『学習指導要領』及び大学入試に対する意見(2021年)
ⅩⅣ.「外国語」担当教員の養成・採用・研修等について
今回、中教審特別部会教員免許更新制小委員会が教員免許更新制の廃止を打ち出したことは大いに評価に値する。ただし、研修受講履歴管理システムを新しく導入することを検討していることが、多忙化の中で教員への新たな負担増につながるのではないかとの懸念が生じる。
中教審は2015年12月21日に「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について~学び合い、高め合う教員育成コミュニティの構築について~」を答申した。この中で「教員育成協議会(仮称)」の創設、「教員の育成指標」の策定や教員採用試験における共通問題の作成を打ち出してきている。これでますます型にはまった教員を作ることになりかねない懸念が生じている。中でも教職課程の編成に当たり参考とする指針(教職課程コアカリキュラム)の整備を受けて、文部科学省は教職課程の再課程認定を行い、「教職課程コアカリキュラム」が各科目の授業シラバスにまで細かな統制を加えたことは誠に遺憾である。教員養成の根幹に関わる重大な問題である。また、「Society5.0時代に対応した教員養成を先導する教員養成フラッグシップ大学の在り方について(最終報告)」(2020年1月23日)にある教員養成フラッグシップ大学をごく少数の拠点大学に限定して選定を行うことは、開放制を否定するものであり、許しがたい。
「教職生活を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について審議経過報告」(2011年1月31日、以下「審議経過報告」)は「今後10年間に、教員全体の約3分の1、20万人弱の教員が退職し、経験の浅い教員が大量に誕生することが懸念されている。これまで、我が国において、教員の資質能力の向上は、養成段階よりも、採用後、現場における実践の中で、先輩教員から新人教員へと知識・技能が伝承されることにより行われる側面が強かったが、今後は更にその伝承が困難となることが予想される」と言う。教員養成の修士レベル化や教員免許更新制が教師の資質向上につながるかどうか、はなはだ疑問である。「教職生活全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について(答申)」(2012年8月28日、以下「向上方策」)は「教職生活全体を通じて、実践的指導力等を高めるとともに、社会の急速な進展の中で知識・技能が陳腐化しないよう絶えざる刷新が必要であり、『学び続ける教員像』を確立する必要がある」と、述べている。また、「特に、教科や教職に関する高度な専門的知識や、新たに学びを展開できる実践的な指導力を育成するためには、教科や教職についての基礎・基本を踏まえた理論と実践の往還による教員養成の高度化が必要である」と言う。研修とは「教育公務員は、その職務を遂行するために絶えず研究と修養に努めなければならない」(「教育公務員特例法」第21条)というように、まず、自主的・自発的研修が行われなければならない。「前答申」も「教材研究や授業研究、教師同士の相互評価といった取組は、教師の資質の不断の向上にとって極めて重要である」と言っている。同感である。「教師の資質向上」のためには自主的・自発的研修を充実すべきである。「教員は学校で育つ」(「資質能力」)とあるが、当然のことだと考える。
「前答申」は「意欲をもった優秀な人材が、教師という職業に魅力を感じ、教職に就くようになるためには、教員の勤務の実態を踏まえた適切な処遇とメリハリのある給与体系の実現や教員評価の処遇への反映」が課題と言う。「教員の勤務の実態を踏まえた適切な処遇」に関して、中教審への「諮問(2010年6月23日)」の中でも「教職員定数の改善など教員の数の充実」がうたわれている。しかし、「審議経過報告」や「向上方策」では触れられていない。ましてや、「実施計画」や「五つの提言」でも全く述べられていない。「資質能力」もOECDの国際教員環境調査(以下TALIS)を引用して、「『もう一度仕事を選べるとしたら、また教員になりたい』と回答した(中略)我が国の教員の割合は58.1%と参加国中最低レベルであるほか、教職が社会的に高く評価されていると思う教員の割合も28.1%と低いレベルにある。」と記している(なお、2020年3月に「中学校教員の4割が業務に関するストレスを感じている。」と公表され、参加国平均より1割多い)。ところが、「メリハリのある給与体系の実現や教員評価の処遇への反映」は「学校教育法」等の改正による「副校長その他新しい職の設置」を考え合わせると、自ずと教員の「ランク付け」となり、「教師集団」の協力を壊すことになって、教育現場にふさわしくない。さらに、「教員免許更新制」に要する時間が現在の業務時間に加わり、教員ひとり当りの校務にかかわる業務が以前にもまして増加した。前回の教育課程改訂によって授業時数が増加したが、ますます授業のための準備時間が奪われ、より優れた授業を実現しようとしている教員の意欲は殺がれる、という状態が一層深刻なものとなった。学校現場では都道府県によっては教科によって「持ち時間」が決められるため、業務時間において教員間に差が生じてきている。過労死認定基準と言われる月80時間を越えるのは全国で常態化しており、東京では月300時間を越えた例が過去の大会で報告された。最近の「TALIS」によると、日本の中学校教員の平均勤務時間(週56.0時間)は前回調査より2.1時間長く、参加48カ国・地域の平均(週38.3時間)の約1.5倍となり、大幅に上回っている。「超過勤務」である。文部科学省も「学校における働き方改革に関する緊急対策について」を通知(2017年12月26日)した。しかし、2017年4月28日に公表された文部科学省の「2016年度の公立小中学校教員の勤務実態調査(速報値)」結果を待つまでもなく、教員が「ブラック職業」であることは顕著であり、その象徴とされる部活動についても、ようやく「休養日」や「部活動指導員」の導入を考え始め、「指針」の策定も行われた。一昨年度の大会でも、現場教員からは「『多忙化』のために授業準備が一番後回しになってしまう」などの悲鳴にも似た声が聞かれ、教育の質の低下を招いていると言わざるを得ない。「少子化」で1校当たりの教員数が減り、その結果、教員一人当たりの校務にかかわる業務が増加している。また、「少人数授業」のため複数学年を担当せざるを得ない教員数が増加し、そのために授業運営のための準備時間が奪われて、より優れた授業を実現しようとしている教員の意欲を殺いでいる。前述の最新のOECD調査によれば、中学校教員の勤務時間に占める授業の割合は調査可能な22カ国・地域中4番目に低い36平均44%)だった。これは、外国語教育はもとよりわが国の教育にとって重大な問題と言わざるを得ない。いやしくも今回「教師のバトン」によって暴露されたことは明白である。さらに、最近さいたま地裁は判決に「給与体系の見直しなどを早急に進め、教育現場の勤務環境の改善が図られることを切に望む」と異例の付言をした。なお、私たちは「『学習指導要領』は教員のための一つの指針として位置づけ、その内容を概要にとどめ、教員や教科書その他の教材などを規制することのないようにすべきである。」の立場である。しかし、新しい『学習指導要領』が求めている授業を展開するためにはそれなりの準備時間等が必要なことは至極当然である。それに関しては判決が無視したことには異議を唱えたい。以上のことが若い人材を教育職から遠ざけてしまう一因となっている。「計画」は「教職の魅力を発信するとともに、学校における働き方改革の実現により、教師がその能力を最大限発揮できるようにすることで、新たな時代の教育に対応できる質の高い教師の確保を進める」と述べている。「諮問」にも「質の高い教師を確保し、資質向上を図るための養成・免許・採用・研修・勤務環境・人事計画等の在り方」がある。ぜひ実現することを期待したい。今回のコロナ禍によって、教員の「多忙化」による勤務実態の「劣悪さ」が改めて顕著になったことも明記しておきたい。
また、「教員免許更新制」や民主党が主張した「教員養成6年制」により従来の教員免許制度「開放制」が否定された。「教員養成の修士レベル化」のために、「向上方策」にある「一般免許状(仮称)」「基礎免許状(仮称)」「専門免許状(仮称)」の創設についても、学校現場を早く経験させずに、養成期間だけを長引かせても、果たして実践的指導力が身に付くのかという疑問が残る。どちらも、「教員養成6年制(修士)」であるからである。「教員は学校で育つ」のである。
加えて、「資質能力」は「学校インターンシップの導入」を掲げている。ただし、「各学校種の教職課程の実情等を踏まえ、各教職課程で一律に義務化するのでなく、各大学の判断により教職課程に位置付けられる」と述べている。ぜひ、柔軟な対応ができるようにしてほしい。なお、「介護等の体験」の義務付けも現在行われているので、負担増になる。さらに、「構築」を受けて「『令和の日本型学校教育』を担う教師の人材確保・質向上プラン(2021年2月2日公表)」が「養成段階において、ICTに特化した科目を新設」と記している。上述の「教職課程の再課程認定」や「教職課程コアカリキュラム」を考え合わせると、教員養成に対する縛りがますますきつくなってきており、誠に遺憾である。
先に述べたことと重なるが、上述してきたように、現状の流れでは大いに意欲を持っている優秀な若い人材を教育職から遠ざけている。
「論点整理」が「外国語教育に関する教員養成、教員研修及び教材開発に関する条件整備、小学校の中・高学年それぞれの課題に応じた指導体制の整備が不可欠である」と述べている。当然のことである。私たちは1975年11月30日の第2回アピール「英語教育の改善に関するアピール」で「英語教育の質を向上させるためには、教員養成の一環として、特に就職後最初の1年間は、研修日・持ち時間・経費負担に配慮し、自主研修の機会が十分に与えられるよう制度化し、これを保障すること」と記している。未だに実現に至っていない。
現在、文部科学省は「教員免許更新制の発展的解消」を行おうとしている。私たちは失職者も出てきている「教員免許更新制」を即刻やめて、以前の「教員免許制度」に戻すべきである。
私たちは1999年度の大会で「外国語」担当教員の養成・採用・研修等について議論し、次のように主張した。
- (1)「外国語」担当教員の養成について
「外国語」担当教員の養成のための教育は、当該外国語の指導方法に関する十分な知識と実践力を習得させ、また指導について工夫改善への意欲を持たせる内容とすること。 - (2)「外国語」担当教員の採用について
「外国語」担当教員の採用に際し、当該外国語の指導方法に関する十分な知識と実践力および工夫改善への意欲を有する人物が選ばれるようにすること。 - (3)「外国語」担当教員の研修について
「外国語」担当教員の研修について、長期海外研修を含め、自主的・主体的な研修を実現するよう、必要な措置を講じること。
1.「外国語」担当教員の養成について
「外国語」担当教員の養成にあたっては、外国語教育を豊かなものにするため、まず第1に当該外国語およびその指導法に関する十分な知識と実践力を備えた教員を育成することを目的とすべきである。従って、「教科に関する科目」の履修に重きを置くべきである。「資質能力」は「『教科に関する科目』と『教職に関する科目』の中の『教科に関する指導法』については、学校種ごとの教職課程の特性を踏まえつつも、大学によっては、例えば、両者を統合する科目や教科の内容及び構成に関する科目を設定するなど意欲的な取組が実施可能となるようにしていくことが重要であり、『教科に関する科目』と『教職に関する科目』等の科目区分を撤廃するのが望ましい」としている。大いに検討に値する。ぜひ、実現する方向であってほしい。さらに、「新たな教育課題に対応した教員研修・養成」で「外国語教育の充実」に触れている。その中で「小学校中学年の外国語活動導入と高学年の英語の教科化に向け、音声学を含む英語学等専門性を高める科目」と述べるとともに、「『免許法認定講習』の開設支援等により小学校免許状と中学校免許状の併有を促進する必要」に触れている。既に横浜市では先取りして始まり、混乱が生じていることも指摘しておきたい。「英語教育コア・カリキュラム(試案)」が2016年2月26日に公表された(報告書は3月31日付)。その中で、「有識者への意見聴取から、英語担当教員の英語力としては、教える英語のレベルよりも上のレベルを目指すべきであり、具体的にはCEFR B2レベルや実用英語技能検定(英検)準1級レベル相当」との記述がある。国内外の民間団体が提供している英検等のスコア等を教員養成の目標値として一律に設定している。これは教員養成を矮小化するものであり、断じて容認できない。「英語教員の英語力・指導力強化のための調査研究事業 平成28年度報告書」(東京学芸大学、2017年3月20日)が公表されたが、これが各大学等への「縛り」となってはならない。
なお、東京都教育委員会は「小学校教諭採用予定者への実践的指導力養成講座」を行っている。「任用前学校体験」も2013年3月から開始した。これは大学等の教員養成の段階で行われるべきことである。
また、「教育実習」については、学校現場が多忙なまま実習期間が延長され、現場の負担は以前にも増して過重になった。さらに「一年間への延長」も考えられていたが、「審議経過報告」は「期間・内容とも充実する方向で検討すべき」に留めている。また、「向上方策」も「実習公害」に言及するだけで、根本的な問題解決には程遠い。「審議経過報告」は「実習生受入校の負担にならないような実施体制」に言及しており、改善のための十分な条件整備が必要である。なお、今回のコロナ禍によって「教育実習」及び「介護等体験」については一部法改正等の特例措置が行われたが、教員志望の学生にこれまで以上の負担とならないよう十分な配慮を望む。
2010年度入学生からは、「教員免許更新制」と表裏一体の「教員として必要な知識技能を修得したことを確認する」ための「教職実践演習」を含む教育課程がスタートした。ますます教員免許状取得を困難にするものと言わなければならない。
加えて、「教師塾」のようなものが各地でますます増加している。これは、大学の教員養成を不毛にするおそれが大きい。例えば、「東京教師養成塾」では、特定の大学以外の学生は対象外となっているうえ、実態は受講生の「青田買い」になっている。さらに奈良県等では高校生にまで対象を広げた。このようなものを大学外に設けるべきではない。東京都教育委員会は「小学校教員養成課程のプログラムについて」公表(2010年10月14日)した。これにより採用側が教員養成機関に枠をはめてしまった。まさに「養成・採用・研修」の一体化である。合わせて、「中・高等学校教諭については、その多くが教員養成を主たる目的としない学科等出身者で占められていることに留意する必要がある」(「向上方策」)との言及、さらに「教員免許の国家資格化」の考え方や最近の文部科学省等の答申や国立大学統合等の動向を考え合わせると、教員養成は一層「開放制」が損なわれかねない危機的状況にある。現在教員養成部会で議論されている「義務教育特例」(仮称)の新設や「特別免許状」の指針の改訂等によって専門性を低下させるのでなく、私立大学等も含めた「開放制」が持続される従来通りの教員養成が望まれる。
また、「向上方策」は「小学校教員の教員養成課程においても、学習指導要領に対応した外国語教育に関する内容について、さらに充実を図る必要がある」と述べているが、私たちも「小学校外国語教育を実施するのであれば、長期的視点に立った教員養成」とⅦ.で前述した。
なお、英語以外の言語についても「教科教育法」および「教育実習」を充実すべきである。加えて、例えば「小学校教諭普通免許状」の「教科及び教科の指導法に関する科目」の「教科に関する専門的事項」(現在は「教科に関する科目」)」に新しく「外国語」が追加されるが、「英語、ドイツ語、フランス語その他の外国語」と記されることは歓迎される。同時に、取得できる「外国語」の数が減少していること(下記の教員免許状を取得できる大学参照)は、「外国語教育の推進策」から考えると大いに遺憾である。
2.「外国語」担当教員の採用について
最初に、文部科学省の最近の「英語教育改革」の促進に対応して生じた問題を指摘しておきたい。それは、教員採用選考でも「英語力」が過度に重視される傾向が顕著になってきていることである。合わせて、「資質能力」が「教員採用試験の共通問題の作成」に言及している。「教員免許の国家資格化」や「開放制」の否定も考え合わせると、様々な個性を持った教員が採用される可能性が低くなる心配が生じてくる。「教育公務員特例法」が改正(2017年4月1日)されて、「校長及び教員の資質の向上に関する指標の全国的整備」が開始されたことも懸念材料である。加えて、採用試験の前倒し(繰り上げ)が議論され始めた。採用側の事情だけが強調されて、養成のための期間(時間)が削られることが懸念される。憂慮しがたいことである。
「確かな学力を確立するために必要な授業時数の確保」から、小中学校では外国語をはじめいくつかの教科で授業時数が増加し、年間の総授業時数が増えた。高等学校でも全日制では週当たり30単位時間を越えて授業を行うことが可能となった。そのための教員の持ち時間増について、「免許外教科担任」や「非正規教員」のような臨時採用教員や非常勤講師に頼るのではなく、教職員定数の改善を図り、それにともなう「正規教員」の採用増を行うべきである。そのために国による十分な財政措置を含む条件整備をすべきである。
「向上方策」は「様々な社会経験と、特定分野に対する高度な知識・技能を有する多様な人材を教員として迎え、チームで対応していくことが重要である。今後、社会の中の多様なルートから教職を志すことができるための仕組み」としている。しかし、教育実習をせずに、「特定分野に対する高度な知識・技能」だけで教職に就けるべきでない。加えて、「多様な知識・経験を有する外部人材による教職員組織の構成」(「構築」)や「社会人等多様な人材の活用」(「プラン」)が掲げられている。教師が日本における専門家であることを認めなくてはならない。
さらに、「向上方策」には「特に英語教員志望者に対しては、指導力向上のための海外留学を積極的に推進することが求められる。また、採用に当たっては、こうした海外経験が評価されるよう選考方法の更なる工夫が求められる」とあるが、採用後の公費による海外研修の充実こそが必要である。
「提言」は、「英語教員の採用にあたり、外部検定試験の一定のスコアの所持を条件にするなど、英語教員に一定の英語力を求めるようにする」と述べている。「実施計画」も「外部検定試験を活用するなど、採用選考の改善促進」としている。加えて、2016年公表された「コア・カリキュラム(試案)」が「CEFR B2レベル」を持ち込んだり、「英検準1級レベル」のような具体的な目標値が提示されたりすることははなはだ遺憾である。「答申」も「英語の資格・検定試験による英語力の基準が国際基準であるCEFRのB2レベル程度(英検準1級、TOEFL iBTスコア80点程度)以上の者を採用するような取組が期待される」としている。選考対象者が外国語教員としてふさわしいかどうかは、前述のように英検、TOEFL、TOEIC等の成績によって測れるものでなく、全人的観点から選考されるべきである。こうしたスコアは外国語教員に必須のものとは考えられない。採用試験のために、教員養成課程でTOEFL等の受験対策の授業が増えており、人格の完成を目的とする教育に携わる教員を養成するための教育内容が矮小化されている。このようなスコアを援用することや前述の「教員採用試験の共通化」を考え合わせると、教員養成制度の崩壊につながる。さらに、「英語運用能力」のみが強調されるあまり、外国語や外国語指導に関する「基礎知識」、「指導力」不足のまま採用されていると言わざるを得ない。昨今の「大量退職・大量採用」も考え合わせると、ますます学校現場における「英語教員の質」の低下が憂慮される。
2011年12月27日付文部科学省初等中等教育局長の「教員採用等の改善について(通知)」もあり、選考においては公開が進められてきているが、選考基準についてはより一層公開を進めるべきである。なお、「通知」の中で上記「提言」を踏まえ、「英語によるコミュニケーション能力を十分に考慮した採用選考の実施」や「外国語活動に対応した採用選考の実施」に触れている。特に、今まで教員養成が十分になされてこなかったにもかかわらず、「答申」は「専科指導を想定した小学校教員の採用選考に当たっては、採用段階における英語力の基準を設定することや、留学などの海外経験の評価、面接試験、模擬授業などによる実技試験等によってコミュニケーション能力などの専門性を考慮した採用選考の実施を促すことが必要である」としている。文部科学省の調査によれば、「外国語活動」などに関する内容は筆記試験、実技試験ともに増加の傾向にある。先に言及したように現状では「過度に重視しないこと」は当然である。加えて、「資質能力」が「特別免許状の授与に当たっては、(中略)海外の教員資格やTESOL修士の保有なども含め、授与を受けようとしている者の様々な学修履歴や経験を考慮し、総合的に判断することが望ましい」としている。さらに、「論点整理」には「児童生徒が生きた外国語に触れる機会を一層充実するため、特別免許状の活用も含め、教員や外国語指導助手等としての外部人材の受け入れを一層推進する。併せて、外国語が堪能な地域人材や外国語担当教員の退職者等を非常勤講師として活用するための方策も講じる」とある。後述の「ⅩⅤ.ネイティブ・スピーカー(ALT)について」にあるように、教師は日本における専門家であることを認めるべきで、海外の資格だけで判断すべきではない。さらに、今回特別部会がは公表した「検討の方向」に「特定分野の専門性を有する人材を幅広く迎えていく観点から、教科の領域の一部(例:教科『外国語』の中の英会話など)を担当する非常勤の講師については免許状を要しないという特別非常勤講師(中略)子にような人材が学校現場で更に活躍しやすく、働きやすい制度にしていくことを検討する」とあるが、危惧する。
また、英語以外の言語について専任教員を採用し、多様な外国語を学習できるようにすべきである。「外国語」という教科において、担当科目は「英語」「中国語」「朝鮮・韓国語」「フランス語」「スペイン語」「ドイツ語」「ロシア語」「イタリア語」「ポルトガル語」などであるが、実際の採用はほとんどすべてが「英語」の教員としてであり、英語以外の言語が不当な扱いを受け、ひいては英語以外の言語の教育を困難にしている。早急に改善すべきである。
なお、文部科学省が公表した「令和2年4月1日現在の教員免許状を取得できる大学」によると、中学校・高等学校の外国語に関しては、「英語」「中国語」「フランス語」「ドイツ語」「その他の言語」に区分されている。「その他の言語」には「アラビア語」「イスパニア語」「イタリア語」「ウルドゥー語」「スウェーデン語」「スペイン語」「スワヒリ語」「タイ語」「デンマーク語」「トルコ語」「ハンガリー語」「ペルシア語」「ポルトガル語」「ロシア語」「韓国・朝鮮語」「韓国語」「朝鮮語」が含まれていることを付しておく。さらに、これら以外の言語でも文部科学省調査「平成29年度高等学校等における国際交流等の状況について」では「英語以外の外国語科目を開設している学校の状況について」(平成30年5月1日現在)の表中に「インドネシア語」「ベトナム語」「フィリピノ語(タガログ語)」「古典ラテン語」「ネパール語」が含まれている。
3.「外国語」担当教員の研修について
先に述べたように、「教育公務員特例法」第21条を踏まえて、教員の自主的・自発的研修が行われるために、国による十分な財政措置や時間保障を含む条件整備をすべきである。「論点整理」も「教員一人一人が校内研修、校外研修などの様々な研修の機会を活用したり、自主的な学習を積み重ねたりしながらその力量を向上させていくとともに、教員一人一人の力量が発揮できるよう、必要な環境を整備していくことも必要である」と述べている。当然のことである。
「行動計画」により、全国一律に「実践的コミュニケーション能力育成のための指導力向上を図る」ためということで「悉皆研修」が導入された。研修とは教員が自主的・主体的に行うものであり、「伝達講習」のように特定の内容を強制的に研修させられることは望ましくない。
そもそも、なぜ外国語(英語)科の教員だけが強制的に「悉皆研修」を受けなければならなかったのか、理解に苦しむ。また、「悉皆研修」のために、真に参加を望む研修に参加できなかった場合が多く、研修の目的に照らしてみると本末転倒である。
「向上方策」に「教員免許更新制については、適切な規模を確保するとともに、必修領域の内容充実、受講者のニーズに応じた内容設定等講習の質を向上するなど、必要な見直しを推進する」とある。前述のように、現場の声を反映して、「教師」で諮問されたものの中で、小委員会が先行して結論を出したことは歓迎する。「審議まとめ」で「教員免許更新制の発展的解消」を出したが、「教員免許更新制」に反対する私たちの立場は一貫している。また、「教員免許更新制を発展的に解消し、『新たな教師の学びの姿』を実現することにより、教師の専門性の高度化が進んでいくことが期待される」と「審議まとめ」は述べている。これが新たな教師への負担にならないことを願うばかりである。
「提言」は「英語教員の更なる資質・能力の向上を図るためには、英語教員に対する集中的な研修を実施することが必要」と述べているが、再び「悉皆研修」が行われたことは遺憾である。しかし、「英語教育推進リーダー中央研修」によって「還元研修」が始まっている。「プラン」にも「小・中・高校の英語を担当する全教員の研修を実施(「英語教育推進リーダー」の養成)」との記述がある。「資質能力」にも「各地域の指導者となる『英語教育推進リーダー』の養成を推進」とある。大いに遺憾である。これはトップダウンの研修であり、これで、小学校も含め英語教員一人ひとりにとって「実りある」研修と言えるかどうかはなはだ疑問である。なお、このリーダー研修が「カスケード研修」と称されている、ブリティシュ・カウンセルへの「丸投げ」であるのはさらに問題である。学校教育の「外部」依存による公教育の「歪み」となる。また、「外部検定試験を受験し、自らの英語力を把握することは、教員としての自己研鑽につながる」とあるが、誤りである。「英語教員に少なくとも求められる英語力」として、「生徒の英語によるコミュニケーション能力を育成するため、生徒が英語に触れる機会を充実するとともに、授業を実際のコミュニケーションの場面にすることができる(英検準1級、TOEFL(iBT)80点、TOEIC730点程度以上)」としている。さらに「外部検定試験を受験するよう促す」ため、2012年度からは国において「特別受験制度」と称して「予算化」までされるようになった。また、東京都教職員センターで行われている研修の中には「英検~級取得支援講座」や「TOEIC~点突破支援講座」等がある。異常な事態である。前述のように「実施計画」も引き継ぎ、「外部検定試験を活用し、県等ごとの教員の英語力の達成状況を定期的に検証」とさえ記している。そもそも「英語教員に少なくとも求められる英語力」とは何なのか、それは「英検準1級レベル」などの目標値を設定することにより解決する性質のものであろうか。そのような目標値で、英語教員に必要とされる英語の指導方法に関する十分な知識・実践力・指導の工夫改善への十分な意欲などを測ることはできない。それは教員の自主的・主体的研修にかかるものだからである。
「五つの提言」は「小学校教員が自信を持って専科指導に当たることが可能になるよう、『免許法認定講習』開設支援等による中学校英語免許取得を促進」「小学校の専科指導や中・高等学校の言語活動の高度化に対応した現職教員の研修を確実に実施」と述べている。そのためにも、国による十分な財政措置や時間保障を含む条件整備をすべきである。
さらに、「英語教育海外派遣研修」のように英語に限ることなく多くの言語について、より多くの教員が主体的に長期にわたって海外で研修できるよう財政的措置を講じるべきである。実施に当たっては、各教員の意向を尊重し、強制的・機械的に行うべきではない。なお、小学校での外国語教育についても、「教員が国内外での研修を行えるように、財政的・時間的保障を行うこと」と先に述べた。
付言すれば、東京都教職員研修センターは「これまで、研修の対象者は、『都立学校並びに区市町村立の学校及び特別支援学校に常時勤務する教職員』としてきましたが、今年度から、受講人数に余裕のある講座について、時間講師の方の聴講が可能となるよう変更」と通知(2013年6月21日)した。このような研修の機会がすべての教員に公平に与えられることが望ましい。そのために国による十分な財政措置を含む条件整備をすべきである。なお、英語以外の外国語についても、教員の養成・採用・研修等について充実されることを望む。
教育再生実行会議第三次提言「これからの大学教育等の在り方について(2013年5月28日)」は「国は、英語教員の養成に際してネイティブ・スピーカーによる英語科目の履修を推進する。国及び地方公共団体は、英語教員が TOEFL等の外部検定試験において一定の成績(TOEFL iBT80程度等以上)を収めることを目指し、現職教員の海外派遣を含めた研修を充実・強化するとともに、採用においても外部検定試験の活用を促進する」と記している。海外派遣を除く各施策については言語道断である。