『学習指導要領』及び大学入試に対する意見(2020年)
Ⅸ.『高等学校学習指導要領』(第2章 第8節 外国語
及び 第3章 第13節 英語)について
新しい『高等学校学習指導要領解説 外国語編 英語編』が昨年7月公表された。小・中学校に比べても、記述が詳しくなり、先に述べた「『学習指導要領』は教員のための一つの指針として位置づけ、その内容を概要にとどめ、教員や教科書その他の教材などを規制することのないようにすべきである」という私たちの立場とは相容れないことを明確にしておきたい
1.「授業は英語で行うことを基本とする」について
『高等学校学習指導要領』の「第2章 各学科に共通する各教科 第8節 外国語」(以下「外国語」)及び「第3章 主として専門学科において開設される各教科 第13節 英語」(以下「英語」)は、それぞれ「第3款」において、「授業は英語で行うことを基本とする」という「指導方法」に関する特定の言及が再び行われたことは到底容認できるものではない。現行『高等学校学習指導要領』で、「ワーキンググループ」等での議論がないままに、初めて「指導方法」に関する特定の言及が行われた。指導内容とその指導時期・指導方法については様々な考え方があり、これを特定せず、教員が自主性・創造性を生かすことができるようにすべきである。これは、『学習指導要領』を概要にとどめない限り実現が極めて困難である。また、「実施計画」や「五つの提言」では「授業を英語で行うとともに、言語活動を高度化(発表、討論、交渉等)」が加わった。さらに、「五つの提言」では「幅広い話題について発表・討論・交渉などを行う言語活動を豊富に体験し、情報や考えなどを的確に理解したり適切に伝えたりするコミュニケーション能力を高める」とも言及している。学年進行で第3学年まで実施されたばかりであり、その検証もままならないまま、言及がなされたことは言語道断である。「指導方法」まで言及したことの誤りを認め、中学校でも同様の規定をしたことも含め、撤回すべきである。
2.「外国語」の科目について
『高等学校学習指導要領』の「外国語」の科目構成は「英語コミュニケーションⅠ」「英語コミュニケーションⅡ」「英語コミュニケーションⅢ」「論理・表現Ⅰ」「論理・表現Ⅱ」「論理・表現Ⅲ」である。前回の『高等学校学習指導要領』改訂で変わったばかりであるのに、「コミュニケーション英語」を「英語コミュニケーション」に変更するのは全く無意味である。「五つの領域を総合的に扱う科目」を理由に挙げているが、今までの「英語Ⅰ」や「コミュニケーション英語Ⅰ」などは「総合英語」ではなかったのだろうか。また、「発信能力の育成を更に強化するための科目として」、「論理・表現」を設定する。名称だけでは内容不明な科目である。これも「英語表現」はそうではなかったのか。それよりも、以下に述べるようなことを踏まえて再考を強く望む。加えて、今回も「コミュニケーション」という名称が科目名に入った。「目標」によれば、「コミュニケーション」とは「情報や考えなどを的確に理解したり適切に伝えたりする」ことであり、言語学習の根本である。「4技能を総合的に育成することをねらい」とした科目名にあえて「コミュニケーション」を入れるべきではない。再考を強く望む。
高等学校における「外国語」の科目は、学年進行を考慮し、例えば「英語Ⅰ」「英語Ⅱ」「英語Ⅲ」「中国語Ⅰ」「中国語Ⅱ」「中国語Ⅲ」「朝鮮・韓国語Ⅰ」「朝鮮・韓国語Ⅱ」「朝鮮・韓国語Ⅲ」「フランス語Ⅰ」「フランス語Ⅱ」「フランス語Ⅲ」「ドイツ語Ⅰ」「ドイツ語Ⅱ」「ドイツ語Ⅲ」「スペイン語Ⅰ」「スペイン語Ⅱ」「スペイン語Ⅲ」「ロシア語Ⅰ」「ロシア語Ⅱ」「ロシア語Ⅲ」「イタリア語Ⅰ」「イタリア語Ⅱ」「イタリア語Ⅲ」「ポルトガル語Ⅰ」「ポルトガル語Ⅱ」「ポルトガル語Ⅲ」「その他の外国語Ⅰ」「その他の外国語Ⅱ」「その他の外国語Ⅲ」とすべきである。
文部科学省は、「グローバル化に対応した外国語教育推進事業」を予算化したが、特定の地域・学校のみで多様化を進めるのでなく、全国的にあまねく推進し、すべての生徒が多様な言語を学習することができるようにすべきである。
『学習指導要領』ではなぜ「外国語」の科目が6科目なのか理解できない。「外国語」の科目とする言語には英語しかないのであろうか。「外国語」を構成する科目を上記の通りにすべきである。そして、少なくとも「第1章 総則 第2款 教育課程の編成」の「3(1) イ 各学科に共通する各教科・科目及び総合的な探究の時間並びに標準単位数」の表に、「英語に関する各科目」に続いて、「その他の外国語に関する科目」を以前(1970年版)のように載せるべきである。
「英語コミュニケーションⅠ」が「必履修教科・科目」であるために、現行の『学習指導要領』と同様に、以前の『学習指導要領』では例えば「英語Ⅰ」「英語Ⅱ」の2科目で学習されていた文法事項が、「2(1) エ」で「(イ)に掲げる全ての事項を、適切に取り扱うこと」(『高等学校学習指導要領解説 外国語編 英語編』)とあるため、「英語コミュニケーションⅠ」で取り扱うことになる。これは「高校生に最低限必要な知識・技能と教養の幅を確保するという必履修教科・科目の趣旨(共通性)」(『高等学校学習指導要領解説 総則編』)とされているからである。そのために、教科書の編集を含め、学校現場に混乱を来している。現場に必要な教科書が編集され、実態に応じた教育を実現できるようにしてほしい。
「答申」は「五つ領域(原文のまま)の総合型の科目(必履修科目を含む)を核とし、発信能力の育成を更に強化するための科目として、「論理・表現(「発表、討論・議論、交渉」などにおいて、聞いたり、読んだりしたことを活用して話したり書いたりする統合型の言語活動が中心)を設定する」としている。「五つ領域の総合型の科目を核とし、発信能力の育成を更に強化する」と「話すこと[やり取り]」、話すこと[発表]、書くことの三つの領域別に設定する目標の実現を目指した指導」と言うのはなぜであろうか。また、現行『学習指導要領』の英語に関する各科目の内容にもそれが如実である。「四つの領域の言語活動の統合を図る」ためには、科目としては例えば「英語」「中国語」「朝鮮・韓国語」「フランス語」「ドイツ語」などを設置し、四つの領域の言語活動を総合的、有機的に関連させて指導すべきなのである。事実、高等学校段階ではそれが必要なことなのである。なお、今回の「答申」も「統合型の言語活動」に言及している。上述のように科目を設置して、指導すべきなのである。
「第1章 総則 第2款 3 主として専門学科において開設される各教科・科目」においても、教科名「英語」を「外国語」に改めるべきである。また、科目名は多様な言語に対応するものでなければならない。
3.「外国語」の科目の単位数について
「英語Ⅰ」「中国語Ⅰ」「朝鮮・韓国語Ⅰ」「フランス語Ⅰ」「ドイツ語Ⅰ」などは4単位を最低とし、「英語Ⅱ」「英語Ⅲ」「中国語Ⅱ」「中国語Ⅲ」「朝鮮・韓国語Ⅱ」「朝鮮・韓国語Ⅲ」「フランス語Ⅱ」「フランス語Ⅲ」「ドイツ語Ⅱ」「ドイツ語Ⅲ」などは2~4単位とすべきである。
高等学校で初めて履修する「外国語」の科目であることを前提とし、その基礎の定着を図るためには週4時間相当の授業が必要であり、各「Ⅰ」の科目は、上記の通り「4単位」を最低とすべきである。
中学校で学習したことを深め、発展させることは必要なことであり、各高等学校はその実現に向け努力している。ところで、選択幅の拡充や必履修教科の増大などとも関連しているのであろうが、『学習指導要領』は2単位科目を多く設置している。しかし、こと外国語教育について言えばそれは無理である。日常性のない言語を学習しようというのであるから、2単位で理解・習得ができることはきわめて限定される。
以前の「英語Ⅰ」や現行の「コミュニケーション英語Ⅰ」も3単位であったが、「英語コミュニケーションⅠ」も3単位である。その「内容」「内容の取扱い」で求められていることを実現するには3単位では無理である。まして、「2単位とすることができる」とは理解できない。
外国語習得の特性に鑑み、高等学校段階であれば1年次で履修する「外国語」の各科目は最低4単位とすべきである。ただし、「英語Ⅱ」「英語Ⅲ」「中国語Ⅱ」「中国語Ⅲ」「朝鮮・韓国語Ⅱ」「朝鮮・韓国語Ⅲ」「フランス語Ⅱ」「フランス語Ⅲ」「ドイツ語Ⅱ」「ドイツ語Ⅲ」などは選択や履修の形態、各学校の特色等を考慮し、必ずしも4単位とはせず「2~4単位」とすることが妥当である。
以上述べてきたことは、「英語」に関しても、同様に当てはまる。
4.「外国語」の「各科目」について
私たちは「2.『外国語』の科目について」に述べたとおり、『学習指導要領』の「第2款 教育課程の編成」の科目を認めるものでない。しかし、 『学習指導要領』の「第2款 各科目」にある内容等に関する詳細な指示を行うことについて、以下個別に要望を述べる。なお、「英語コミュニケーションⅠ」について述べるが、他の科目でも同様である。ア)「各科目の2 内容の「(1) 英語の特徴やきまりに関する事項」の「ウ 語、連語及び慣用表現」「エ 文構造及び文法事項」、「(2) 情報を整理しながら考えなどを形成し、英語で表現したり、伝え合ったりすることに関する事項」、「(3) 言語活動及び言語の働きに関する事項」の「① 言語活動に関する事項 ②言語の働きに関する事項 ア 言語の使用場面の例 イ 言語の働きの例」について、具体的指示を行わないこと。 Ⅳでも述べたが、私たちは「『学習指導要領』を教員のための一つの指針として位置づけ、その内容は概要にとどめ、教員や教科書その他の教材などを規制することのないようにすべきである」ことが『学習指導要領』のあるべき姿であり、詳細な指定が行われると実態に応じた教育を実現することが甚だしく困難であると認識している。
特に外国語教育においては、「言語材料-語・連語及び慣用表現、文構造及び文法事項」、「言語活動」などについて、様々な考え方・指導方法があり、その特性を生かすためには、言語活動・言語材料等の詳細な指定を行うべきではない。イ)「言語材料」、「言語の使用場面の例」、「言語の働きの例」を削除すること。 「英語コミュニケーションⅠ」をはじめとする「各科目の2の(3)に示す『言語活動』」を行うに当たって、「言語材料」、「言語の使用場面の例」、「言語の働きの例」が事細かに指示されている。この指示により、実態を踏まえ創意工夫を生かした指導が困難となるので、これは削除すべきである。同趣旨のことはその他の外国語にも当てはまる。
特に、「言語活動」について、今回も「言語の使用場面の例」や「言語の働きの例」に様々なものが明示されているが、これは学校や生徒の実態に応じて教員が創意工夫によって多様な言語活動を実践することを阻害する恐れが大きい。加えて、「実施計画」や「五つの提言」は「言語活動を高度化(発表、討論、交渉等)」に触れている。「言語活動」に関しては学校現場に委ねてほしい。『小学校学習指導要領』や『中学校学習指導要領』と同様、さらに詳しく、かつ細かい記述があるが、ぜひとも止めてほしい。
語数については、現行『学習指導要領』では「高校卒業レベルで3000語」だったが、今回「高校で1800~2500語程度、高校卒業レベルで4000語~5000語」となった。高等学校においても、中学校同様、語数の指示は廃止すべきである。なお、中学校と同様に、「受容語彙と発信語彙は一律には規定されないという点にも留意すべきである」が広く一般に理解されることを望む。
「連語及び慣用表現」についても、何をもって「連語」「慣用表現」とするか定説がない。今までの『学習指導要領』では「基本的なもの」とされていたものが、前回、「運用度の高いもの」となった。そもそも「連語」「慣用表現」に関する指示は削除すべきである。
現行 『学習指導要領』では、『中学校学習指導要領』と同様「文型」が「文構造」に代わった。「文を『文型』という型によって分類するような指導に陥らないように配慮し、また、文の構造全体に目を向けることを意図」(現行『高等学校学習指導要領解説 外国語編 英語編』)とのことである。賛意を表する。さらに、「文法事項」についての細かい例示がなくなったことを歓迎する。
なお、言語材料が、中学校において扱う言語材料と高等学校において扱う言語材料の2つに分けられていることについては、私たちは必ずしも納得しているものでないことを再度述べておきたい。ウ)「文法」について 現行『学習指導要領』では、『中学校学習指導要領』においてすでに指摘されている「用語や用法の区別などの指導が中心とならないよう配慮し、実際に活用できるよう指導すること」が初めて記述された。このことを歓迎する。さらに、『学習指導要領』の「第3款 各科目にわたる指導計画の作成と内容の取扱い」の3(3)に「文法はコミュニケーションを支えるものであることを踏まえ、過度に文法的な正しさのみを強調したり」が、新たにその前に付け加えられた。このことも評価する。
加えて、「日本語と英語の語彙や表現、論理の展開などの違いや共通点に気付かせ」に今回触れていることも評価できる。
以上述べてきた3点は、「英語」に関しても、同様に当てはまる。
5.「外国語」の「各科目にわたる指導計画の作成と内容の取扱い」について
ア)履修順序について規定しないこと。
「第3款 各科目にわたる指導計画の作成と内容の取扱い 1」において、「(2) 『英語コミュニケーションⅡ』は『英語コミュニケーションⅠ』を、『英語コミュニケーションⅢ』は『英語コミュニケーションⅡ』を履修した後に履修させる」としている。 また、「(3) 『論理・表現Ⅱ』は『論理・表現Ⅰ』を、『論理・表現Ⅲ』は『論理・表現Ⅱ』を履修した後に履修させる」としている。しかし、言語材料の難易度ひとつについても、見解はひとつではなく、『学習指導要領』がこうした内容を規定することは、教科書の編集、教員の工夫等において支障を来している。
また、「(4) 多様な生徒の実態に応じ、生徒の学習負担に配慮しながら、年次ごと及び科目ごとの目標を定め、学校が定める卒業までの指導計画を通じて十分に段階を踏みながら」と記述したことは評価できる。
イ)「教材」について
私たちは1987年の「要望書」において、「題材および題材の形式については、『教える英語の内容によって適切に選択されなければならない』旨の指示にとどめること。したがって、題材および題材の形式について特段の指示を行わないこと」と要望した。
『学習指導要領』の「第3款 各科目にわたる指導計画の作成と内容の取扱い」の3(2)に「英語を使用している人々を中心とする世界の人々及び日本人の日常生活、風俗習慣、物語、地理、歴史、伝統文化や自然科学などに関するもの」と記されている。現行『学習指導要領』より、「伝統文化や自然科学」が追記された。これは「前答申」の「改正教育基本法等を踏まえた学習指導要領改訂」を受けたものである。加えて、「実施計画」には「日本人としてのアイデンティティに関する教育の充実(伝統文化・歴史の重視等)」の記述がある。「答申」も「日本人として大切にしてきた文化を積極的に享受し、我が国の伝統や文化を語り継承していけるようにすること」としている。これによって、さらに新科目「公共」の設置と考え合わせると、指示が強化される危惧がある。『学習指導要領』では、教材について指示は行うべきでない。それは「教科用図書検定基準」にも強い影響を与える危惧があるからである。
なお、『学習指導要領』に「題材の形式」についての記述が引き続きないことは、上記の趣旨からして歓迎すべきことで、高く評価する。また、「文法事項などを中心とした構成とならないよう十分に留意」と記されていることも評価する。
ウ)「音声・辞書」について
「第3款 各科目にわたる指導計画の作成と内容の取扱い」の2(2)「音声指導に関する指示」、(6)「辞書指導に関する指示」を削除すること。
「発音表記」とは何か、「辞書を効果的に活用」とはどういうことか不明確である。発音や辞書については、各学校での実践を踏まえて教員が創意工夫を生かした指導をすべきものである。
エ)「第3款各科目にわたる指導計画の作成と内容の取扱い」の2(7)の「学習形態に関する指示」を削除すること。
『学習指導要領』は「第4款 2(7)」において「ペア・ワーク、グループ・ワークなどの学習形態について適宜工夫すること」を求めているが、これによってかえって教員の創意工夫が制限される危険が大きい。この指示は削除すべきである。
オ)「第3款 各科目にわたる指導計画の作成と内容の取扱い」の2(8)の「教育機器に関する指示」を削除すること。
『学習指導要領』は「第4款 2(8)」において「視聴覚教材やコンピュータ、情報通信ネットワーク、教育機器などを有効活用」を求めている。しかし、言語学習の根本は人と人とが向かい合って一緒に考え、情報などを伝えたり求めたり、理解したりすることにあるのであって、これは教育機器などで代替できるものではないから、活用を強制すべきではない。この指示は削除すべきである。
以上述べてきた5点は、「英語」に関しても、同様に当てはまる。