日本外国語教育改善協議会(改善協)のアピール(2019)-1

Ⅶ.『小学校学習指導要領』(第2章 第10節 外国語
    及び 第4章 外国語活動)について

 

 2017年に告示された『学習指導要領』は、「第2章第 10 節外国語科」において小学校第5・6学年に教科としての 外国語科を、「第4章」において第3・4学年に「外国語活動」を導入するとした。文科省がこれに基づき、2018 年度からの前倒し実施を各都道府県に求めた結果、現場では様々な問題点が生じている。
 私たちは高学年で行ってきた「外国語活動」の問題点を以下(「第1に」~「第4に」)のように指摘してきたが、何ら解決されていないばかりか、「早期化」によって問題が拡大していると言わざるを得ない。母語を十分に身につけたとは言えない中学年に相応しい内容にするという配慮もなされていない。また、高学年に新たに導入する「外国語科」は、「外国語による聞くこと、読むこと、話すこと、書くことの言語活動を通して、コミュニケーションを図る基礎」と位置づけたことからも、従来の中学校の内容の一部が入っていることが明らかである。後述するように「中学校の英語の前倒し」になっていることは重大な問題である。また、「外国語科においては、英語を履修させることを原則とすること」としたことは遺憾であり、「外国語活動」についても同様の記述があるのは大きな問題である。
 私たちは1985年度の大会以来、小学校の「外国語教育」を含む「国際理解教育」についての論議を続け、一貫して小学校教育課程に「外国語」を位置づけることについて反対してきた。それは、初等教育段階における外国語教育は、国際理解の推進を基本とする次のような教育でなければならないと考えてきたからである。

 

  1. (1)生活習慣や考え方の異なる人々と積極的に触れ合い、理解しようとする態度を育てることを目標とすること。
  2. (2)様々な文化・言語に接する機会をつくること。
  3. (3)様々な人々と実際に触れ合う機会を持てるようにすること。
  4. (4)様々な言語を使ってコミュニケーションを行う喜びを実感できるようにすること。

 しかしながら、『学習指導要領』における「外国語活動」は、このような趣旨と合致しない問題点を多く含んでいることから、実施に反対してきたのである。
第1に、「外国語活動」が、英語偏重であり、さらには英会話やゲームに終始しがちな点である。本来は、母語や国際理解との関連を総合的にとらえ、子どもの発達に貢献する外国語教育を構想するべきである。
第2に、英語の免許や必要な知識を持っていない担任と、英語は話せるが外国語教育の知識を持たないALTが教えていることが問題である。担任は小学校教育についての専門家ではあるが英語に自信が持てないために十分な指導ができず、ALTは外国語として英語を学ぶ子どもたちの指導方法に苦慮している現状がある。
第3に、担任や ALT が自信を持って指導案を作成できない現状がある。中学校での学習内容も視野に入れつつ、十分な研究・研修が必要であるにもかかわらず、多忙のためにそのための時間が取れない。
第4に、小学校の現場からは「現在の『外国語活動』でも、塾に通っている児童とそうでない児童の格差が広がっている」「新しい学習内容が多い3年生から『外国語活動』を始めれば、落ちこぼれが多くなる」との指摘がある。
このような現状を踏まえれば、これまでの「外国語活動」の検証も行わないままの「早期化」・「教科化」は言語道断であり、反対である。
 本大会では、全国の小学校の管理職・担任・ ALT 等への調査研究についての報告、現場での実践報告と討論を行った。「第 1 章 総則」は「各教科等の特質に応じ、 10 分から 15 分程度の短い時間を活用して特定の教科等の指導を行う」ことによって「年間授業時数に含める」とし、「総合的学習の時間」を外国語科の時間にあてて良いとしている。実態は自治体によって多様ではあるが、「主体的・対話的で深い学び」を掲げておきながら、本来それを目標としてきた「総合的な学習の時間」を削るというのは自己矛盾も甚だしい。またそれを補うために長期休業中に行うというのも姑息な手段と言わざるをえない。また現場からは、現在でも満杯の時間割に英語を2時間加えるのはそもそも無理があること、モジュールで行うとすれば ALTなどを組み込むことが不可能で担任だけで行わざるをえないという重大な問題点が指摘された。
 小学校に「外国語」を導入するとなれば、小学生の発達段階に相応しい教科内容を構想することが不可欠である。「第1 目標」には「外国語の音声や文字、語彙、表現、文構造、言語の働きなどについて、日本語と外国語の違いに気付き、…」とあり、『五つの提言』を受けて、この「気付き」を加えたことは評価する。なぜなら、母語を習得した発達段階で、他の言語を学習することにより、諸言語の相対化が可能となり、国際理解の基礎が培われうることは、実践的にも明らかになっているからである。高学年においては、あまりに幼稚な内容では児童がついてこない現状からも、「ことばの気付き」の学習は進めるべきである。
 しかしながら、「英語 2 内容」においては 600 ~ 700 語程度の語、平叙文、命令文、疑問文、疑問詞で始まる疑問文、動名詞や過去形の基本的なもの、文構造など、従来中学校の内容であったものをそのまま「前倒し」したに過ぎないものが並ぶ。また「言語の使用場面・働きの例」なども、中学校からそのまま持ち込まれているだけであり、指導方法等に苦慮している。これでは小学校での学習内容に相応しいものとは考えられず、遺憾である。  以上のことを前提とした上で、私たちは、小学校で「外国語教育」を実施するのであれば、少なくとも以下の内容を考慮するよう、提言する。

  1. (1)小学校における外国語教育の導入の意義と目標を明確にすること。その際、国際理解・異文化理解を基調とする小学校らしい教育内容とすること(本章第3段落)。また他教科の学習を含めた子どもの発達を考慮すること、特に外国語学習には母語の発達が前提となることを踏まえ、外国語と母語双方の豊かな授業を可能にすること。
  2. (2)担当教員の十分な研修、長期的視野に立った教員養成やクラスサイズの縮小に対して、人的・財政的措置を行うこと。中学校英語の内容の前倒しを前提とするのであれば、中教審に「教科担任制」導入を諮問したことに現れているように、担任ではなく専科教員が授業を担当するよう、専科教員を養成し各学校に配置するべきである。そのための予算を措置すること。また、教員が国内外での研修を行えるように、財政的・時間的保障を行うこと。教員養成ができないのなら、「教科化」を撤回すること。
  3. (3)教育内容については、小学校教育にふさわしいものにすること。今回検定を経て作られた教科書は、"Let’s Try!"や “We Can!"と似通った内容が多く含まれ、国際理解教育や上述「目標」にある「ことばへの気づき」などの教育内容が不十分と言わざるをえない。使用するに当たっては、授業方法などを拘束することなく、実態を踏まえて現場の自由裁量に任せるようにすべきである。また、子どもたちや現場の意見を十分に尊重して調査研究し、新たな教材開発を行うべきである。
  4. (4)「ネイティブ・スピーカーや英語が堪能な地域人材など」は、現場が必要とするところに配置し、強制しないこと。その際、劣悪な雇用条件になりがちな民間委託でなく、打ち合わせも行える直接雇用を国が財政的に保障すること。また民間の委託会社やそこから派遣されたネイティブ・スピーカーが授業内容をすべて決めてしまうような現状は改善すること。
  5. (5)中学校との連携を十分に考慮し、小学校・中学校・高等学校・大学を見通した外国語教育のあり方を明らかにすること。
  6. (6)15人学級・勤務時間短縮の実現など、教育条件の改善を行うこと。
  7. (7)小学校では、英会話教室・塾に通う児童とそうでない児童の間に大きな格差が生まれている実態を踏まえ、中学校等への入試で英語を過度に課すことがないようにさせること。
  8. (8)教員採用試験において、外部検定試験の結果を過度に重視しないこと。

以上の内容を実現できないのなら、小学校への外国語教育導入は再考すべきである。
 なお、小学校における「ローマ字」の指導が外国語教育に及ぼす影響に鑑み、「国語」と「外国語」が連携して「ローマ字」の指導について検討することを要望する。
 新『小学校学習指導要領』の「国語」の[第3学年及び第4学年]の[知識及び技能]の(1)のウは「第3学年においては、日常使われている簡単な単語について、ローマ字で表記されたものを読み、ローマ字で書くこと」と述べている。しかし、現実に、たとえば英語の学習においてローマ字表記の日本語とローマ字表記の英語を同一視する誤解が生じており、この問題の外国語教育に及ぼす影響は見逃せない。また、世界には英語で用いられるアルファベットと異なる文字体系を持つ言語も多数存在しており、「外国語教育」における「音声学習」「文字学習」の観点から、「ローマ字」等の文字の指導に関する学問的研究・改善が必要である。なお、これまでの大会で小学校に「教科化」が導入されるにあたり、「ローマ字」の指導について議論がなされたことを記しておく。

知2019

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