『学習指導要領』及び大学入試に対する意見(2021年)

2024年6月11日

Ⅱ.「実施計画」及び「五つの提言」等に対する意見

 「実施計画」は「初等中等教育段階からグローバル化に対応した教育環境づくりを進めるため」と言いながら、「英語教育改革実施計画」を策定するとは以ての外である。詳しくは後述するが、「グローバル化」と言うのであれば「多様な外国語」の学習を保障すべきである。併せて、「五つの提言」は「アジアの中でトップクラスの英語力を目指すべき」とあるが、言語道断である。

 加えて、「2020年(平成32年)の東京オリンピック・パラリンピックを見据え、新たな英語教育」と述べている。これは「特定の」事業のみを教育改革の理由としており、大いに遺憾である。さらに、文部科学省は2015年6月5日に「生徒の英語力向上推進プラン」(以下「プラン」)を公表した。これも同じ流れを汲むものであると言わなければならない。それを受けて、2020年7月15日に文部科学省は「令和元年度 英語教育実施状況調査」(以下「調査」)を公表した。「英検」のような「外部検定試験」に公教育の評価を委ねることは本末転倒である。
 「実施計画」でも体制整備のために「外部検定試験」の活用が言及されている。上級学校への進学や単位認定、就職、さらに教員採用・研修・評価等に「外部検定試験」がますます使われてきており、すでに学校教育の「外部」依存による公教育の「歪み」が進んできている。このままでは、さらにその傾向が強くなることは言うまでもない。
 「実施計画」は「2.新たな英語教育の在り方実現のための体制整備(平成26年度から強力に推進) ○中・高等学校における指導体制強化」で「※全ての英語教員について、英検準1級,TOEFLiBT 80点程度等の英語力を確保」、「小・中・高の各段階を通じて英語教育を充実し、生徒の英語力を向上(高校卒業段階で英検2級~準1級、TOEFL iBT57点程度以上等)→外部検定試験を活用して生徒の英語力を検証するとともに、大学入試においても4技能を測定可能な英検、TOEFL等の資格・検定試験等の活用の普及・拡大」としている。さらに、「五つの提言」は「生徒の英語力を把握し、きめの細かい指導の改善・充実や生徒の学習意欲の向上につなげるため、従来から設定されている英語力の目標(学習指導要領に沿って設定される目標(中学校卒業段階:英検3級程度以上、高等学校卒業段階:英検準2級程度から2級程度以上)を達成した中・高生の割合50%)だけでなく、高等学校段階の生徒の特性・進路等に応じた英語力、例えば、高等学校卒業段階で、英検2~準1級、TOEFLiBT 60点前後以上等を設定し、生徒の英語力の把握・分析・改善を行うことが必要」と述べている。さらに、「プラン」では2024年度に「中・高生の割合70%」とした。「全国学力・学習状況調査」と同様に、「調査」で英検取得率などの都道府県別データも公表した。それを基に2016年度からは、都道府県ごとに「英語教育改善プラン」を策定・公表することになっている。国内外の民間団体が提供している英検、TOEFL等のスコア等を生徒や教員の目標値として一律に設定している。例えば、「英語検定2級」が「高校卒業程度」であるとしているのにもかかわらず、「準1級」までをも「高校卒業段階」で求めている。このように「学習指導要領」とは整合性がない「外部検定試験」を利用することで、大いに矛盾が生じている。支離滅裂である。そもそもこの調査は実態を反映していない。生徒の「取得者」数は、受験していなくても英語教員が「それ以上の力がある」と判断した数を含む。また、教員の取得率は受験したことのない教員を含めた全教員数中の取得率なのだから、あたかも平均的な英語力であるかのような扱いは言語道断である。さらに言えば、「外部検定試験」では「英語力」の一部しか測れない。例えば「英語力」を「コミュニケーション力」と定義すれば、話す内容、態度、人間関係を築く力など、「外部検定試験」では測定できる力ではない。さらに、教員の「英語力」と教育力は別物である。世界についての常識や教養を踏まえた「本物の英語力」であればある程度の関連はあるだろうが、「外部検定試験」で測る「英語力」は、教育力とは異なることを認識すべきである。加えて、大学の卒業要件等で「外部資格・検定試験の活用」が行われているが、いずれも誤りである。そのための「受験料」等は多くは受益者負担となっていることも指摘しておく。すでにこれを目標・目的にした教育が始まっており、「拡大化」を助長している。そのためか、「行動指針」はたった2回の会議で作成された。これは外国語教育の目標を矮小化するものであり、断じて容認できない。
 さらに、「実施計画」は「グローバル化に対応した新たな英語教育の目標・内容等(案)」でヨーロッパのCEFRをも無理やり持ち込んできている。「複文化・複言語主義」の考えで作られたものを「英語」という「一言語」のみに特化しようとしている。「CAN-DOリスト」も「国際共通語としての英語力向上のための5つの提言と具体的施策~英語を学ぶ意欲と使う機会の充実を通じた確かなコミュニケーション能力の育成に向けて~」(以下「提言」)を受けて推進されようとしている。日本では、現場の意見や理解なしに、本来の趣旨にない「競争」のための基準として、使われようとしている。また、「教育課程企画特別部会 論点整理(2015年8月、以下「論点整理」)」は「国が示す教育目標を踏まえ、各学校が具体的な学習到達目標(CAN-DO形式)を設定し、児童生徒にどのような英語力が身に付くか、英語を用いて何ができるようになるかなどが明確になり、指導と多面的な評価の一体化とそれらの改善が図られる」と述べている。加えて、「五つの提言」では踏み込んだ言及がなされている。「学習到達目標」の設定については一律に現場に持ち込むべきものではなく、各学校や教員に委ねるべきである。
 さらに重要なことは、「答申」にあった「国際的な基準であるCEFRなどを参考に、段階的に実現する領域別の目標を設定」、「各学校においては、国が外国語の学習指導要領に定める領域別の目標を踏まえ、更に具体的に各校の学習指導目標を設定」つまり「CAN-DOリスト」が「アクティブラーニング」と併せて今回公示された『学習指導要領』上に記されていないことである。
 公教育における外国語教育の改善を実現するためには、教員養成制度を含む総合的な公教育制度を確立し、その上で各教員が担当する学習者の人数を削減し、個々の学習者が質の高い外国語指導を受けることができるようにすることが最も重要である。そのための方策として、行政が学級定数の削減こそを最優先の課題として取り組むことを要望する。教員定数増による「クラスサイズ」の縮小に手を付けずに、「外部」依存のみで外国語(英語)教育を変えようとしても無理である。無駄である。
 これに先だって、「第2期教育振興基本計画について」(2013年6月閣議決定)は「基本施策1 確かな学力を身に付けるための教育内容・方法の拡充」を掲げ、【主な取組】1-1で「(前略)外国語教育の充実のため、指導体制・教材等の整備や効果的な指導方法に係る情報の収集・提供などの支援に取り組む(後略)」と述べている。そして、「基本施策25」では「『義務教育諸学校における新たな教材整備計画』に基づく計画的な教材の整備や観察・実験、実習等の教育活動を充実させるための施設・設備の整備、協働型・双方向型の授業革新や校務能率化に向けたICT環境の整備(中略)を図る」としている。私たちは外国語科が「実技教科」の側面を持つと認識している。「外国語教育」を充実させるためには、「基本施策25」で述べているように、国による十分な財政措置を含む環境整備をすべきである。ただし、「五つの提言」が「ICT予算に係る地方財政措置を積極的に活用し、学校の英語授業におけるICT環境を整備」としている点は誠に遺憾である。改めて、今回のコロナ禍で、国が予算処置を講じて、積極的に整備すべきであることが立証された。
 なお、「実施計画」が「外国語教育」ではなく、「英語教育」としている点は当然ながら甚だ遺憾である。
 付言すれば、小中高等学校における教育課程の詳しい検証なしに、次の教育課程を検討したことは言語道断である。外国語教育の素人である人たちが的はずれの発言を繰り返し、影響を与えることは大いに遺憾である。また、「実施計画」を受けて、「英語教育の在り方に関する有識者会議」(以下「有識者会議」)が設置された。学校教育における特定の教科について目標設定の在り方をはじめ、具体的指導方法等に関する提言を目的とした検討会の類が設置されることは極めて異例のことである。しかも「グローバル化」と言いながら、外国語教育全般を対象とするのでなく、「英語」教育の指導方法等の改善という極めて限定された問題のみを審議対象とすることは、外国語教育を一層歪めるものであると言わざるを得ない。さらに付け加えて言えば、『学習指導要領』の一部が中教審や上記の有識者会議での審議を経ないで作成されたこと(詳細は後述)は大いに遺憾である。また、「教育再生実行会議」はその任を終了し廃止されて、「新たな会議」が開催されるようであるが、例えば次のⅢ.で述べるように今後「政治主導で」教育政策が進められないことを強く望む。

2024年6月11日知2021

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