学力とは何か、どんな学力をめざし、どう評価するか
入門期の指導
―段階を踏んで一歩ずつ
荒木 好枝(あらき よしえ 東京・練馬区立開進第三中学校)
1.外国語学習の目的
私は外国語学習の目的を以下のように考えています。
- 自分自身の考えや気持ちを英語で伝えられるようになる。
- 外国語の学習を通して、世界の動きに目を向ける。
- 平和な地球を作るために、世界の人々の生活や考え方を学び、彼らへの理解を深め、連帯する。
- 私たちの日本、そして日本語を見つめ直す。
2.外国語学習の到達目標
以上の目的を踏まえ、到達目標を以下のように設定しています。
- 言語:聞く力・話す力・読む力・書く力などの基礎を養う。
- 文化:外国語学習を通じて言語や文化に対する理解を深める。
- 表現:学習した文法・文型を用いて、またその場に応じた表現でコミュニケーション活動を行う。
3.入門期(1年生)の授業の実践
まずは音から入り、言えるようになり、聞いてわかるようにしてから、書くことの指導へと続ける。
- 「音」の指導
- ① 英語のみによる授業開き
- 私からの簡単な自己紹介
- 一人ひとりと握手をしながらHow do you do? My name is Araki Yoshie.
- Love your friends! … 筆記体で黒板に書き、発音練習。
- 発声三原則(Loudly, Kindly, Clearly)… ジェスチャー付で
- Number Game…「One, Two」「One, Two, Three」というように順番に言っていく。1~10までの発音を教える。
- ②1年生の始めから次のようなClassroom Englishを多用する。
- Stand up. Sit down. Listen to the CD. Look at me. etc.
- 毎時間Given Nameで出席をとる。生徒は挙手をし “Here." と言う。
- “How are you?" でのあいさつ
- 授業の始めに、曜日・日付・天気・時刻を聞く。
- “Do you have your textbook?" などで持ち物の確認をする。
- How many? What? Who? などを多用する。
プリント類を配布するとき、必ず “How many?" と聞き、"Five, please." のように答えさせたり、ピクチャー・カードを見せて"Who?" と聞いたりする。
- ③英語の歌
授業の始めにCDをかけ、私もいっしょに大声で生徒の顔を見ながら歌う。生徒も私に乗せられて、声を出すようになる。歌い終わると、必ず「前よりも歌えるところが増え人」とか「覚えて歌えるようになった人」のように問いかけ、挙手させる。「声が聞こえてきたね。」と言ってほめる。 - ④「英語の特別音」と「英語ラシク発音」
- 「英語の特別音」…未習語の付けたふりがなを説明しながら、発音の仕方を確認する
(f:ふ v:ヴ th:さしすせそ、ざじずぜぞ l:らりるれろ r:ラリルレロ) - 「英語ラシク発音」…カードにしたものを黒板にはり、常に意識させる。
- 「英語の特別音」…未習語の付けたふりがなを説明しながら、発音の仕方を確認する
- ⑤身の回りのものを英語らしく
- ボンゴ・ボンゴ(リズムマシーン)を使って発音練習
- 『身のまわりのものを英語ラシ~ク言ってみよう!』
- ⑥ハッピー・トーキング…ALTとの授業で ALT、そして生徒同士で行うQandA。「Look up and speak!」と呼びかけ、相手を見ながら話すよう促す。会話の機会を増やし、話すことに慣れさせる。また直接話すことによって、より友だちについて知ることができ、仲間作りになる。未習の表現も取り入れ、話す中で身につけさせる。文法的な説明は後から教科書で行う。
- ① 英語のみによる授業開き
- 文字の指導
- ①アルファベット…発音をしっかり教え、起源を考えさせる。
練習をさせた後、テストを行い、満点でなかった生徒は再テストをし、全員が書けるようにする。 - ②ヘボン式ローマ字…「音の足し算(注)」に気づかせる。
(注)単語の発音は音の足し算であることに気づかせる。
〔例〕pen=〔p〕+〔e〕+〔n〕、cat=〔k〕+〔●〕+〔t〕- ヘボン式と訓令式との違いに注目することによって、英語の発音とつづりを学ぶ。
〔例〕shiとsi, chiとti, tsuとtu, fuとhu など - ペンマンシップやライティング・マラソン(後述)を使って練習
- 自分の名前をローマ字で書く。プリントで一人ひとりチェックし、正しい見本を書いて返しその手本を見ながら3回書く。
- ヘボン式と訓令式との違いに注目することによって、英語の発音とつづりを学ぶ。
- ①アルファベット…発音をしっかり教え、起源を考えさせる。
- 単語の指導
- ①「音の足し算」…単語の発音は音の足し算あることに気づかせる。ペンマンシップとライティング・マラソン(後述)で練習させる。
- ②ワード・マラソン …本編に入る前の単語31語を少しずつ分けた単語テスト。毎回、前回の出題単語も出題。また早く終わった生徒は、次回出題する単語をウラに練習する。間違えた単語は5回ずつ書いて提出すれば合格とする。
- ③ビンゴ…単語を書く練習、聞き取り、発音の練習にする。
- ④辞書指導…自分の英和辞典を持参させる。
- 文の指導
英文はハッピー・トーキング(前述)やClassroom Englishを通して体で覚え言えるようになる。また聞いて分かるようにする。教科書は、読み書きの練習の材料、文法・文型を確認するために使う。- ①ライティング・マラソン…教科書1セクションに1枚の書く練習をする用紙。私のお手本の下に3回ずつ書いて練習する。
- ②英語通信『友and愛』…文法事項を私の自己表現などを使ってわかりやすく説明する。
4.テスト作りと評価
- 事前に「100点への道」(チェックリスト)で到達目標を示す。
- テスト問題は、授業で話したこと、やったことが反映されるものとなるように心がける。
- テスト返却時には、『英語チェックしま表』を配布する。
『英語チェックしま表』とは、テストの結果を自分自身でグラフにすることによって、文法事項や文型に関する達成度や学習状況が把握することができる自己評価表である。点数ばかりではなく、「英語が好きだ」とか「忘れ物をしない」というような、日頃の英語に対する意欲や取り組む姿勢なども振り返ることが出来る。「家庭からの一言」の欄を設け、表完成後、家庭から’応援の一言’を書いてもらう。家庭にも子どもの学習状況を知らせることができる。スペースは狭いがどの家庭もたくさん書いてくれている。
5.1時間の授業の流れ
- ①Greeting
- ②Short Questions
I’ll ask you today’s date. (発音練習、板書)
What day is it?
What’s the date today?
How is the weather?
What time is it now?
Do you have your textbook? - ③Calling the roll
生徒の目を見ながら全員のfirst nameを呼ぶ。生徒は “Here." と言って挙手する。生徒の存在を認めるという意味で毎時間必ず行っている。 - ④Singing
- ⑤Playing BINGO
- ⑥その日によっていろいろなメニューで
ワードマラソン・新しい文法事項の導入(自作の教具や実物、英語通信などを使って)・教科書の本文(教科書プリントなどを使って)・まとめ(練習問題、英語通信などを使って、etc.) - ⑦Greeting
6.「スペコン大相撲」
大相撲の番付になぞらえて行ったスペリング・コンテストの意味で、9月と1月に、夏休み・冬休み明けに実施した。出題範囲はそれまでに学習した語と語句とし、それらの語と語句をリストにして単語練習を長期休業中の宿題とした。休み明けに、「スペコン大相撲○○場所初日」と名付け、学活などで一斉に実施。
- ★「初日」(1回目)は採点後、模範解答とともに返却、練習期間をおいた後「千秋楽」(再テスト:まったく同じ問題)を全員に実施した。千秋楽は間違えた単語を5回ずつ練習させる用紙をつけて返却した。初日・千秋楽ともに得点によって番付をつけた。
- ★〈番付〉横綱(100点)、張出横綱(千秋楽で100点)、大関(90点台)、張出大関(千秋楽で90点台)、関脇(80点台)、小結(70点台)、以下前頭、十両、幕下、三段目、二段目、序の口(0~19点)と続く。
- ★「千秋楽」で合格点(80点)に達しない生徒には、「再挑戦」(再々テスト)を実施。
- ★「再挑戦」でも不合格だった生徒には「がんばり教室」を実施。
- ★「がんばり教室」は、段階に応じて設けたコースを生徒が選択。
〈コース〉「うさぎさんコース」(同じ問題をそのまま出題。合格点以上取れれば合格)、「かめさんコース」(問題を20問ずつに分け順に受けていく)、「じっくりかめさんコース」(問題を10問ずつに分け順に受けていく)、「もっとじっくりかめさんコース」(1語ずつ書けるようになった単語から受けていく)。どのコースも80語に到達したら合格。 - ★最後に「認定証」を渡した。
《スペコン大相撲の実践を通して》
- 努力の成果が点数となって現れるので意欲がわき、子どもたちのがんばりも評価してあげられた。
- その名称から"テスト"という重苦しさがあまり感じられず、楽しい雰囲気になり、意欲的に取り組ませられた。
- 同じ問題で何度もやるので、一度では覚えられない生徒もできるようになり、自信を持たせることができた。また、重要な単語を選んで出題したので、単語力をつけることができた。
7.評 価
真の評価というものは以下のようなものであるべきだと考えている。
- 学習者を励ますもの
- 到達点を示すもの
- 教師の反省材料となるもの
- 子どもにも父母にもわかりやすいもの
- 点数ばかりではなく、発言や文章による具体的な評価が必要
- 子どもを大切にする。教師の子どもに対する接し方そのものが評価である。
- 生徒自身の自己評価(自己分析・自己反省)
- 他の生徒たちから見てもよくわかるもの
あらゆる場面で子どもたちを励ましていきたいと思っている。この励ましこそが評価ではないだろうか。そしてそこから、子どもたち自身が目標を持って学ぼうとする意欲を持ち、「真の学力」をつけていくのだと思う。