日本外国語教育改善協議会(改善協)のアピール(2023年)
Ⅶ.高校入試や学力調査へのスピーキングテスト導入をめぐって
外国語学習において4技能をバランスよく身につけることが重要であることは言うまでもない。しかしそれぞれを正確に評価することは必ずしも容易ではなく、特に「話す」力を測り入試に使うことについては、進路に関わることであり慎重さが求められる。
東京都教育委員会は2022年ESAT-Jを実施し、その結果を都立高校入試の合否判定に活用した。入試制度として①不受験者には、学力検査の得点が同じ受験生のESAT-J結果から見込み点が与えられたが、その妥当性を示す統計的根拠がない②試験を前半後半に分けたため解答に影響する「音漏れ」が多くあった③ESAT-Jは「中学校学習指導要領に基づく内容とする」としていながら、高校で学ぶ文法が出題された、など多くの問題点が指摘されており入試制度として破綻していると言わざるを得ない。
また教育的にも①入試に出題されることで、正しい文法と英語らしい発音を意識しなければならず、間違いを恐れて委縮する恐れがある②試験を動機づけにするのでは、試験で高得点を取るための学習になる③本来の人間と対話する生きたコミュニケーションの力を育てることができない、など教育面での問題点も大きい。
文科省としても、大学入試で見送った民間試験の導入がこのような形で全国に広がることを黙視すべきでない。話す力はすでに授業の中で評価されており入試にも反映されているので新たに試験する必要はない。また話す力を養成するのであればクラスサイズを縮小することをこそ優先すべきである。
2023年度全国学力テスト(全国学力・学習状況調査)におけるスピーキングテストの結果は、6割の生徒が0点、平均正答率がわずか12.4%という驚くべきものだった。出題内容や中学校英語教育を問題にする以前に、我が国の「外国語としての英語教育」の状況を踏まえる必要がある。英語が日常的に使われることがない環境の中で、初学者に即興で話すことを要求するのには無理がある。中学校では外国語の基礎を身につけ、高校・大学・社会経験の中で時間をかけて実用に供する英語力を身につけるべきであろう。
また、実態を把握する目的であれば、全国学力テスト自体、全数調査でなく抽出調査にすべきである。中学校現場ではテストが多すぎるために中学生が落ち着いて学習や学校行事に向かえない実態もある。