日本外国語教育改善協議会(改善協)のアピール(2019)-1

ⅩⅡ.「学習評価の改善」について

 

 評価に関連して学校段階・学年段階、教科の特質などに応じた評価方法を取り入れることを大いに推進すること。

 「学習評価」が「現行の『関心・意欲・態度』の観点について、挙手の回数や毎時間ノートを取っているかなど、性格や行動面の傾向が一時的に表出された場面を捉える評価であるような誤解を払拭し切れていない」ことを課題としていることは評価に値する。さらに、「前答申」が小中学校の教員の70~80%が「評価活動が複雑になり余裕がなくなった」との調査結果も引用している。評価のあり方については、様々な考え方や方法があり、『学習指導要領』が大綱を示すにとどめるべきものであるのと同様、評価についても一律に規定すべきでない。
 今回の『学習指導要領』は「『知識及び技能』、『思考力・判断力・表現力等』、『学びに向かう力、人間性等』の「資質・能力の三つの柱」を受けて、「『知識・技能』、『思考・判断・表現』、『主体的な学習に取り組む態度』の3観点」になった。また、「外国語科」は「五つの領域(別に設定する目標)」となった。「答申」が「評価の観点については、学習指導要領における各教科等の指導内容の資質・能力を基に構造的に整理されることにより明確化される」としている。従来通りの「横並び」になる可能性が高いので、外国語の特質を鑑みるとき、検討してほしい。合わせて、「小学校高学年の教科としての外国語教育(中略)についても、中・高等学校の外国語科と同様に『知識・技能』、『思考・判断・表現』、『主体的な学習に取り組む態度』の3観点により行う必要がある」と記されている。これは大きな問題点である。
 また現行の「関心・意欲・態度」や今回の「主体的な学習に取り組む態度」については、生徒はそれぞれの個性を持っており、生徒の「関心・意欲・態度」の表出は個人によって差異があることから、客観的評価は困難である。先に引用した「学習評価」や「答申」も「挙手の回数やノートの取り方など、性格や行動面の傾向が一時的に表出される場面を捉える評価であるような誤解が払抜し切れていないのではないか、という問題点が長年指摘され現在に至る」と述べている。「学習評価」も「ノートにおける特定の記述などを取り出して、他の観点から切り離して『主体的に学習に取り組む態度』として評価することは適切ではないことに留意する必要がある」と述べている。この評価を「指導要録」に記入せずとも、生徒の学習を指導することは可能である。なお、「答申」が「子供たちの学習の成果を的確に捉え、教員が指導の改善を図るとともに、子供たち自身が自らの学びを振り返って次の学びに向かうことができるようにするためには、学習評価の在り方が極めて重要」と記しているが、「態度」の評価は不要である。付言すれば、後述のように「CAN-DOリスト」を用いて「態度」面の評価を行うことはできない。
 「外国語活動」の評価については「前答申」の「5.指導要録の改善について」の中で「文章の記述による評価を行うことが適当」とある。これのみで十分であり、その後に記されている「評価の観点」に関する言及は不要である。現に、「小学校児童指導要録」にもそのまま適用され、今回の『学習指導要領』改訂でも継続されようとしていることは遺憾である。
 関連して、現行の「指導要録」でも、「観点別学習状況の評価」を一律に記入することは継続された(強制的に記入させることは取りやめるべきである)。今回の改訂ではやめるべきである。この評価が自己目的化して、相対的に学習内容の習得が軽視されたり、ひいては高校入試において合否判断資料として用いられたりし、十分な基礎学力を身につけないで入学する高校生がいるなど、教育が歪められている実態がある。現に、公立高校入試において「推薦入試」を見直す動きが顕著になっていることが、その反映である。
 「幼稚園、小学校、中学校、高等学校、盲学校、聾学校及び養護学校の教育課程の改善について(答申)」(1998年7月)の「Ⅱ.3.学習の評価」の中で「指導要録における各教科等の評価については、現在は各教科共通の考え方及び方法によって行われているが、学校段階・学年段階、教科の特質などに応じた評価方法を更に取り入れることについて検討する必要がある」と提言している。私たちは1998年12月9日付の「要望」で評価したが、現行の「小学校児童指導要録」「中学校生徒指導要録」「高等学校生徒指導要録」では、国語科を除き実現していない。先に引用した「学習評価」や「答申」等が指摘しているように、現在問題点が多々存在している。しかし、現行の「指導要録」でも実現しなかった。誠に遺憾である。
「指針方針」が「『聞く』『話す』『読む』『書く』の4技能を初等中等教育から高等教育を通じてバランスよく育成するとともに、総合的に評価することが重要」と述べていることはよい。しかし、「有識者会議」の「英語力の評価及び入試における外部試験活用に関する小委員会」の「審議のまとめ」が「資格・検定試験の活用においては、学習指導要領に沿って中学校・高等学校卒業までに学習した4技能が総合的に育成されているかどうかという観点から適正に評価することが必要である」「総合的な英語力を向上するためには、世界標準を視野に入れた目標設定を行う」と述べていることは問題である。さらに、「指針方針」が「各学校及び各団体における英語4技能の資格・検定試験活用を奨励する」としている。上述のように、学校教育の「外部」依存により公教育がさらに歪むことになる。加えて、「プラン」が「生徒の着実な英語力向上を目指し、国及び県で明確な達成目標(GOAL2020(平成32年度))を設定」「その達成状況を毎年公表して、計画的に改善を推進」と記している。具体的には2016年度から「英語教育実施状況調査」に基づく都道府県別の生徒の英語力の結果の公表をし、新たに中学3年生対象の英語4技能を測定する「全国的な学力調査」を初めて2019年4月18日に悉皆で実施した。調査結果については「学校別に平均正答率」を公表しようとしている。現在、「全国学力・学習状況調査」の公表で起きている問題が新たに生じかねない。大いに遺憾である。なお、「平成31年度全国学力・学習状況調査 中学校英語『話すこと』調査」も合わせて初めて実施された。かつて「大学入試センター試験」にリスニングテストが導入された時と同様に、全国各地でトラブルが生じている。このような調査を3年に1回とはいえ、「全国悉皆」で実施する意義はあるのか、大いに検討してもらいたい。また、4技能に関する「学習到達目標」を「CAN-DOリスト」の形で設定する取組をさらに進める観点から、「外国語教育における『CAN-DOリスト』の形での学習到達目標設定に関する検討会議」によって「能力記述文の形で示した国の学習到達目標(試案)」が提示(2014年3月13日)されて、設定せざるを得ない状況を生むことになった。「論点整理」も「国が示す教育目標を踏まえ、各学校が具体的な学習到達目標(CAN-DO形式)を設定し、児童生徒にどのような英語力が身に付くか、英語を用いて何ができるようになるかなどが明確になり、指導と多面的な評価の一体化とそれらの改善が図られる」とし、加えて、「五つの提言」も「主体的な学びにつながる『コミュニケーションへの関心・意欲・態度』を重視し、観点別学習状況の評価において、例えば、『英語を用いて~ができる』とする観点を『英語を用いて~しようとしている』とした評価を行うことによって、生徒自らが主体的に学ぶ意欲や態度などを含めた多面的な評価方法等を検証・活用」と言及している。「ワーキンググループ」も「児童生徒がコミュニケーションへの関心を持ち、自ら課題に取り組んで表現しようとする意欲や態度を身に付けているかどうかを評価することが重要である」と述べている。評価やそれに関連する目標設定は、一律に現場に持ち込むべきものではなく、各学校や教員に委ねるべきである。なお、「小・中・高等学校を一貫した教育目標・内容のイメージ」にも無理やりCEFRが持ち込まれていることは上述のように遺憾であると言わざるを得ない。
 加えて、「学習評価」が「外部試験等の結果についても、児童生徒の学習状況を把握するために用いることで、(中略)児童生徒が受検した検定試験の結果等から、児童生徒の課題等を把握し、自らの指導や評価の改善につなげることも考えられる」と記していることは、「学習指導要領」とは整合性がない「外部試験」を利用することを奨励しており、大いに矛盾が生じていることを特記しておきたい。
 すでに、東京都教育委員会は2014年度から全都立高校で「都立高校学力スタンダード」を開始した。これは「各校が具体的な学習目標を明示し」、「学力調査」を実施して、「都の目標値」に達したかどうかを判断するものである。ゆえに、指導内容が「学力調査」対策になってしまうことになる。そして、それに基づいた自校の学力スタンダードの作成及び学力スタンダードに基づく学習指導の実施が求められており、また、すでに「業者や予備校に依存した」テストの問題作成や実施が多く見受けられている。このように、学力の検証を「外部」に依存した公教育がますます顕著になってきていることは大きな問題である。
 教える内容も当然だが、現場の各教員が評価方法についても考えることができるように条件を整えて然るべきである。

知2019

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