神奈川新英研3月例会(2023年)

2023年6月12日

■3月例会(オンライン)報告

 (文責:和田さつき)

2023年3月26日(日)午後3時~5時30分、オンライン(Zoom)開催。参加者10名。

1)小学校実践報告:

「小学校における『ことばの教育』―母語から考える英語の語順―」
  渡辺香代子さん(埼玉県幸手市立上高野小学校)。

学習指導要領に新たに加わった内容「語順」を提示する工夫として、児童にとって身近である「学年の先生」「国語科で既習の読み物」を題材にした実践。「母語による気づき」を促すことに成功している。

  • 児童にとって身近な先生が登場するお話:ラングラング星人が地球に迫っていて上山先生と阿部先生が防衛するという設定。《ラングラング星人 たおした 火星人》というメッセージが届き、《火星人 たおす ラングラング星人》と阿部先生が返信する。《上山先生 ほめる 阿部先生》《上山先生 追いかける 阿部先生》など、先生が演じている写真をPowerPointで提示。「なぞときタイム」で児童に気づいたことを書かせる。「『が』『を』がない」「述語が真ん中」などの気づきがあった。非文になる語順を伝える
  • 国語科で既習の『ごんぎつね』:物語の場面に合わせて《兵十 撃った ごん》のような自由英作文をしてもらう。
    ※参加者の意見:『ごん、撃った、兵十』という答えを書いた子どもがいて、渡辺さんは『間違えた子もいた』と言われていました。しかし、『ゴンを撃った、兵十が』と日本語の語順が自由であることを子どもから引き出しているのであれば、『誰が』がまず先に来る共通性を再確認する場が欲しかった。
  • 英語の語順はSVOと確認:サザエさんの漫画を見て《サザエさん が カツオ を 追いかけた。》
    日本語の語順だと6パタン(「…ことを」をつけてみると2パタン可能)。「英語だとSazae-san chased Katsuo.(主語 述語 修飾語)」「修飾語は述語の後にくる」と解説。※註:渡辺さんは「目的語」ではなく国語科の用語「修飾語」を使っている。

●渡辺さんとフィンランド:

フィンランドの英語教育に関心があり、小学校を訪問されており、フィンランドの小学校の様子を教えて下さった。フィンランドの生徒は廊下で靴や上着を脱いでから教室に入る。給食は自分の好きなだけとれる。職員室はソファーがあってパンやコーヒーが置かれている。見学した授業では、I canの後にkiss/swimなどの動詞をつける練習をしていた。授業の様子は先生と生徒とのやりとりが多く、深まりがある。

●参加者の感想

  • 母語から考える気づきという観点が面白くて、なるほどと思いました。小学校のことをもっと勉強しなくてはと思います。また、先生ご自身の熱量も感じました。ありがとうございました。
  • ごめんなさい。途中から入りましたので理解不足だと思いますがコメントさせていただきます。小学校の段階でメタ言語認知を深める活動で、子どもたちのコメントからもわかるように非常に効果的だと思いました。小学生高学年で協同学習的に理解の筋道を整理する習慣がつけば、さらに複雑な項目を学ぶときに自分たちで解決するようになると思います。
  • 語順に集中して日本語と英語を比べ、小学生に気付かせながら進めることは、母語を学習中の小学生には有効だと思いました。音声についても、tu/tsuやsi/shiの区別を丁寧に聞かせ、言わせてみる必要があると思います。ホームとホウム、コートとコウトの違いを口を見せながらやってみるとよいのでは?
  • 担任の先生方の写真を使ったり、架空の宇宙人「ラングラング星人」を使って、子ども達が楽しく親しみやすい設定になっていて、良い取り組みでした。国語で既習の「ごんぎつね」と新しく学ぶ英語の語順と結びつけるという工夫がありました。例会では辛口で意見を言いました。SVOの印象は残りますが、実際は英語でも強調文、倒置文もありますので取り上げすぎ(フィーチャーしすぎ)という疑問が私には残ります。また、SVOのOを修飾語と言ってしまうのはマズいと思いました。
  • オンラインの際にも申しましたが、私が日本語そのものに初めて興味を抱いたのは中2の国語の授業ででした。語順についてのあの授業ほど強く印象に残っているものはありません。今にして思えば、覚醒といった感じでした。それを小4から学ぶことができる子どもたちはラッキーです。
  • 小学生の言葉に対する深い理解に驚かされました。また、英語教育に日本語を用いることで、英語のしくみを理解できるきっかけになり得ることを知りとても勉強になりました。
  • 母語である日本語への気づきを大事にされ、それを外国語である英語に結びつける実践、とても興味深く拝聴しました。やはり、母語を活かした外国語教育が重要ですね。『新英語教育』で実践は拝見していましたが、実際にお話を伺うとまた違った景色が見えてきました。
  • 英語の語順を小学生に体感(?)させるような実践で、実例を子どもたちの親しんでいる教師が主語、目的語になって示したので、文法用語を使わなくてもスッと入っていくものになったようです。4,5,6年生それぞれに理解度が高かったのですが、中で教科書の文をあてはめさせる時に「ごん、撃った、兵十」という答えを書いた子どもがいて、渡辺さんは「間違えた子もいた」と言われていました。しかし、「ゴンを撃った、兵十が」と日本語の語順が自由であることを子どもから引き出しているのであれば、「誰が」がまず先に来る共通性を再確認する場が欲しかった。自動詞と他動詞の違いを教える際にも一層その語順は大切になる。ちょうど昨夜読んだ今井むつみさんの『ことばの発達のなぞを解く』に、赤ちゃんが他動詞と自動詞の違いを認識していく過程が書かれていて、その思いを強くしました。

2)中学校実践報告:

「学校だからできる学びを」 
  本田孝子さん(石川県能美市立辰口中学校)

今年度は中学校1年生を担当。中1の教科書の教える項目の多さもさることながら、書くことにつまずきを感じる生徒が多い。また、昨今コロナ禍でオンライン授業等が増え、「学校で学ぶことの意義」について考えるようになった。学校だからこそできる学びは「生徒がつながり合う授業」であり、「生徒同士の交流」「フィードバック」が鍵となると実践して気づいた。

●『ニューホライズンⅠ』

『ニューホライズンⅠ』ではUnit0~5は小学校で学んだことを振り返る内容。書くことの抵抗を減らすよう「定期テストで出題」「単元のまとめとしての課題作文」をしている。

  • ①クラスメート紹介:Unit 6 A Speech about My Brotherのまとめ活動。くじで選ばれたクラスメートを紹介してクイズにして交流する。
  • ②My Heroの活動:自分にとって良い影響を与えてくれる人物(場合に寄っては動物)をheroとして捉え、写真・イラストと英文でスライドにしたものをもとにポスターセッションする活動。3人称単数現在形の使い方を確認。

●参加者の感想

  • レポーターの感想:稚拙な発表でお恥ずかしい限りですが、皆様に色々ご指摘いただいて嬉しかったです。ありがとうございました。
  • My Hero Speechなど、学びを自己表現、さらにはクラスメートとの交流にまで結び付けている、新英研の目指すべき教授目標を実現しているタスクでした。生徒同士がつながる仕組みが練られたシンプルに見えるけれどもとても安心感のある内容だと思います。生徒にとっても意外な発見があったり、エンタメ性があったりしてとても楽しい授業だと思います。
  • 中学一年生は小学校の経験があるとはいえ、音を真似ることはできてもその音を文字にすることはできないのが当たり前。苦手な書くことを友達の紹介やMy Heroの課題にして交流することは身近な材料での交流になり、学校でしかできないことです。誰のことかをクイズにして書かせていますが、3~5文ならば暗記するまで練習する時間をとって最後に”Who is this?”と質問することで30人が行えば、かなりの練習になると思いました。
  • 「学校だから出来る学び」という目標が達成できている実践だと思いました。クラスメイトを紹介する英文作りとクイズを組み合わせることで、生徒達も楽しく取り組んでいる様子が伝わってきました。例会で「He is my friend.ではなく、a friend of mineが適切」のようにお話ししましたが、My friend Sam の言い方や、Sam, a friend of mine, lives in ~.のような文体もできますので、そういうことも生徒とシェアできたら良いと思いました。
  • 英語は面白いと初めて思ったのは高校時代でした。2、3年の英語担当が新英研の先生だったからです。印象的な授業がいくつかあって、その一つが自己表現です。今でも覚えているのは、川崎(私、川崎在住です)の「公害」について書いたときのPeople cannot live without clean water. という一文です。50年以上過ぎた今でも覚えています。自前の英文は長生きします。クラスメート紹介もMy Heroも長生きすることでしょう。
  • New Horizonの教科書に関してお話されており、内容の小中連携がきちんと取れているかが課題だと感じました。書くことに苦手意識を持っているとのことでしたが、小学校の外国語学習でどこまで身に付けさせるか、子どもの得意不得意等を明確にし、中学校の学習に繋げていく必要があると思いました。
  • 単元末に「書く活動」を取り入れ、その活動が「つながりとまとまりのある」英文を書く、というところに感銘を受けました。こうした活動を中学校1年生から積み上げていくことはとても有意義なことです。そして書き終わったあとに作品の共有化を行い、生徒同士が交流するというのはまさに教室文化ですね。
  • 友だちにプレゼンして、その場で付箋に言葉を残してもらうという実践は本当にいいです。生徒同士の思いやりで訪問する生徒が偏らないように配慮していることも。意見も言いましたが、フィードバックはいつでもだれにも必要なもので、自己肯定感を高めると思います。生徒の英文で、ただ例文をまねて羅列的に書くのでなく、繋がりをもって書くという指導もとてもいいと思いました。「, but…」の使い方は難しいと感じました。help forとsupport forの使い方が気になりました。

●近況をお知らせ下さい

  • 3月に定年退職。4月からは再任用として小学校の英語専科で赴任する予定です。不安ですが、また色々学びたいです。
  • 長崎にUターンして4月で5年目に入ります。今年度は長崎の被爆語り部の講話を国内外に配信する機会も増えそうです。ICUの時の教え子が西東京の高校で英語の教員になりました。6月に長崎に修学旅行に来るそうで楽しみです。
  • 4月から週に3日の授業ができることを楽しみにしています。同じ高校に3度目も!
  • サイトでこういうものを書いています。 【英語クイズ】「いちごが好き」「スイカが好き」は単数形それとも複数形? 食べ物の好き嫌いは要注意!
    https://eibumpoluther.com/whether-to-use-the-singulars-or-plurals-when-talking-about-food-likes-and-dislikes/
  • 今回の研究会は、渡辺先生にご紹介頂き参加させて頂きました。4月からは東京都の小学校で勤務する予定です。

●授業などに関して困っていること

  • タブレットを使いこなせないと教員として失格みたいな風潮を感じること。英語嫌いな生徒への手立て。
  • 新一年生の論理表現のテキストを使うことになりました。経験者のアドバイスをお願いします。

●今後の例会で取り上げてほしいテーマ、話を聞きたい講師・レポーターなど

  • 小中連携、中高連携、全国学力調査の話すこと問題
  • 英語教育の小中連携について、ALTとの連携

2023年6月12日例会2023年,神奈川

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