神奈川支部 12月例会(2023年)
2023年12月17日(日)午後3時~5時30分、オンライン(Zoom)、参加者16名。
1)中学校実践報告:「心を動かす授業づくり~折句の詩・100人村ワークショップ~」
藤本文香さん(東京・中学校)
広島の原爆の内容についても東京だとサラッと流してしまうと生徒は「そうなんだ」で終わってしまうとのことでしたが、そうならないよう「生徒の心が動くように」発問を工夫されたり、画用紙での作品作りにつなげたりされていて素晴らしい実践でした。新英研での学び(こもれび塾)が生かされていると感じました。
●レポーターから:
10年前から非常勤講師として東京都の公立中学校で働いています。主にTT授業のT2 や少人数授業の一部を担当してきましたが,教科書が変わった2021年度,初めて3年生を主担当として指導することになりました。試行錯誤の中,東京の安部直子先生,阿原成光先生の勉強会「こもれび塾」をはじめさまざまな勉強会に参加させていただきました。そこでの学びから,日々の授業を生徒たちの心に届くものにしたい,生徒たちの心が動くような瞬間を提供したいと考えるようになりました。
①「世界がもし100 人の村だったら」の体験型授業
英文から数字データを見つけるだけで世界の現状を読み取れたといえるのかという疑問から「ワークショップ版・世界がもし100 人の村だったら第6版」(開発教育協会)を使って実践を行う。「役割カード」に従い実際にグループを作ったり,クイズに答えたりしながら世界の現状を実感。授業後,ふだんは授業に参加しづらい生徒が一番に感想を提出した。何かを感じ取ってくれたのではないかと思う。
②3年間を締めくくる言葉を「折句」で表現。
豊かな自己表現をめざした1年間の授業の結晶の数々を紹介します。
●「読み取り」について
①最終目標は自己表現:自分の思いや考えをだれかに伝える。
ていねいな読み取りから,使える表現を増やすこと,内容を豊かにすることにつなげたい。
②ていねいな読み取りのために心がけていること:導入で読みたい気持ちをつくり、何のために読むかを目的として、発問を工夫。
●実践例(1)『Here We Go!』(光村図書)
導入 | 読みたい気持ちを育てる →前単元とつなげる,内容に関する写真や動画などを提示する |
目的 | 何のために読むかを明らかにする →読んだあとにどのような活動が待っているかを伝える。 「単元 MISSION」 |
発問 | 読み取りにつながる問いかけを,さまざまな方法で,あらゆる場面で行う ●音読: 強弱,速さ,気持ち,なりきり音読 例)「(音読するときの)声の高さは?」と発問する。 →内容に合わせて、モデルリーディングでも低めの声で話している。 ●内容理解課題: T/F, Q&A, Think, 次のせりふ 例)3年 Unit 3 Lessons From Hiroshima 「いちばん伝えたい単語は?」と発問する。それぞれの文で考えさせる。 「世界平和のために何が出来るか」→授業中に振り返りシートを自由に書かせて、 通信でシェアする。 例)2年 Unit 3 Plans for the Summer 夏休み課題 夏休みに調べ学習したものをポスター掲示:「原爆」「オリンピック休戦(オリンピッ ク期間中にいかなる戦争・紛争も停止するという国際的ルール)」などについて、英 文(和訳)とイラストを描かせた。 例)What Happened after Unit 3 Part 1/2? という設定で「英語で会話文を 作る+イラストを描いた」 |
協同学習 | 1人で読まなくてもいい,みんなで協力して読み取る → ペアワーク,グループワーク,リーダーズ・シアター |
●実践例(2) 「世界がもし100 人の村だったら」の体験型授業
- World Tour② How Do We Live? 『Here We Go 3!』(光村図書)
- 参考文献: 開発教育協会(2020年) 『ワークショップ版・世界がもし100人の村だったら 第6版』
※藤本さんの思い:データを読み取る単元だが「教科書にある表に数値を書き入れるだけで生徒の 心が動くのか?」「該当する数字を見つけることができること=読み取りができていると考えてよいか?」と疑問に思い、ワークショップに挑戦してもらった。
方法 | ① 役割カード配布。生徒は 1 枚ずつ「役割カード」を持ち,指示に従って動く。 Children 26% (日本 13%) → Sit down on the floor と指示→ 床に座る Adults 65% (日本 59%) → Stand up.と指示→ 立つ The elderly 9% (日本 28%) → Be seated.と指示→ イスに座る 〈役割カードの例〉
(識字率、富の再分配など)を実感する。 | ||
気づき | ●識字率について:Which one do you choose? → water/poison/medicine を カンボジアの文字で紙コップに書いて、「文字がわからないと子どもに毒を飲ませ ることになってしまうかもしれない」と話す。 ●生徒の反応:Google クラスルームで感想を書いてもらった。授業をいつも聞いてい ない男子がすぐに感想を書いてくれた。また、英語がよく出来る女子が「今日の授業 は面白かった」と感想を言ってくれた。 |
●実践例⑶ Acrostic Poem(アクロスティック ポエム 折句)
・You Can Do It!③ 3年間を締めくくる言葉を考えよう 『Here We Go 3!』(光村図書)
導入はごく簡単にして、豊かな自己表現をめざして1年間の授業を進め、最後の単元で生徒たちが詩を作った。treasure, change, youth, together, amazing, season, enjoy, badminton, smile, future, departure などを生徒は折句にしていた。
■実践例(3)についての質疑応答
参加者:badminton の折句で、Bad things and good things made me grow. と書いていた。
素晴らしい。うちの生徒だと悪いこと(bad things)があると、保健室に行ってしまったりして、学校に来なくなってしまう。
藤本さん:「こもれび塾」の先生方だったら、自己表現までもっていくだろうと思って、教科書の4つの詩を読んで、書いて(描いて)みようと。画用紙に描くのは、今までの積み上げがあってできた面がある。
●おわりに:
生徒たちに助けられながら無我夢中で走り抜けた1年間でした。その後も順に中学1年生,2年生を担当していますが,読み取りを自己表現に結びつけるための読解力や文法知識の定着,全体的な英語力の底上げなど,取り組むべき課題は常に山積みです。今後もさまざまな実践から学びをいただきながら,目の前の生徒たちを大切に,一つ一つの課題に向き合い,ていねいな指導を心がけたいと考えています。
●参加者の感想
- 詩の完成度の高さがよくわかった。また、中学校で使用している100 人の村のテキストでは思いのほか難しい語句が使われていたがそういった語句の指導はどういう風に行っているのかさらに時間があれば聞いてみたかった。
- 中学生という、非力なのに生意気で背伸びしたがる、言いたいことと裏腹なことを言ったりするような年代を相手にしていること自体、すごいことだと思います。
- 丁寧な読み取りから自己表現へつなげていく実践は、中学生に英語を学ぶ意義を感じさせ、外国語を習得する喜びを感じさせるものだと思いながら、聞いておりました。何かを読むときに、生徒の読みたい気持ちを呼び起こすような導入、そして、何のために読むのか、という目的をはっきり伝え、さまざまな問いを投げかけて読みを深めることなどは、大学生を対象としたリーディング授業でもぜひいつも心がけたいことだと思いました。原爆ドームの前を走る市電651 号の写真を見せて、教科書の写真の慰霊碑の奥の原爆ドームをみつけさせ、実に細やかで生徒思いの授業準備をされていることに感動しました。先生のそういう姿勢はきっと生徒たちを英語好きにすると思います。
- 中学 3 年生の教科書 Here We Go を使った実践でした。教科書の流れに沿っていながらも、「豊かな自己表現につなげるため」に授業をするという方針が良かったです。Unit7の、Lessons from Hiroshima の学習の後に教科書巻末にある「もしも世界が 100 人の村だったら」のページを使い、また関連する開発教育協会発行のワークショップ版の「動いて体験できる」を参考に生徒に体験させたことで、より具体的は世界の現状(貧富の差他)が理解できていたように思いました。会話中心のページが多くなっているような現行の教科書で、オプショナルなページに追いやられている教材に、着目できるのは普段の研修の賜物ではないかと思います。マニュアル通りでは生きた授業は難しいです。
- 全国大会の第 2 分科会でもお聞きして、100 人村のワークショップを 34 人用にした実践を聞きましたが、今回はもう少し時間が長くなり、より具体的に聞くことができてよかったです。教科書教材の導入では、写真の持つ力を上手く取り入れて生徒を引き付けていられます。折句も今日改めて見せてもらい、生徒の創造性の素晴らしさを感じました。限られた時間数でもやれることを工夫して、生徒の心を動かす授業に取り組んでいて、すばらしいです。
- 五行詩以外にも折り句というものがあったんですね。メッセージ活動に向いていそう。
2)高校実践報告:「読解とスピーチにひと工夫~ちゃんと読む・話す~」
小原百合子さん(静岡・浜松湖東高等学校)
「教科書をちゃんと読む」ための仕掛けとして「ノート作り」(左に授業プリントを貼る、右に授業中のメモ)を指導されていて、生徒にとって安定していて取り組みやすく工夫のある実践報告でした。
●レポーターから:
教科書をちゃんと読むとは、
- 情報を整理したり、まとめたりできる。
- 文章の流れ(時系列、課題⇒解決、抽象⇒具体など)や、筆者の意見を読み取れる。
- 内容について、推測したり、考えたりすること
だと考えます。
英語を自分の言葉としてちゃんと話すとは、
- 情報や自分の考えを伝えるために、英語を話す。
- 発音できても、自分で自分の言っている内容はわからん…から脱却しよう
と授業を組み立てています。
方針 | 教科書をちゃんと読む=答え探し(T/F や Q&A の答えを探す)にならないようにする 授業でワークシートを使って内容理解させて「ノート作り」 →音読練習・単語クイズで知識定着 「ノート作り」=左に授業プリントを貼る、右に授業中のメモ。 |
実践① | 教科書『Vivid Ⅱ』 Lesson 6 Nature for Next Generation Q(発問)「小笠原諸島の環境保全に関して責任を誰が取るか?」 →答えの選択肢+根拠となる英文抜粋 2 時間のグループ(3人)活動:小笠原諸島の HP にある英語版パンフレットを抜粋し て印刷して配布。読むところを分担して内容理解。小笠原諸島の観光案内所職員に なったつもりで旅行者の質問に答える想定。 Q(発問)「どのくらいの頻度で船は出ますか?」「船内で携帯使えますか?」「夏のハ イキングの準備は?」 宿題で予習・復習で単語調べ、summary |
実践② | Peace Speech ①The Peace Book を使って、ブレインストーミングする。 ②What is peace? Peace is learning another language. Tell me more. を 問いかける。ALT の先生の模範例を見て、自分の答えを書く。 ③スピーチの雛形に合わせて書く。 |
●参加者の感想
- 高校生のスピーチの動画がすごく良かった。原稿を用意しているがずっと下を向くのではなく適宜アイコンタクトをとれているのが良かった。読解も英作文もスピーキングもリスニングもかなり力を付けさせられるように指導しておられることがわかった。
- 丁寧にプランを立てて、自分の血肉として英語を使わせようとする姿勢にとても共感します。最後に参加者が言われたように、何もかも英語で表現させようとせず、日本語で内容について論じあって核心部分を英語にしてみる、のもよさそうだなと思いました。
- 教科書をちゃんと読む、英語を自分の言葉としてちゃんと話す、という目標をしっかりと沿ってなされている緻密な授業構成に感心いたしました。だれの責任か、というところの読み取りは、生徒の理解が甘いであろうところを見事についた問いでした。「課題から解決へ」「抽象から具体へ」というような流れが文章にはあるのだということをご指導され、筆者の意図を読み取れるように、また、情報を整理し、考える力をつけるリーディング授業は本当に素晴らしかったです。
- 高校2年生の英語コミュニケーションⅡの読み取りの授業を、「ちゃんと読むこと」を目標に、情報整理(時系列でまとめる、課題と対策方法、抽象的文章から具体例を、作者の意図を推測、など)、ワークシートを独自に作成し、それをノートに貼らせて、書き込むことは、動画ばかり見て書く機会の減っている生徒にはよい指導法だと思います。私もB5 判で作ったシートをA4 版のノートに貼ることで、整理の苦手な生徒に対応したことがあります。また、読み取りの文章でも一部の段落を教科書を見ないでdictation の教材にすることも、良い工夫だと思います。耳からの情報だけでsound とspelling の関係を確認することが重要だと思うからです。
- 全国大会で何回かレポートをお聞きしましたが、教科書をちゃんと読む、自分のことをちゃんと話すという基本を身につけさせたいと、ノートづくりや草稿づくりに丁寧な手立てをとっていられることが分かりました。しかし、小原さんのお話にはユーモアセンスがたっぷりあり、授業のようすは生徒を引き付けているのだろうと思われ、その話し方も聞いてみたい気がしました。
- 読解の段階で、生徒何人かで相談して発表するってのもありなんじゃないかな。その発表を聞いて、ほかの生徒がつつく、っていう形。
■参加者の近況
- 大学で英語を教えていますが、今回の実践報告に出てきた生徒の英作文に比べてまだまだ学生の書く英語のレベルが低いので英語が苦手な学生の英語力を底上げしていきたいと思っていろいろ試行錯誤しています。
- 受験のことを考えなくてもよい学校で、大村はまの実践に学べることをあれこれと考え、探しています。
- 福島のへき地の小学校を年に3回訪問し、7名の6年生クラスで、ネパールとの異文化理解をするビデオレター交流の授業を手伝っております。2 月には、ネパールの山奥の小学校へ福島の子どもたちが作ったビデオレターを届けにでかけます。電気もきたり、こなかったりというへき地だそうですが、そういうところの子どもでも、iPad を渡すと、あっという間に撮影方法や編集方法を理解して、楽しくビデオを作るそうですので、その様子を初めて見られることを楽しみに行ってまいります。
- 年末の授業はクリスマスカードと年賀状を英語で書かせて、イラスト(写真)付きで提出する課題を出しました。消化授業にしたくないので、それぞれの行事の相違も考えさせました。図書館での授業では「私の推す一冊(又は映画)」というテーマで紹介文を色画用紙に書かせて交流しています。
- 明けても暮れても翻訳しています。面白くて、面白くて。
■授業などに関して困っていること
- 英語を学ぶ習慣がないまま進学した学生がいるので、大学でも中学校の英語の定着が不十分な学生がいて指導に苦労しています。
- 生徒がタブレットを使うと、翻訳機にとびついてしまい、基礎力がないのに英文が完成してしまうこと。
- 大学で、2 年生秋学期から1 年間アメリカへ留学するプログラムに在籍する学生たちを教えていますが、自分の言いたいこと、深い内容を英語ですぐに言える力をつけることの難しさを感じております。
■今後の例会で取り上げてほしいテーマ、話を聞きたい講師・レポーターなど
- 英語が苦手な学生に対する指導がどうすればうまくいくのか話を聞かせていただきたい。
- 佐々木忠雄さん(宮城・高校)の実践。英語を通じて日本語も豊かに。
- 生徒が翻訳アプリにすぐに頼るということが問題のようですので、どのように有意義にChat GPTや翻訳アプリを使わせるかの実践を伺いたいです。
- 語彙指導
●日時:
2023年12月17日(日)午後3:00~5:30
3:00 ~ 入室開始
3:10 ~ 3:55 中学校レポート
3:55 ~ 4:10 質疑応答
4:20 ~ 5:05 高校レポート
5:05 ~ 5:20 質疑応答
5:20 ~ 5:30 事務連絡・アンケート記入
●実施方法
オンライン
●参加条件:
神奈川支部会員、事務局が参加を認めた方
●参加申し込み:
会報担当・和田にメールを下さい。 URL、IDとパスコードを送ります。●内容(実践報告)
中学校実践報告
「心を動かす授業づくり〜折句の詩・100人村ワークショップ〜」
藤本文香さん(東京・中学校)
①「世界がもし100人の村だったら」の体験型授業
英文から数字データを見つけるだけで世界の現状を読み取れたといえるのかという疑問から,「ワークショップ版・世界がもし100人の村だったら第6版」(開発教育協会)を使って実践を行う。「役割カード」に従い実際にグループを作ったり,クイズ に答えたりしながら,世界の現状を実感。授業後,ふだんは授業に参加しづらい生徒が一番に感想を提出した。何かを感じ取ってくれたのではないかと思う。
②3年間を締めくくる言葉を「折句」で表現
豊かな自己表現をめざした1年間の授業の結晶の数々を紹介します。
高校実践報告
「読解とスピーチにひと工夫〜ちゃんと読む・話す〜」
小原百合子さん(静岡・浜松湖東高等学校)
教科書をちゃんと読むとは、
- 情報を整理したり、まとめたりできる。
- 文章の流れ(時系列、課題⇒解決、抽象⇒具体など)や、筆者の意見を読み取れる。
- 内容について、推測したり、考えたりすることだと考えます。
英語を自分の言葉としてちゃんと話すとは、 - 情報や自分の考えを伝えるために、英語を話す。
- 発音できても、自分で自分の言っている内容はわからん…から脱却しようと授業を
組み立てています。
★次回以降の神奈川支部例会 ZOOM によるオンライン例会を予定しています。