『学習指導要領』及び大学入試に対する意見(2021年)
ⅩⅤ.ネイティブ・スピーカー(ALT)について
『学習指導要領』は「ネイティブ・スピーカーや英語が堪能な地域人材などの協力」というが、「ネイティブ・スピーカーの協力」によってどのような効果が上がっているのかが不明な点もある。以前の改善協大会でも必ずしも肯定的な意見ばかりではなかった。そもそも、「ネイティブ・スピーカー」とは誰か。例えば、「英語」の「ネイティブ・スピーカー」とは英国、米国、カナダ、オ-ストラリア、ニュージーランドなどで生まれ育ち、「英語」を母語とする人を指していると考えられる。しかし、多様な外国語の学習の必要性があること、英語一つとっても実際に様々な英語が用いられていることなどを考慮に入れると、いま規定したような「ネイティブ・スピーカー」でなくても例えば、外国語教育および教育そのものについて十分な見識を有する適切な人で、事前および採用後も十分な研修を受けられる資格を満たしていれば外国語教育を担うにふさわしいと言うべきである。なお、1987年以来長年行われてきた「JETプログラム」やALTの活用が、有効であったかどうか明確でない。昨今の偽装請負問題に象徴されるようにALTの雇用・契約形態には問題がある。さらに、 現場の意向を尊重することも含め、再検討が必要である。受け入れ校の意向を尊重したり、「ネイティブ・スピーカー」の人権を尊重したりする点から過重な勤務状態にならないように、十分な人的配置・財政措置を講じるべきである。
また、今回の『学習指導要領』では「ネイティブ・スピーカーなど」が「ネイティブ・スピーカーや英語が堪能な地域人材など」と書き換えられた。『中学校学習指導要領解説 外国語編』は「ALTのほかに、地域に住む外国人、外国からの訪問者や留学生、外国生活の経験者、海外の事情に詳しい人々などの幅広い人々が考えられ、これらの人々の協力を得ることが、『生徒が英語に触れる機会を充実』し、『授業を実際のコミュニケーションの場面とする』ことに資する」としている(『小学校学習指導要領解説 外国語活動編』は「外国語が堪能な人々」も含め同様の記述、『小学校学習指導要領解説 外国語編』も同様の記述、『高等学校学習指導要領解説 外国語編・英語編』も同様)。さらに、「提言」にも「優秀な外国人や、海外で実務経験を積んだり、海外の大学を卒業したりするなどして高度な英語力を持つ日本人」などの記述、「五つの提言」にも「『外部専門人材』の活用」とある。この安易な発想は誤りである。これでは、私たちは「『外部専門人材』の活用」を拒否せざるを得ない。なぜならば、彼らは外国語教育の専門家ではないからである。どのような素人でも外国語を話す能力さえあれば、教育力があるとは言えない。教師が専門家であることを認めなくてはならない。
なお、「五つの提言」に「2019(平成31)年度までに、すべての小学校でALTを確保するとともに、生徒が会話、発表、討論等で実際に英語を活用する観点から中・高等学校におけるALTの活用を促進」、「答申」に「平成31年度までに、その質を確保しつつ、全ての小学校にALT等が参画できるよう支援を行う必要」とあるが、上述の理由で各学校現場の意向に応じた配置が必要である。私たちは、かねてより「教育職員免許法」に基づく教員を十分に確保すべきであると提言している。
すでに、東京都教育委員会は2015年度から「JETプログラムによる外国人の招致を100人から200人に拡大するとともに、外国人指導者として在京外国人の更なる活用を図り、教員と外国人指導者による指導を充実」することによって、都立高校等で強制的に「原則として全ての生徒が外国人による指導を受けられるようにする」こととした。誠に遺憾なことである。
今回のコロナ禍でも、ネイティブ・スピーカーを十分に確保することが困難になることが明らかとなった。この際、一律に強制的に配置することは止めるべきである。