『学習指導要領』及び大学入試に対する意見(2021年)
Ⅴ.多様な外国語学習の保障について-「外国語」の科目-
1.公教育は、必修教科「外国語」において「英語一辺倒」の外国語教育から脱却し、多様な外国語の学習を保障すべきであること。
2002年の『中学校学習指導要領』改訂で「外国語」が必修教科となった。引き続き「外国語科においては、英語を履修させることを原則とする」と規定された。今回、『小学校学習指導要領』でも「外国語活動においては、(中略)英語を取り扱うことを原則とする」、「外国語科においては、英語を履修させることを原則とする」と記述された。これは誤りであり、その誤った規定を「既成事実」化しようとしていることは、誠に遺憾である。
私たちは、2001年度の大会において、学校教育、なかでも初等中等教育において行われるべき言語教育の目的について話し合った。その結果、本「意見」22頁の資料「言語教育・外国語教育に関する私たちの見解」の内容について共通の認識をもっていることを確認し、公表した。現在に至るまで、大会を開催するたびに、これが共通の認識であることを確認した上で議論している。「基本計画」に「英語をはじめとした外国語教育の強化」という文言が入った。必ずしも十分とは言えないが、「英語以外の外国語」に言及したことは評価する。加えて、『高等学校学習指導要領解説 外国語編 英語編』(『小学校学習指導要領解説 外国語活動・外国語編』、『中学校学習指導要領解説 外国語編』も同様の記述)で「英語以外の外国語教育の必要性を更に明確にすること」と記されたことも注目に値する。
以前の『中学校学習指導要領』において「外国語」が「英語」「ドイツ語」「フランス語」「その他の外国語」という科目によって構成されていたものが、いかなる理由によって「英語」に限られなければならないのであろうか。「前答申」は「小学校段階における外国語活動」の中で、「アジア圏においても国際的な共通語としては英語が使われていることなど、国際的な汎用性の高さを踏まえれば、中学校における外国語は英語を履修することが原則とされているのと同様、小学校における外国語活動においても、英語活動を原則とすることが適当と考えられる。なお、小学校段階においては、幅広い言語に触れることが国際感覚の基盤を培うことに資するものと考えられることから、英語を原則としつつも、他の言語にも触れるように配慮することが望ましい」としている。「他の言語にも触れるように配慮することが望ましい」としながらも、上記のような狭い考え方で、全国民に中学校段階も含めて「外国語」として「英語」しか学習させないというのは誤りである。
中学校段階で「外国語」を学ぶことの意義は大きい。母語以外の言語の存在を知り、その言語を用いて日常生活を営んでいる人々の文化をその言語を通じて理解し、また、その言語を実際に使用することによってさらに理解を深める、ということにより学習者の視野は実に広く豊かなものになる。これは他の教科には期待できない教育効果である。そして重要なのは、この期待される教育効果は「英語」でなければ達成できないものではなく、どの外国語によっても等しく達成可能であるということである。
そのような中で「実施計画」が公表された。「グローバル化に対応した」と言いながら、その他の言語の教育に関しては、一切言及がない。さらに、「五つの提言」は「現在、学校教育で学ぶ児童生徒が卒業後に活躍するであろう2050(平成62)年頃には、我が国は、多文化・多言語・多民族の人たちが、協調と競争する国際的な環境の中にあることが予想され、そうした中で、国民一人一人が、様々な社会的・職業的な場面において、外国語を用いたコミュニケーションを行う機会が格段に増えることが想定される」と述べている。ぜひとも、多様な外国語学習を保障すべきである。「論点整理」も「新興国をはじめとする非英語圏の国々とのつながりも重要性を一層増しており、英語以外の外国語についても、引き続き専門的な検討を行うことが求められる」と記している。さらに、「答申」は「グローバル化が進展する中、日本の子供たちや若者に多様な外国語を学ぶ機会を提供することは、言語やその背景にある文化の多様性を尊重することにつながるため、英語以外の外国語教育の必要性を更に明確にする必要がある」と述べている。ぜひとも以前の『中学校学習指導要領』にあるような記述を強く望む。なお、2018年度予算から「グローバル化に対応した外国語教育推進事業」が計上(実質は「多様化事業」の復活)されたことは大いに歓迎すべきことである。来(2022)年度予算にも「英語以外の外国語」が計上されていることは歓迎する。コロナ禍等によって、継続が危ぶまれているが、ぜひとも継続することを強く望む。
また、文部科学省は「スーパーグローバルハイスクール」や「WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業」を指定している。特定の高校を優遇することによって、一般の高校生が不利益をこうむろうとしている。むしろ全ての学校において十分な学力を保障すべきである。
2.「英語」以外の外国語の扱いを改めること。
「英語」以外の外国語については、『中学校学習指導要領』は「英語」の指示の次に「その他の外国語」として「その他の外国語については、英語の1に示す五つの領域別の目標、2に示す内容及び3に示す指導計画の作成と内容の取扱いに準じて指導を行うものとする」という指示があるのみである。また、『高等学校学習指導要領』は「第8節 その他の外国語に関する科目」として「その他の外国語に関する科目については、第1から第6まで及び第3款に示す英語に関する各科目の目標及び内容などに準じて指導を行うものとする」としている。しかし、個々の言語はそれぞれの特性を持つものであり、「英語」に関する指示が必ずしも他の言語に適用できるというものではない。
以前の『中学校学習指導要領』は「英語」に関する指示の次に「ドイツ語」「フランス語」に関する指示があり、次に「その他の外国語」について「英語、ドイツ語及びフランス語の各学年の目標及び内容に準じて行う」との指示がある。これと比較しても、「その他の外国語」に関する指示は「英語を履修させることを原則とする」と規定することとも相まって、英語以外の外国語を軽視しているとしか考えられない。一つ一つの言語にはそれぞれ固有の特徴があり、それこそが学ぶべきものである。
また、『高等学校学習指導要領』の「第1章 総則 第2款 教育課程の編成 3 教育課程の編成に関する共通的事項 (1) 各教科・科目及び単位数等 イ 各学科に共通する各教科・科目及び総合的な探究の時間並びに標準単位数」にある表の教科「外国語」の科目に、「英語に関する科目」しかないのも問題である。例えば、「中国語」「朝鮮・韓国語」「フランス語」「スペイン語」「ドイツ語」「ロシア語」「イタリア語」「ポルトガル語」「その他の外国語」などと併記すべきである。