日本外国語教育改善協議会(改善協)のアピール(2019)-1

資料

言語教育・外国語教育に関する私たちの見解

  『学習指導要領』は「ネイティブ・スピーカーや英語が堪能な地域人材などの協力」というが、「ネイティブ・スピーカーの協力」によってどのような効果が上がっているのかが不明な点もある。以前の改善協大会でも必ずしも肯定的な意見ばかりではなかった。そもそも、「ネイティブ・スピーカー」とは誰か。例えば、「英語」の「ネイティブ・スピーカー」とは英国、米国、カナダ、オ-ストラリア、ニュージーランドなどで生まれ育ち、「英語」を母語とする人を指していると考えられる。しかし、多様な外国語の学習の必要性があること、英語一つとっても実際に様々な英語が用いられていることなどを考慮に入れると、いま規定したような「ネイティブ・スピーカー」でなくても例えば、外国語教育および教育そのものについて十分な見識を有する適切な人で、事前および採用後も十分な研修を受けられる資格を満たしていれば外国語教育を担うにふさわしいと言うべきである。なお、1987年以来長年行われてきた「JETプログラム」やALTの活用が、有効であったかどうか明確でない。昨今の偽装請負問題に象徴されるようにALTの雇用・契約形態には問題がある。さらに、 現場の意向を尊重することも含め、再検討が必要である。受け入れ校の意向を尊重したり、「ネイティブ・スピーカー」の人権を尊重したりする点から過重な勤務状態にならないように、十分な人的配置・財政措置を講じるべきである。 また、今回の『学習指導要領』では「ネイティブ・スピーカーなど」が「ネイティブ・スピーカーや英語が堪能な地域人材など」と書き換えられた。『中学校学習指導要領解説 外国語編』は「ALTのほかに、地域に住む外国人、外国からの訪問者や留学生、外国生活の経験者、海外の事情に詳しい人々などの幅広い人々が考えられ、これらの人々の協力を得ることが、『生徒が英語に触れる機会を充実』し、『授業を実際のコミュニケーションの場面とする』ことに資する」としている(『小学校学習指導要領解説 外国語活動編』は「外国語が堪能な人々」も含め同様の記述、『小学校学習指導要領解説 外国語編』も同様の記述、『高等学校学習指導要領解説 外国語編・英語編』も同様)。さらに、「提言」にも「優秀な外国人や、海外で実務経験を積んだり、海外の大学を卒業したりするなどして高度な英語力を持つ日本人」などの記述、「五つの提言」にも「『外部専門人材』の活用」とある。この安易な発想は誤りである。これでは、私たちは「『外部専門人材』の活用」を拒否せざるを得ない。なぜならば、彼らは外国語教育の専門家ではないからである。どのような素人でも外国語を話す能力さえあれば、教育力があるとは言えない。教師が専門家であることを認めなくてはならない。 なお、「五つの提言」に「2019(平成31)年度までに、すべての小学校でALTを確保するとともに、生徒が会話、発表、討論等で実際に英語を活用する観点から中・高等学校におけるALTの活用を促進」、「答申」に「平成31年度までに、その質を確保しつつ、全ての小学校にALT等が参画できるよう支援を行う必要」とあるが、上述の理由で各学校現場の意向に応じた配置が必要である。私たちは、かねてより「教育職員免許法」に基づく教員を十分に確保すべきであると提言している。  すでに、東京都教育委員会は2015年度から「JETプログラムによる外国人の招致を100人から200人に拡大するとともに、外国人指導者として在京外国人の更なる活用を図り、教員と外国人指導者による指導を充実」することによって、都立高校等で強制的に「原則として全ての生徒が外国人による指導を受けられるようにする」こととした。誠に遺憾なことである。

  1. (1) 言語は人類に共通の能力であり手段であるとともに、民族、集落、地域など各集団ごとに異なるものであることを知り、また言語を使用することを通してそれを体験すること。
  2. (2) 言語は人間の成長発達や生活に深く関わるものであることを知り、また言語を使用することを通してそれを体験すること。
  3. (3) それぞれの言語には特有のルールがあることを知り、また言語を使用することを通してそれを体験すること。
  4. (4) 言語は、他言語との関わりによって、それぞれに独自の変化をするものであることを知ること、および体験すること。
  5. (5) 言語は、自他を問わず人を生かすことも、傷つけることも、癒すことも、さらには殺すことさえもできるものであることを知ること。

 また、私たちは、外国語教育の改善のために、以前から次のように主張してきた。

  1. (1) 外国語教育が言語教育の一環を担わなければならない。
  2. (2) 外国語教育が人間相互の理解の教育、ひいては国際理解の教育において、重要な役割を果たさなければならない。
  3. (3) 上記(1)および(2)は、当該外国語を、実際に体験することによって初めて実現できるものである。
  4. (4) 多様な外国語の学習を保障すべきである。
  5. (5) 指導方法については、様々な指導方法による経験の蓄積があるのであり、『学習指導要領』等が格別なことを言及すべきではない。

 以下に根拠を述べる。

 世界には様々な人々が様々な文化の中で生活しており、それぞれ固有の言語を持っている。この事実は重い。固有の言語に加え、様々な原因・理由によって英語を第二言語あるいは外国語として用いる場面が多いとしても、英語教育のみを無批判に優先させることは誤りである。むしろ、母語を含めて諸言語を相対的に捉えることができるようにすべきである。使用人口の多寡、政治的・経済的要因によって言語の優劣を考えるという誤りに気づかせることこそ、必要なのである。学校教育における「外国語」も、それが英語一辺倒にならないようにすることによって、国の内外を問わず、様々な民族・文化が存在することを学ばせることが必要である。
 また、外国語の指導方法については、各学習段階において、個々の指導者には様々な指導方法による理論的・実践的経験の蓄積や教材等がある。言及する必要はない。

第47回大会参加者氏名

浅野伸子(語研) 池田真澄(新英研) 大内由香里(語研)
大栗健二(新英研) 菊地恵子(新英研) 佐々木力(高独研)
高木 繁(新英研) 瀧口 優(新英研) 田島久士(語研)
千田 享(語研) 手島 良(語研) 中山滋樹 (GDM)
成田潤也(新英研)    

団体名(略称および正式名称)
 語研=一般財団法人語学教育研究所
 新英研=新英語教育研究会
 GDM=GDM英語教授法研究会
 高独研=高等学校ドイツ語教育研究会

日本外国語教育改善協議会・2018年度世話人会

世話人会幹事  田島 久士 一般財団法人語学教育研究所
世話人 佐々木 力 高等学校ドイツ語教育研究会
池田 真澄 新英語教育研究会
中山 滋樹 GDM英語教授法研究会
事務局 大内 由香里  一般財団法人語学教育研究所

日本外国語教育改善協議会
  〒116-0013 東京都荒川区西日暮里6-36-13
            サザンパレス102 号室
       一般財団法人 語学教育研究所内

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