『学習指導要領』及び大学入試に対する意見(2021年)

2024年6月11日

Ⅹ.「外国語」授業のクラスサイズについて

 「外国語」の授業を行う場合、1クラスの生徒数の上限を15名とし、外国語教員の増員を含め、必要な措置を講ずること。

 「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画」(2003年3月31日策定、以下「行動計画」)は「教職員定数改善計画の推進」に触れて、「英語など教科に応じて20人程度の少人数指導や習熟度別指導を行うことを可能とする教職員定数改善計画(平成13年度~)を推進し、きめ細かな指導を実現する」と述べている。ところが、文部科学省は2003年4月1日に「学級編制の一層の弾力化について」通知し、「三位一体改革」によって「地方丸投げ」としてしまった。文部科学省の調査によれば、2010年度にはすべての都道府県において何らかの「学級編制の弾力化」が行われている。しかし、「義務教育費国庫負担制度」の改悪と相まって、「教育格差」が生じ、教育の質の低下が生じてきている。地方公共団体によっては「35人以下学級」を実施するところが増えている。大変遺憾なことに、「提言」や「基本計画」や「実施計画」さらに、「プラン」では外国語教育に関して一切「クラスサイズ」について言及していない。ただし、「五つの提言」は「改革5.学校における指導体制の充実」で「定数措置」について触れている。外国語教育の改善は「クラスサイズ」の縮小なしには考えられない。
 「公立義務教育諸学校の学級規模及び教職員配置の適正化に関する検討会議」は「少人数学級の推進など計画的な教職員定数の改善について~子どもと正面から向き合う教職員体制の整備~」(2012年9月6日)を報告したが、「地方の自主的な取組みを促進することを基本」と述べるのみで、基本的な状況は変わっていない。問題の先送りであり、解決にはつながって来なかった。その後、「『第2期教育振興基本計画について』(2013年4月25日答申)」も「基本施策24」で「課題」として「ばらつきが生じており、国の責任において、少人数学級を推進することについて引き続き検討が必要である」と記した。それを受けて、教育再生実行会議の第五次提言「今後の学制等の在り方について」(2014年7月3日)では「課題解決・双方向型授業等にも対応した質の高い教育を実現するため、教職員配置の充実を図る」と提言された。さらに、「教育再生の実行に向けた教職員等指導体制の在り方等に関する検討会議」は「教育関係団体や各地方自治体からも、国が教職員定数改善計画を策定して教職員定数の改善を進めることが非常に求められており、10か年で日本の教員数と児童生徒数の比率がOECD平均なみとなるために必要な規模(約3万人程度)の定数改善が必要である。これらのことから、教育の機会均等や水準確保の観点から、国の責任において計画的な教職員定数改善を行うことが今こそ求められている」と提言(2014年8月28日)している。今後の教育政策を定めた「基本計画」にも「多様な子供たち一人一人の状況に応じた教育を進めるために、平成29(2017)年の義務標準法改正による基礎定数化の着実な実施」と記してある。ところが、財政制度等審議会は「教職員定数削減」を言い続けている。今回のコロナ禍で、全国知事会、全国市長会、全国町村会が「少人数学級編制を可能とする教員の確保」を求めて「緊急提言」を文部科学大臣に提出するなどの動きがあった。2021年6月18日閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2021 日本の未来を拓く4つの原動力  ~グリーン、デジタル、活力ある地方創り、少子化対策~」も「小学校における35人学級等の教育効果を実証的に分析・検討する等の取組を行った上で、中学校を含め、学校の望ましい教育環境や指導体制の在り方を検討する」と記している。すべての学校において、早急に少人数「学級」(30人学級)を実現すべきである。これを「地方分権」の名の下に各地方公共団体に任せるのではなく、国による十分な財政措置を含む条件整備をすべきである。「様々な教育課題に対応するため」に、何よりも優先することが必要である。前述のように「公立義務教育諸学校の学級編成及び教職員定数の標準に関する法律」が改正されて、2021年度より「『小学校35人学級』の計画的な整備」を学年進行で開始した。評価に値するが、義務教育学校の小学校や中学校だけでなく、高等学校に至るまですべての学校で実現できるように地方公共団体と協力して予算化すべきである。現状は甚だ不十分である。
 私たちはすべての学校の「外国語」授業について1クラスの生徒数の上限を15名とし、外国語教員の増員を含め、必要な措置を講ずることを長年求めてきた。十分な学力を保障できるようにするためには、クラスサイズを縮小し、十分な教員を配置し、必要な施設・設備を整え、言語使用の豊富な体験ができるようにすることが重要である。『小中高等学校学習指導要領 外国語活動、外国語、英語』は「言語材料と言語活動とを効果的に関連付け、実際のコミュニケーションにおいて活用できる技能を身につけることができる」ようにするために、詳細な指示・指定をしている。これを実現するには、1クラスの人数を減らし、一人ひとりの生徒が実際に「言語活動を効果的に行う」ことができるような条件を整えるべきである。外国語教育においては、その特性に鑑み、少人数学級編成が必須なのである。
 少人数指導は多くの学校で取り入れられている。少人数であるがゆえに、一人ひとりの生徒に目が届く、言語使用の体験が豊かになる等、利点も多い。利点を効果的に活かすには、少人数指導については、生徒の実態に合わせて担当教員が協議・工夫して学級編成を行う必要がある。少人数指導の打合せ時間を十分保障する、教具等を準備するための十分な財政的措置を講ずるなど、かなりの条件整備が求められる。今回のコロナ禍で生じた「分散授業」により、少人数指導は行き届いた教育が可能であることが確認された。
 一部で「2学級3展開」が事実上、強制的に実施されてきている。このような方法を一律に押しつけることには反対である。「2学級3展開」では、学級が解体するため、教員と生徒とのコミュニケーション、生徒同士のコミュニケーションが困難になり、「学級崩壊」につながった事例がある。また、教具が不足する、授業の工夫が活かされない、教員の負担が増える、などの問題点も多い。実施に当たっては、現場の意向を十分尊重し、慎重な対応をすべきである。多忙の中、せっかく「生活指導」上配慮してクラス分けをしても、何にもならないことになってしまう。問題行動の引き金になる。東京都教育委員会は2016年度より全中学校で「東京方式 少人数・習熟度指導ガイドライン 中学校英語」に基づく「2学級3展開」の少人数授業を実施した。これは上述の理由で大いに遺憾なことである。
 上述の「義務教育費国庫負担制度」の改悪により「非正規教員」の比率が増加していると報告されている。外国語教員は中学校の授業時数増もあり、持ち時間数が増加となった。以前の制度に戻すことによって、専任である「正規教員」を増やすことで対処するとともに、「非正規教員」にも研修等「正規教員」と同様の権利を保証すべきである。
 さらに、「学校教育法施行規則」改正によって、「土曜授業」の実施をしやすくしたが、これは労働時間増につながる。学校規模によっては、教科による「持ち時間数」の格差が出ているなどの新たな問題点が生じてきている。

2024年6月11日知2021

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