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■ 豊かな自己表現の力をどうつけるか

5つのテーマ

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「ことばの種」を蒔こう

土門 玲子(どもん れいこ 北海道・元中)

1.書き続けることの素晴らしさ

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〈資料1〉

〈資料1〉
 感嘆文の学習後の文集My page & my colorの1ページ。喜び・驚きや感動・悲しみ、ときには怒りなど人間の感情を表すことができる感嘆文は素直な気持ちを発露しやすく、自己表現に取り組ませるには好材料でした。女生徒はこのページを完成後に転校しました。友達への思いや感謝の気持ちがSpeechやThank Youに込められています。彼女は1年2学期から英語日記を書き続け、私との間をノートが行き来しました。学習した内容を上手に使い、辞書を片手にテーマも多岐にわたりました。転校後もノートに1冊書き留まると送ってきました。友達・学校・部活、旅の思い出など、それは4年間続きました。心の中を書くようになってきた高2の時、彼女の成長を感じた私はこの交換をストップしました。

My school ...
There aren't any rules in my school. We don't have the school uniforms. We go to school with plain clothes. Most of students have had their hair permed and some of them have dyed their hair light brown. But they aren't suspended from school. In point of this, my school is much better than another school. There are many uncommon things in my school.
(三友社刊『英語教育実践風土記4』)

確かに優秀な生徒でしたが、10冊の自己表現ノートは「書き続けることで伸びる」素晴らしさを私に教えてくれました。

2.夢を綴った卒業論文

 教え子の母との再会。「先生、ナッツはまだ結婚しないのよ。でも、一生懸命だから安心して!」。ナッツは音楽関係の仕事をしています。バリバリの管理職とのこと、中学時代の彼女からは想像もできませんでした。帰宅後、古い卒業文集を取り出し、彼女のページを開くと最後の1行が目に飛び込んできました。
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〈資料2〉

〈資料2〉
 教え子の母との再会。「先生、ナッツはまだ結婚しないのよ。でも、一生懸命だから安心して!」。ナッツは音楽関係の仕事をしています。バリバリの管理職とのこと、中学時代の彼女からは想像もできませんでした。帰宅後、古い卒業文集を取り出し、彼女のページを開くと最後の1行が目に飛び込んできました。
初めて手がけた卒業論文"Prelude"に載っている作品。目前に迫った入試に備え3年間の基本文の復習と定着を図るのが1つの目標でしたが、「英語を自分の言葉として使って欲しい」という私の想いを形にしたものです。論文の題材や例文集、書き方、願いなどB4版8枚にわたって書いてあります。若かったので力が入っていたな、と今読むと苦笑いです。何年も経っているのに文集を読むとその頃に戻っていきます。綴った夢を実現させたナッツに拍手です。

3.小さな実践が土台

 自己表現は小さな実践、つまり授業中の表現活動や宿題、夏・冬休みの課題などの積み重ねが土台となります。1時間の授業や生徒とのふれあい(対立や対決も含めて)など日常生活の中でどの子にもあるキラリと輝く一面を発見することが豊かな表現に繋がっていきます。たったの1文からでもいいのです。その中に子どもの生活や心を知ることがあります。ゆっくり、じっくりやっていかなければ彼らは本当の姿も心も見せてはくれません。卒業文集を作り続けられたのは小さな表現活動によるところが大きいと思っています。そのいくつかを紹介します。

①<授業から have never been to ~>
[現在完了形] 行ったことのない場所を○○編として5文書く。
I've never been to the U.S. I've never been to China. I've never been to India. I've never been to Italy. I've never been to Canada.

②<冬休みの課題「君も詩人」>
イギリス人C.ロセッティの詩"What are heavy?"をベースに自分の気持ちを書かせる。やり方はプリントで配布。韻などは説明せず、自由に書く。

What is weak?
My heart: fragile like glass
What is sad?
War : a lot of people die.
What is full?
Tears : I can see a sea for tears.
What is dream?
To live honestly, I hope only peace. (女子)

What are sad?
War and homicide.
What are happy?
Peace and table tennis
What are wonderful?
The earth and mankind.
What are important?
Family and friends. (男子)

(70編の提出あり、ALTに良い作品を選出してもらった。英語通信に掲載し、授業の前に紹介した)。

③<宿題 Let's make easy Quiz in English. What am I?>
  • I am a drink. My color is white. I am very popular with children. I have much calcium. You drink me in the morning. (MILK)
  • I can't be seen through human eyes. You enjoy me with your ears. I can make the people who listened to me happy. Many people express me by kinds of musical instruments. Everyone likes me. (MUSIC)
(やさしいクイズは他学年の先生が1年生の授業に使用)

④<1枚文集 1年間の英語学習をまとめる>
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〈資料3〉

〈資料3〉
(自己紹介・夏冬休みの英語日記・英語の歌の替え歌・詩などを自分のアイディアを生かしてまとめる。2年生の文集と3年生の文集Your Songへの土台作りとなった)
こうした小さな取り組みが卒業文集へと発展していきました。全員分載せるのは大変でしたが、「関わること」と忍耐強い「待ち」の姿勢を貫いて編集・発行に努力してきました。文集を手渡した時必ず自分のページを真っ先に開くのはほほえましい光景です。

[卒業文集の作品から]
おしゃべりに興じたり悩んだり、試行錯誤しながらの自己表現。

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〈資料4〉

〈資料4〉
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〈資料5〉

〈資料5〉

4.最後の文集から見えたもの

 最後の2年間を教えた生徒は最初の出会いから先が思いやられました。かたくなに心を閉ざす彼らをどう受け止め、どう向き合うか、といつも学年団で悩みました。本来の授業ができ、信頼関係が築かれるまで1年半を要しました。そしてようやく卒業間際「彼らにも心を表現させてみたい」という私の想いと、「英語で表現したい」という彼らの気持ちが一つになって、最後の文集が完成しました。嬉しい1冊になったのはいうまでもありません。高校生になった今、彼らは何の屈託もなく接してきます。 Highslide JS
〈資料6〉

〈資料6〉
「先生、あの文集の最後のページ読みました。先生が何を願って私たちに英語を教えていたのかわかりました。感動ものです。私、高校でも英語頑張っています」と、私と距離を置いていた女の子からの本当に思いがけない言葉でした。
「自己表現」は一人ひとりの子どもたちをさまざまな面から見つめられる優れた教育活動です。手間暇はかかりますが、そこから見えてくるもの、得られた喜びはとても大きい。子どもの成長のスピードはそれぞれです。結果を直ぐに求めるのではなく、私たち教師が蒔き続ける「ことばの種」が花開く日を気長に待ち続けたいと思います。