLiving togetherの社会づくりにつながっていくのではないか、という期待を重ねていたからです。「学習集団づくり」への私の思いもそこに重ねていました。
尚、ここでは、学校や学年の中に「協同学習」的な取り組みがないところでの「自分の授業スタイル」づくりを中心に述べてきましたが、個人的な営みだけでは学びの保障に限界があります。子どもたち一人一人のより高い学びを保障し、「あのときはよかった」の次元を超えさせるためには、全校的な実践のスタイルが構築されていかなければならないと思います。その追求の中で、実践の喜びと苦しみを得、教育現場が元気になっていくように思います。