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■ 平和教育をどうすすめるか

5つのテーマ

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海を渡ったピースメッセージ
― Peace Messages to & from Overseas ―

粕谷たか子(かすや たかこ 静岡・県立島田商業高校)

1.はじめに―「戦争と平和」へのこだわり

 私は1949年生まれなので、戦争を知らない世代です。父は私より7歳年上の姉が1歳の時に「応召」し、中国へ行きました。父が生還したので私はこの世に生を受けたわけです。母からは、父の「応召」時の戸惑い、戦時中の食糧難、爆撃の恐怖を何度も聞かされました。父から直接戦争の話を聞いたことはありませんが、父からの「戦後、新しい日本史教科書を読んで驚いた」という話と、「どうだ、いいだろう」と見せた大塚楠緒子の短歌『お百度詣(もうで)』は私への「ピースメッセージ」だったのだと思います。

2.自分流の平和教育実践

 これまでに教科書教材の発展として、さまざまな機会を捉え平和教育に取り組んできました。戦後50年にあたる1995年には、校内文化祭・広島への修学旅行と結合させて、美帆シボさんのピースアニメ「つるにのって」の英語版シナリオを読んだり、被爆についてしらべ学習-まとめ冊子作り・暗唱発表などに取り組みました。2005年4月末~5月初めに、NPT(注) 再検討会議への「核兵器廃絶」要請行動でWashington D.C. とNew Yorkに行く機会に恵まれ「ピースメッセージ配達人」の取り組みを行いました。
注)Nuclear Non-proliferation Treaty:核兵器不拡散条約

(1)自分の平和教育の「押さえどころ」は何か考えてみました。
  1. 被爆国日本人としての使命感を訴える
  2. 風化しつつある被爆体験の学習と継承
  3. 日常生活の中の「平和」と「非平和」を考える
  4. Think Globally, Act Locally
  5. 海外への発信:つながる・響き合う
(2)授業・実践での「押さえどころ」は、
  1. 生徒一人ひとりの興味関心を尊重しつつ、「共同の学び」で相互に高め合うような場を作る
  2. 自己表現と結びつける
  3. 生徒参加で作り上げる
  4. パソコン・ビデオ・DVDなどIT機器を活用
(1)と(2)がうまく融合し、生徒たちの意欲に化学反応を起こせば、生徒は爆発的な力を発揮します。以下の「海を渡ったピースメッセージ」はその好例でした。

3.「核兵器廃絶」要請行動でアメリカへ

 私は2005年4月27日~5月4日まで、NPT再検討会議への「核兵器廃絶」要請行動でWashington D.C. とNew Yorkに行く機会に恵まれました。この好機を最大限活かして、被爆60年の節目の年に一歩でも核兵器廃絶に近づけたいと思い、「ピースメッセージ配達人」の取り組みを行いました。3年生120人に書いてもらったピースメッセージ70枚を持って行き、現地で出会った人にそれを渡して、返事を書いてもらう、またインタビューをビデオに収めて持って帰るというものです。現地で集めたピースメッセージ34人分。インタビューは10余人。これらをまとめて冊子とDVD作成。生徒たちはとても感動。英語と平和への関心が高まったようです。

4.ピースメッセージ作り

 被爆60年・被爆国日本の使命・核廃絶運動・NPT等について話し、「どこでどのような人に会うのか分からないけど、みんなのメッセージを届けるから」と出発直前の授業で書いてもらいました。
  1. A4―1枚を、1人または2人で仕上げる。3人でA4―2枚つなげて書いてもよい
  2. ピースメッセージは英語で書く。ひらがな・漢字に興味を持つ人もいるから、一部使ってもよい
  3. イラストや写真(去年の修学旅行で手に入れたもの等)を使って、カラフルに眼を引きつけるものにする(静岡の位置を地図に書くと良い)
  4. 英語で質問を書く
 生徒にいきなり英語で書けと言っても書けるわけがないので、参考の英文プリント("Abolition Now"の英語版署名用紙、静岡県の被爆者が描いた絵と英語解説等)を事前に説明して「こういうのを利用すればいいんだよ」と言った後は、生徒に任せました。下書きに1時間、清書に1時間。「授業中にやりきれない部分は家でやってきてね。」生徒は一斉に動き出す。1人で書く子、2人または3人で相談しながら書く子、と様々。懸命に、自分の言葉で書こうとしています。海外の人々に実際に届けられるというのでやる気が高まったようです。早々に仕上がった子の作品をクラスの枠を越えて紹介、黒板に掲示すると、これがまた刺激になって生徒たちは俄然張り切り出します。英語が苦手な生徒たちも燃えていました。

5.生徒たちのピースメッセージ

ピースメッセージ
 生徒は友達と相談しながら、一生懸命メッセージを書きました。文法や綴りの間違いが多いけど心がこもっています。
  1. We Love Peace. We hope a turning point for a world without nuclear weapons and war, where the peace principles of the UN Charter are respected.
  2. We went to 広島 (Hiroshima)and looked the A-bomb Dome. We felt as if we heard cries of Hibakusha. The tragedy should never be repeated.
  3. HAPPINESS by the people, for the people, of the people. Open your mind. Open your eyes. Love yourself. Song for you. Never end LOVE and PEACE and SONG.

6.メッセージをD.C.と N.Y.で配って集める

ピースメッセージの依頼
 ホワイトハウス前・スミソニアン博物館・教会・国連・マンハッタン大通り・セントラルパークで、少しでも機会があれば広げて「これ、私の生徒が書いたんです。好きなものを選んで下さい。」と言うと、通行人が一枚一枚めくりながら読んでくれます。「この子たちはヒロシマに行ったんですね」「ヒバクシャの話を聞いたんですか」「私もヒロシマに行ってこのドームを見ました」といろいろ話してくれます。「できたら生徒にメッセージを書いて下さい」とカードを渡すと快く書いてくれました。下手な英語で大胆にインタビューしてビデオ撮影も。国連ロビーで被爆写真を見ていた二人連れの若い英国女性。ピースパレード参加の15歳の少女。被爆者をインタビューしていたドキュメンタリー・フィルム制作者に逆インタビュー等々。34人分のメッセージカードと10余人のインタビューフィルムは、お金では買えない貴重なお土産・教材になりました。

7.授業で「おみやげ・話」披露

 授業で写真やビデオを見せながら、D.C.とN.Y. で会った人々の反応や出来事を話すと、生徒は興味津々でした。
1)エノラゲイ展示場――スミソニアン博物館でのハプニング
 小学生にせっかく渡したメッセージを警備員に「ここでそんなことやっちゃいかん。全部回収しろ」と言われて仕方なく回収。
2)原爆についての知識はさまざま
  • マンハッタンで歩道にいた男性の質問「原爆投下の広島は、100年間は草木一本生えないと聞いていたが今はどうなっているのか?人は住んでいるのか?」(そこで被爆直後と現在の広島の写真を見せると)「放射能の影響はないのか?土は入れ替えたのか?」
  • ある学生の話「アメリカの学校では原爆投下の事実を教えるだけ。被害についてはほとんど知らない」。

3)折り鶴にはとても関心を示す
  • 「署名集めの時、英語が話せないので折り鶴を差し出すと反応が良かった」とは多くの人の言葉です。
  • 参加者は国連前やマンハッタンで親子連れなどに折り鶴を教えていました。顔を覚えてくれて、パレード中に、歩道から手を振ってくれたそうです。

4)ピースパレードやインタビューのビデオを上映
「下手な英語でもハートでしゃべる」という実践と、平和を願う大勢の人たちの多彩なデモンストレーションは生徒たちに強い印象を与えたようです。

8.ピースメッセージ解読作業

 海を越えて運んできた34人の貴重な返事。番号を付けて全て印刷して、「さあ、読もう」と意気込んで授業に行ったところ、「せんせー、筆記体は読めない!」「何て書いてあるか分からん!」の大合唱。予想外の反応だ。ウーン。私が全部訳してしまっては意味がない。次のように指示して作業を行いました。
    Highslide JS
    ピースメッセージの1つ

    ピースメッセージの1つ
  1. 一人3つのメッセージを担当
  2. 全文を書き写す
  3. 単語の意味調べをして本文の下に書く
  4. 本文を和訳
  5. 感想を書く
 生徒にとっては、「達筆」のメッセージはまるで暗号。解読には四苦八苦でした。
 本校ALTの家族、アメリカの被爆者ネルソンさん、生徒のメッセージを持って写真やビデオに映っている人などを選んで、授業で読みました。かなり難しいものもありますが、自分たちのメッセージへの返事とあって、みんな真剣。生きた英語の力は大なり、でした。

9.「ピースメッセージ集」・DVD作り

 授業で全て読む時間はなかったので、冊子「ピースメッセージ集」を作ることにしました。①未完成の和訳を完成させる、②自筆のメッセージをスキャナーで取り込む、③本文、和訳、感想をPCで打ち込む、などの膨大な作業を、生徒・友人・家族など周りの人たちが協力してやってくれました(強引に手伝わせた?)。
 夏休み前にようやく完成。120人の生徒に渡すことができました(経費は全て私持ち)。その後パワーポイントやDVDも作り大いに活用しています。
〈ピースメッセージの例〉
  I love Peace. I hope that we can end nuclear warfare and live in harmony with all people. Thank you for sending your peace messages to us here in the U.S. Good luck to everyone, be well.

10.生徒が書いた「ピースメッセージ集」の終わりの言葉

 最後に、有志の生徒が書いてくれた「終わりの言葉」を載せます。
「核や戦争というものは、とても悲惨なものだということがわかって頂けましたか?私たちはこのPeace Message集を作るにあたって、改めて核や戦争に対して世界中の人たちがどれほど興味・関心を持っていたかということを知らされました。これだけ世界中の人が真剣に考えてくれていたことに心から感動しています」
「この活動を通し、私たちは今まであまり身近でなかった戦争が意外と身近なところにあったことを知りました。やはり、戦争は絶対にあってはいけないことだと思います」
「今この時も、どこかで戦争や内戦などが起きているかもしれません。二度とこのような悲惨なことが起きないように、私たち一人一人がしっかりと考えていかなければならないと思います」
「日常、核や平和について考えることはあまりないと思いますが、ふとしたとき思い出してみてください。世界中にはまだ平和でない所がたくさんあります。今、自分たちのいる所は平和だけど、実際に世界で戦争は起きています」