■ 神奈川・東京・千葉合同10月例会
2011年10月
参加者の感想
- やはり3支部合同の例会にすると新しい顔にも知り合い,参加者も多くて,ダイナミックなパワーを感じられます。場所を準備し,茶菓セットを準備してくれた東京新英研の皆さん,ありがとうございました。
- 今回で2回目になりますが,このような例会は今後も続けてもらいたいと思います。中学の発表は2本見ましたが,平和教育,キャリア教育,とても充実した内容でした。
- これから英語教育を行うにあたって,大切な部分を学ばせていただきました。参加者の方もおっしゃっていましたが,心ある素敵な方々の集まりだなぁとあたたかい気持ちになりました。小学校と違い,教科指導の中でどう人を育てていくのか悩んでいたので,少しスッキリしました。今日勉強したことを活かして,また明日から頑張っていきたいと思います。
- 本日は,新英研を見学させていただきありがとうございました。今までいくつかの英語研究会にお邪魔させていただきましたが,新英研ほど皆さんが積極的でアットホームな感じの研究会は初めてでした。また機会がありましたら,ぜひお邪魔させていただきたいと思います。ありがとうございました。
- 本日は初めてじっくりと高校の授業についてのレポートに参加しました。私は中学校の所属でこれまで中学校のレポートを多く聞いていたので,今日はとても勉強になることが多かったです。私が教えた生徒が高校に行ってどんな英語を学んでいるか知らずに過ごしていたことに気づきました。また,高校の先生が入学してくる生徒にどんな要望を持っているのかがよく分かりました。
- 英語の読解とは何か? どのようにその力がつくのかについてあらためて考えさせられました。精読と多読を組み合わせていくというのがやはり大切で,自分自身は最近多読についての取り組みの意識が弱くなっていたなあと反省させられました。統一進度,統一テストの制約の中で,やりにくい面もあるのだろうなあということも感じられました。ただ,文の構造理解をさせることの重要性については同感なのですが,それを実現するための手法として訳読に頼り過ぎていないのかという疑問も残りました。そして花田さんの英語授業の到達目標がどこにあるのかをお聞きして,参加者の皆さんでもっと議論してみたかったかなとも思います。
●実践報告(高校):
「高校英語での『学びの共同体』の成果と課題~「独裁者」を使った授業で」
沖浜真治さん(東京大学教育学部附属中等教育学校)
2月11日の公開研究会で授業をご覧になっていたという方が当日の参加者に数名いらっしゃいました。映像で観るよりも実際の授業はもっと暖かみがありました,というお話が出ました。東大附属の生徒達は毎年公開授業をし,ふだんも来訪者も多いので,見学者が教室にいるのはどうっていうことはない(当日は90人!)とのこと。和やかな授業のなかで,絶妙な発問によって生徒から素直な発言が引き出されていましたが,それは,沖浜先生がお持ちのソフトな雰囲気のみならず,佐藤学教授の指導の元,全校で取り組んできた「学びの共同体」の実践研究の積み上げがあるからこそ成立するのだと私は思いました。(20名参加)
2月11日の公開研究会で授業をご覧になっていたという方が当日の参加者に数名いらっしゃいました。映像で観るよりも実際の授業はもっと暖かみがありました,というお話が出ました。東大附属の生徒達は毎年公開授業をし,ふだんも来訪者も多いので,見学者が教室にいるのはどうっていうことはない(当日は90人!)とのこと。和やかな授業のなかで,絶妙な発問によって生徒から素直な発言が引き出されていましたが,それは,沖浜先生がお持ちのソフトな雰囲気のみならず,佐藤学教授の指導の元,全校で取り組んできた「学びの共同体」の実践研究の積み上げがあるからこそ成立するのだと私は思いました。(20名参加)
沖浜先生
- メッセージ:
私の勤務校ではここ6年間ほど協同学習を取り入れてどの子にも質の高い学びを実現しようと学校全体で研究,実践に取り組んできています。この取り組みが生徒にも教員にも徐々に良い変化をもたらしてきたとは思いますが,順風満帆というわけでもありません。昨年度担当した学年(高校2年生)ではなかなか思うように授業がうまくいかず四苦八苦しました。そんな中で学校の公開研究会で行った授業について,ビデオを見ながら皆さんに分析していただき,協同学習と学びの関係について一緒に考えられたらと思います。この授業はチャプリンの「独裁者」の演説を読み込みながら,今の自分たちの生き方についてもう一度考えさせることを目標にしたものです。
指導案
- 第12回東京大学教育学部附属中等教育学校公開研究会「学びの質を高める協同学習」(2011.2.11)で発表したときのビデオを観ながら解説。
- 学習目標:今の自分の生活と重ね合わせながら「独裁者」演説の内容を読み取る。英語の演説らしい表現の特徴(繰り返し,対比)やリズム感を学び,自分でも音読による表現を楽しむ。
- 指導計画
- Part1~3新出単語・熟語確認,文法項目説明・練習(2時間)
- Part1~3読解・音読(2時間)
- 映画「独裁者」短縮版鑑賞(1時間)
- 演説読解と音読表現(5時間)…本時
- グループ自己表現(印象に残った部分の暗唱と感想)(2時間)
- 本時の学習目標:テーマ「演説を味わいつくす」 演説の内容を今の時代と重ね合わせながら具体的に理解する。暗唱もしくは音読による表現を楽しむ。
- 生徒所見:素直で明るい生徒が多い。深く考えて質問・発言する生徒は限られており,英語がかなり苦手なために普段は活動に参加できない生徒も散見される。全般的に家庭学習の習慣が十分でないため,担任クラスということもあって,家庭学習時間を増やすための学習運動に取り組んだこともあった。全員を巻き込んでいかに深い学びを実現するかが自分にとっての課題である。
- 教材について: 英語II "Chaplin's Speech for Freedom" (COSMOS ENGLISH COURSEⅡ, Lesson 11) 特に最後の演説は,当時の世相についてだけではなく,現代社会のあり方についても考えさせられる優れた教材である。学び甲斐のあるこの演説を教師の一方的な思い入れで説くのではなく,生徒同士が自分が感じたことを語り合って学ぶ機会にできないかと思う。しかし単語や構文の難易度はかなり高く,また日本語訳や日本語での意見交換だけで終わらせてしまっては英語授業としては不十分にも思える。そこで暗唱に取り組ませるという手も考えられるが,難しい教材だけに形だけの暗唱に終わる危険性もある。ハードルはかなり高い。
- 評価ポイント:今の自分の生活に重ね合わせながら内容を理解しようとしていたか。演説内容や表現の特徴をとらえ,それにふさわしい表現を行っていたか。
授業の展開
- 導入 単語・表現確認(10分):意味の確認,音読練習。
- 展開1 グループで意味を確認(15分):1人1文ずつ順番に担当。スラッシュを入れながら逐語訳。「わからない所は他の人に聞く」ように指示。《普段なかなか参加できない生徒のいるグループの進捗状況をチェック。ワークシート裏の日本語訳に最初から頼らないようにさせる》 終わったグループは報告し,音読練習。
- 展開2 理解深化と表現(20分 ワークシートの設問についてグループで考える。全体で意見交換。解釈をふまえて音読練習。《演説内容と今の自分との関係を考えさせられるとよい。》
- まとめ(5分):疑問と感想を記入して提出。
- 評価:今の自分の生活に重ね合わせながら内容を理解しようとしていたか。演説内容や表現の特徴をとらえ,それにふさわしい表現を行っていたか。
ワークシート
The Concluding Speech of The Great Dictator
- The way of life can be free and beautiful, but we have lost the way.
- Greed has poisoned men's souls ― has barricaded the world with hate ― has goose-stepped us into misery and bloodshed.
- We have developed speed, but we have shut ourselves in.
- Machinery that gives abundance has left us in want.
- Our knowledge has made us cynical; our cleverness, hard and unkind.
- We think too much and feel too little.
- More than machinery we need humanity.
- More than cleverness, we need kindness and gentleness.
- Without these qualities, life will be violent and all will be lost.
学びの共同体
沖浜先生が授業風景をテープ起こしされたものを和田が再構成(生徒のイニシャルはABCを順番に振りましたので本名とは関係ありません):
- (モデルリーディングの後,コーラスリーディングで)The way of life can be free and beautiful…(当日の授業観察者から「高校生だがよく声が出ていますね」と言われたそうです。これも「学びの共同体」のひとつの成果かもしれませんね。)
- 沖浜先生の作業指示:日本語のチャンクまで読んだら,それにあたる英語を読んでいきます。ちゃんとみんな交代でやるんですよ。一人でやらないように。それから途中「名訳プリーズ」って書いてあります。名訳プリーズ!です。はいどうぞ,始め! [5分経過] 英語,読んでいますか? ちゃんと。チャンクでスラッシュ入れていますか?
- 板書:ホワイトボードに1~10のグループ番号を書く。終わった報告のあったグループ番号には×をつけていく。
- 英文Our knowledge has made us cynical; our cleverness, hard and unkind.について相談する生徒達の声: 「名訳プリーズってあるよ。」「だから,かっこよくしろ,ってことでしょ。」「our knowledge私たちの知識は has made us cynical… 名訳しようぜ。」「私たちの知識は私たちを皮肉なものにした。」「言ってた,言ってた。これ,昨日。」「賢さは私たちを…」「でもなんかさあ,clevernessの後にコンマが入っててさあ,動詞がない…」 沖浜先生:その名訳プリーズで言っているのは,結局,中身は何を言ってるのってことなんだよね。だからイメージや具体例を自分で考えた時に初めてことばが出てくるんじゃないの? ね,そういうところをちょっと考えてみて。 [16分半経過] ちょっとみんな,5番でつまってるとか,今ちらっと聞こえてきたけど,共通構文。5番って,こないだやったプリントだよね,そこで実際もう1回やってるよ。
- 英文We think too much and feel too little.について相談する生徒達の声: 「しつこいなあ,飛ばすか?」「飛ばすの?」「いや,終わったらまたくればいい。全体像をつかむとわかるかもしれない。」「頭で考えるけど心で感じてない。… みんななんか,いいじゃんとか言ってくれないから,無視されたかと思った。」「いや,いや,あのー,頭の中で整理してたんだよ。じゃあ,それで。」
- The way of life can be free and beautiful, but we have lost the way.
[20分経過]「一旦ちょっと作業をやめましょう。わかんない? えーと,1番は『人生は自由で美しいはずだ。しかし私たちは道を見失ってしまった』 えーと,その後をAさん,読んでね。」 - 2) Greed has poisoned men's souls ― has barricaded the world with hate ― has goose-stepped us into misery and bloodshed.
Aさん:貪欲が人の心に毒をまいたのだ。世界を憎しみで封鎖し,不幸と流血へと導いたのだ。(ワークシートでは「貪欲」「憎しみ」が空所になっている)
沖浜先生:ちょっと,あのー,Goose-stepped usっていうのは,普通使いませんよ,こんなの。ここで初めて見ました,goose-steppedって言うのはまあよちよち歩きなんですけど,まあ書いてあるよね,「ひざを曲げずに脚を高くあげて歩く」って,覚えてますか映画,わかります?(真似て見せると生徒に笑い) いわゆるあの,まあ軍隊,特別な軍隊式のやつね。それを使って,動詞化して,そういう形で私たちを,つまりmisery and bloodshed,つまり何ですか?
Bさん:戦争。
沖浜先生:戦争ですね,つまり具体的には戦争ですね。まあヒトラーをもちろん揶揄してるわけですが。 - 3) We have developed speed, but we have shut ourselves in.
沖浜先生:えー,we have developed speedここはちょっと後で問題になるんですが…。さあ,Cさん。
Cさん:私たちは…。
沖浜先生:まあ,そうびっくりしないで。ああ,わからなかったですか?そうですか。(近づいて行って)みんなわからなかった? 言葉が適切なのが見つからなかった?
Cさん:速度?
沖浜先生:ああ速度ね,そうなんですよね,速度,まあスピードでもいいんですが,これは何かということをちょっと後で考えましょう。 - 4) Machinery that gives abundance has left us in want.
沖浜先生: 4番,名訳プリーズ,名訳プリーズ…,D君。4番,どんなになった?
D君:豊かさを与えてくれる機械は私たちをダメにした。
沖浜先生:ああ,ダメにしたと,きましたか。うちらの方がいい? はい,どうぞ。(笑)
Eさん:機械が与えた豊かさは私たちを貧しい人間にした。(会報担当のコメント: Machinery that gives abundance「豊かさを与えた機械」という文構造をEさんは理解できていないのですが,当日の授業ではここはスルーしたそうです)
Fさん:心が貧しいじゃない?
沖浜先生:今なんか言いましたね,Fさん,何が貧しい?
Fさん:心が貧しい。
沖浜先生:心が貧しい…,そうだね,言いたいことはそこのところ,物質の世界と心の世界っていうのを対比しながら,ね。
Gさん:ティーチャー(沖浜さんのあだ名)言いたいって。
沖浜先生:あ,はい。
H君:機械のおかげで豊かにはなったけど,…。
沖浜先生:後半聞こえないね,そこが肝心の所聞こえない,もう一度(笑)。
H君:機械のおかげで豊かにはなったけども,私たちは常に物欲の中に取り残されてしまった。
沖浜先生:「物欲の中に取り残されてしまった」 すごいねえ。あの,H君いつもそういう悩みがあるんですか?
H君:ないです。(笑) (中略)
沖浜先生:機械の豊かさって何? 例えばどういうことを言ってるの? たくさん,いっぱい生産できる,だから僕らの生活は本当にいろいろ豊かになってますよね。物がない世界に比べると本当に豊かです。他には何かある?
Iさん:経費の削減。
沖浜先生:経費の削減? どういうことですか?
Iさん:マシンを導入すると人件費が削減できて,黒字の方にまわるかなって。
沖浜先生:あー,それで豊かになる。なるほどね。でも人間は捨てられていったりして,かわいそうに。そういう豊かさ,もちろん洗濯機にしても,あのー,僕のちっちゃいころなんて,知らないでしょうみんな,こうやってさあ(ハンドルを回す動作),洗った後さこうやってさ,ローラーが二つあって回すと,ぐにゅーって出てきてそれで脱水するんですよ。
Jさん:知ってる,知ってる,トムとジェリーの。
沖浜先生:トムとジェリーの! 今やピッて押したら終わりですよ。本当に便利になった。毎日夜やってますよ。さて,それがhas left us in want。さっきから名訳が出てきたね,いろいろね。つまり心の状態がin want,もう1回聞きますけどwantの原義は? 欠けているってこと,欠けているからほしいんですね。そうだったでしょ。だからin wantってそういう状態であるということ。
Kさん:そうなんだ。
沖浜先生:そうなんだってこないだ教えたじゃない。だからleaveの使い方,leave誰々・何々をこういう状態(形容詞)においてしまうということですから,それで私たちはいつもin wantだから,H君が「物欲の世界」って言ったんだよね,いつも私たちが置かれているということですよ。 - 沖浜先生は次の作業を指示:さて,そうしたら,皆さん,ただmachineryって言うとそれは具体性がないので,えーと。例えばですね,もっと具体的に,洗濯機でもいいんですけど,具体例でなんかないかな?(会報担当のコメント:Be specific.「具体的に」という沖浜先生の呼びかけが素晴らしい!) 僕らの回りのことで,あるいは歴史的にでもいいし。そして,それはもしかしてabundance(丸で囲みながら)と言わないかもしれない。豊かそうだけども実は豊かでないかもしれない,それは何なんだろう? っていうのをみんなで考えます。えーと前やったのと同じでグループで1枚書いたら貼る。どんどん貼っていく。誰か一人ずつちょっと取りに来て。一人一枚。ペンは好きな色をどうぞ。1個書けたらあがってくる。みんなで考えて。動詞も変えてもいいんだよ。Givesでなくてもいい。(以下略:Medicine that gives us health has left us in weak.という英文が生徒から出ていたので,沖浜先生は「結構これからみんなね,おじいさん,おばあさんになってくから重要だよ。薬漬けってやつだね。そういう問題だね。僕はならないようにします。」とコメントしていた。)
参考文献
- 沖浜真治「中高一貫校における実践 6年間の指導が生徒に与える効果と課題」『新英語教育』2010.7
- 沖浜真治「高校英語での『学びの共同体』の成果と課題」『新英語教育』2011.12
この記事に授業記録(生徒とのやりとり)が詳細に書かれています。ご参照下さい。
質疑応答
- Q:クラスは?
- A: 2年に1回クラス替え。1学年3クラスしかない。
- Q:学びの共同体と協同学習の違いは?
- A:学びの共同体は佐藤学教授が勧めているが,協同学習(ペア・グループで課題を解決)を入れながら,「生徒の共同体」「教員の共同体」を同時に作ることを目指す。授業研究会を学年・学校全体で行い,他教科を見合う。授業研究会は生徒がどんな発言をしたかを見るのが目的であって,批判する会ではない。学びの過程を学び合う。高校の数学や生物の授業は内容がさっぱりわからなくても,見ることが自分の授業にも影響があると感じている。
- Q:アドリブが多い,それとも,話すことは決めていますか?
- A:どうなんでしょうねぇ。ワークシートがキーになっているので,それだけ考えている。
- 意見:greed(貪欲)という単語を見ると,キリスト教で言う「7つの大罪」を言いたくなる。教員しか知らない知識もある。協同学習は生徒主体でボトムアップだが,英語に関しては教員からのトップダウンが必要だと思うが…,どうか?
- グループ1:協同学習として,自己表現や和訳はどこでもよくやっているが,文法説明(「三単現のsとsのちがい」を説明させたら「gets upにsがつくのは,2回起きるから!?」という説明をした生徒がいて可愛らしかったそうです)を生徒にさせているという中学の先生がいらっしゃった。また,東大附属に行って,当日の授業見学をされた方から「沖浜さんの人柄,良さがビデオに出ていない(デジタルはダメだな…)。英語とチャップリンを子どもたちに出会わせている。今日私たちが(うさんくさいものに)だまされているとしたら,それにも出会わせている。これを超える協同とは何かを考えている」とのお話でした。
- グループ2:うさんくさいと思わせたいのかな,と思ったり,何をねらいとしていたか知りたい。
- Q:背景知識はどこまで生徒は知っているか?
- A:チャップリンが映画を作るのに苦労したことが教科書に載っている。映画を見せた。生徒の発言が自分の予測した通りではないかどうかは気にせず,生徒から出てきたものを拾う。ドキドキするが普通のものがでてくる。
- グループ3:英語に「血」が通う感じになっている。ポイントの絞り方が大切。軽重をつけないと長い教材は終わらない。みんなにしゃべらす授業で成立している。英文の中身の難しさにはまると英語から離れていくものだが,この授業では英文と中身が大きく外れていない。生徒は発言するのが好きなようだが,高3がいちばん声が大きいそうだ(6年間一貫校のせい?)。
■参加者の感想
- 沖浜さんの静かな実践からは,英文を自分のものとして考える生徒たちの姿を学びました。自分には欠けている「質問する力」が今日見せて頂いた授業にはあると思いました。自分の方からどんどん答えを言ってしまう普段の授業のあり方を考えさせられました。花田さんの「長文を読む」という実践は,示唆に富んでいました。長文を高校で読ませるときに,どんなことがネックになっているのか,明確に答えて頂いてありがたかったです。品詞の使い分け,とくに副詞と形容詞,述語動詞の見分け,長い主語,接続詞は同じ質の語をつなぐなど,中学で問題視していないことがほとんどでした。何となくあて推量で創作してしまう読み方を,私の授業でもさせてしまっているように思いました。「人間は使い方がわかると使いたくなる動物」というのも頭に残るフレーズでした。使い方がわかる,そんな授業を1年に一度でもやれたらいいのかもしれません。ありがとうございました。
- 協力しながら学び合うというのは,教室内でこそ可能な学びのスタイルであり,共に成長する喜びを味わえる点で,単なる英語の授業ではなく,人間形成上大きな意味がある取り組みだと感じた。
- 沖浜さんはビデオとそれを書き起こした文と2つで発表しました。今回の発表は「協同学習でよみがえる英語授業―中高一貫校における実践 6年間の指導が生徒に与える効果と課題」という長いタイトルがついていました。でもやっぱりそういうタイトルがふさわしかったとおもいます。なぜなら,6年間が生んだ生徒どうし,また教員との信頼がなければ,あのような自由で活発な授業にはならないだろうと思われるからです。教師がポイントになる文をあらかじめ選んでおいて,それについてグループやクラス全体でもんでいって名訳を生み出していく,こういう作業が授業の中で行われたので,生徒たちは何度も英文を読みながら文を書いた人の気持ちを推測して自分たちにピッタリくる解釈をする,なんと楽しい授業だろう,そして生徒たちの力になっていく授業というものはこういうものではないかと思いました。沖浜さんは自分がしゃべりすぎている,と感想を言っていましたが,それでもおおぜいの生徒がしゃべって知恵をだしている協同の作業でした。
●実践報告(高校):「英語長文を読む!」
花田禮司さん(都立国立[くにたち]高校)
花田先生はお忙しい中,急遽レポーターを引き受けられたのですが,短期間の準備でみごとにこなされていました。都立の伝統校・進学校である国立[くにたち]高校の学校独自の副教材を見せていただき,興味津々でした。やはり伝統校はちゃんとした英文をしっかりと読ませているのだなぁと感心するとともにホッとしました。(15名参加)
花田先生はお忙しい中,急遽レポーターを引き受けられたのですが,短期間の準備でみごとにこなされていました。都立の伝統校・進学校である国立[くにたち]高校の学校独自の副教材を見せていただき,興味津々でした。やはり伝統校はちゃんとした英文をしっかりと読ませているのだなぁと感心するとともにホッとしました。(15名参加)
花田先生
- レポーターから:雑誌『新英語教育』20011年9月号「入試長文を読む」に書いた報告を中心に,掲載できなかった小技や問題点,場合によっては問題を問いかけてみなさんのご意見を出し合ってみても面白いかと思っています。
- エピソード:前任校(ここも進学校)で、花田さんがご自身が高1のときに作った単語ノート(発音や品詞,意味を書いたもの)を生徒たちに見せたところ,生徒たちは市販の単語集で単語は覚えるものだと思っていて「これ,先生が編み出した方法ですか?」と尋ねられたそうです。
雑誌記事
- 「長文読解に必要な力」『新英語教育』2011.9:
「主語は述語動詞の前まで」「連結詞とその後の文はひとまとまり(=従属節,関係詞節,疑問詞節)」「等位接続詞はその直後の語と同性質の語をつなぐ(A, B, and Cに注意)」「, ~, の挿入に注意」
参考文献
- 花田禮司「長文読解に必要な力」『新英語教育』2011.9
- 花田禮司「やっぱり文法はきちんと教えたい ―困難校から進学校まで―」『新英語教育』2007.2
副読本
- 英語は週3授業。『キクタンリーディング4000』(アルク)を5~10分。単語のページとそれらを使ったパッセージのページを毎時間やってくれといわれている(やり方は各教師自由)。
週1回ずつ「リスニングの問題集(10〜15分)」「速読の問題集」を組み込んでいる。残った時間で教科書 ELEMENTⅡを昔のやり方で訳読式。訳読の欠点を補う意味でも音読にはかなり時間を割いている(『新英語教育』2011.9の記事参照)。 - 国立高校にはKuniko Heritageという副読本がある。Rachel Carson, Sense of Wonderをはじめ,芸術論,科学,哲学,文明論,小説など,多彩な文章を原書そのまま取り上げて読んでいる。(★会報担当和田より:伝統校ならではの良き習慣。すばらしいですね。こういう副読本がレベルに関係なく,どの学校にも独自のものがあるといいですね。)
ワークショップ
- Q:教科書ELEMENT Iの英国首相のチャーチルの母の手紙です。この文の中で本人に一番こたえた英文とその理由を考えましょう。
- A:生徒たちはIf you make a plan of action for yourself & carry it out, I am sure you can do anything.を選んでいた。「あなたはできる,と言われると,やる気が出る」という意見だった。Your brother Jack, on the other hand, comes at the head of class every year..は少なかった。比較されるのは嫌いらしい。 Churchill's mother was very upset and wrote him the following letter.; Dear Winston, I have much to you, but I'm afraid it's not good news. Look at your place in school My dear Winston, I love you, but you make us very unhappy - I had built up such hopes around you & felt so proud of you & now all is gone. If you make a plan of action for yourself & carry it out, I am sure you can do anything. Your brother Jack, on the other hand, comes at the head of class every year.. I will say no more now, but Winston, soon you will no longer be a child. You should think about your final two years and how important they are for your future life - Stop, think it out for yourself, & work hard before it is too late. Love, your very unhappy Mother
ネット検索したら,ヤフーの知恵袋に和訳の問い合わせが載っていました。)
質疑応答
- Q:単語帳は作らせましたか?
- A:プリントでさせたり,高1の半年はこういうやり方でさせたいと思っている。生徒には辞書を引いて欲しい。
- Q:長文は?
- A:夏休みなど1冊。国立高校のような都立のトップ校では定期考査に出題して終わり。都立の2番手のS高校やT高校では週末課題としてセクションを区切って課題を与え,進度をコントロールしている。T高校とK高校でアンケートしたら『ブラックジャック』(三友社出版)が人気1位だった。
- Iさん:年間で10数冊読ませている。10ページごとにあらすじを追う課題。古典の『ロミオとジュリエット』,O・ヘンリー『20年後』,レイチェルカーソン『沈黙の春』,動物の話で『オワイトパング』など。オックスフォードのシリーズ。『赤毛のアン』『不思議の国のアリス』などが人気。
- 花田さん:N高校では「困ったときのシャーロック・ホームズ」と言うくらい,生徒に人気があった。
- Iさん:and, butが何をつないでいるか分からない。接続詞をキーにさせる。
- 花田さん:A, B, C, and Dになると怪しくなる。「andのあとに注目し,同質なものが並んでいるでしょ?」と問いかける。関係詞など法則を絞っておいて「また出たね!」と言うことが大切。新採で勤務した困難校であるK高校でびっくりしたのは,This is the earthという文でisを(主格の助詞の)「は」だと生徒が思っていたこと。英文が何となく分かるという生徒が多い。リスニングが出来るようになるには,「英文の順序で理解して速読する訓練」が必要だが,これは音声を聞かなくてもできる。
- K1さん:生徒は面白くなくては嫌だと思っている。繰り返しの作業はつまらない。しかし何かを定着させるためには繰り返しが必要だと考えると,ここでコンフリクトが起こる。生徒に迎合していると感じることはないですか?
- 花田さん:しゃかりきにならないで,小話をする。「脱線が多いが面白くて良い」「できるようになったから面白い」と生徒は言ってくれる。『心に残る英語のことば』から(例えば過去完了の文を)3つ引用して「どれが良かった?」ときいたこともある。そこに40人の生徒がいる意味を感じられることをやってみたい。
- K2さん:チャーチルの手紙のところが楽しくて良かった。何度も繰り返して読むことになるので良い。
- 花田さん:古典的訳読では,生徒同士の関わりがないのが問題点。高校の長文で…どうやったら?
- Iさん:ピリオドまでペアで読む「リレー読み」。
- K1さん:Lesson 4の4セクションで1セクションでopen questionを出す。Why?など,4グループで話させて,リーダーが発表する(1~2分)。
- 花田さん:物語文だとやりやすい。
- 沖浜さん:直読直解と両立させる方法がないのかな~と考えた。チャンク読みってダメなんですか?
- Oさん:中学生はいつ辞書を引き始めたらいいのか? 教科書の後ろに単語リストがあってという状況。
- 花田さん:高校から辞書を使い始めた。中学でやっておくと良いことは「品詞が分かる」「単文がきちんと書ける」「述語動詞の形」
■参加者の感想
- 教師のさまざまな仕掛けによって,音読がうまくなり,難しい英文も解釈できるようになる実践でした。こういう教師主導の授業は,とくに進学校のような短時間で学力をつけなければならないところでは,有効だろうとおもいました。困難校でも進学校でも共通する文の捕らえかたは花田さんが文法分科会で長年やってきて,編み出してもののように思われました。しかし教師主導だからといって,生徒が退屈するようではダメなわけで,そのあたりは,彼のスピードのある話術,的確な質問によって補われているのではないかと思われました。花田さんは今後,神奈川で発表されるのですか。そうであればもう一度,彼の仕掛けを数えてみたいです。
- 高校レポート(進学校)と中学レポート(上からの委嘱研究中)の両方が気になり,失礼ながら二会場を往き来しながら参加させていただきました。花田さんはお辛いだろうな,というのが率直な感想です。歴史と伝統から「あれをやれ,これをやれ」と予め決められていて,進学校における制約の厳しさ驚くと同時に,半ば呆れています。新英研MLから伺われる花田さんの関心事は,今後どう授業の中に構築されていくのだろうと思いました。
- 訳読の弊害が多く取り上げられる昨今,訳読によって英文解釈力がしっかり育まれるという主張が新鮮だった。
秋のアフタヌーン・ワークショップ | |
●日時: |
2011年10月15日(土) 13:30~17:00 13:00 ~ 受付 13:30 ~ 15:00 実践報告・ワークショップ(1) 15:00 ~ 15:30 It's A Small Cafe (ミニ教材交換・即売会) 15:30 ~ 17:00 実践報告・ワークショップ(2) |
●場所: |
中野区立第三中学校 (JR東中野駅、東京メトロ東西線「落合」駅から徒歩5分) 東京都中野区東中野5-12-1 「東中野」駅東口改札をでて、左に進み、階段を下りて、右手に進む。石段を降りて、左手に日本閣、右手にショッピングモールを見ながら、3分ほど直進する。左手に「東中野幼稚園」をみて、右斜めにあります。
より大きな地図で 東中野駅~第三中学校 を表示
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●実践報告・ ワークショップ (1): |
①「世界は君を待っている―映像と長文で巡る世界の現場―」![]() (川崎市立白鳥中学校) レポーターから: 映像によるスキーマ拡大の後に初見の長文に挑ませるという学習活動を思い立ちました。映像と長文が伝える「そんなふうな世界のありよう」(小田実,1989)に心が動き,酷薄な現実を生きる人々に関心を寄せるコミュニケーション能力であってほしいという願いからです。 ②「高校英語での『学びの共同体』の成果と課題~ 「独裁者」を使った授業で」 ![]() (東大附属中等教育学校) レポーターから: 私の勤務校ではここ6年間ほど協働学習を取り入れてどの子にも質の高い学びを実現しようと学校全体で研究、実践に取り組んできています。この取り組みが生徒にも教員にも徐々に良い変化をもたらしてきたとは思いますが、順風満帆というわけでもありません。昨年度担当した学年(高校2年生)ではなかなか思うように授業がうまくいかず四苦八苦しました。そんな中で学校の公開研究会で行った授業について、ビデオを見ながら皆さんに分析していただき、協働学習と学びの関係について一緒に考えられたらと思います。この授業はチャプリンの「独裁者」の演説を読み込みながら、今の自分たちの生き方についてもう一度考えさせることを目標にしたものです。 |
●It's A Small Cafe (ミニ教材交換・即売会): |
![]() |
●実践報告・ ワークショップ (2): |
①「英語の授業の中で行うキャリア教育」![]() (千葉市立花園中学校) ② 「長文読解に必要な力」「やっぱり文法は教えたい」 ![]() (都立国立[くにたち]高校) |
●ご注意: |
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●参加費: |
500円(資料代含む) [神奈川支部会員は無料/学生は無料] |
●お問い合わせ: |
神奈川:萩原 ![]() ![]() ![]() |
神奈川新英研HP(次回以降の例会予定)
(2011年9月26日掲載/11月30日更新)