■ 世界を広げ、生き方を考える教材を

5つのテーマ

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教材とは何か、どう検討しどう扱うか

是恒 真澄(これつね ますみ 広島・江田島市立能美中学校)

1.はじめに―子どもたちから学び、仲間と成長する教師に

 「先生が英語の読み方をちゃんと教えてくれんかったけん、英語がわからん。」教員になって3年目に生徒に言われた痛~い言葉。授業が成立しない日々が続いていました。何をどうしたらよいかがわからず、毎晩明日の授業をどうしようとばかり考えていました。
 「先生という役割で『勉強しなさい』と言っても子どもは何も変わらない。『この先生、本当に自分のことわかってくれるし、信頼できるし、してもらえる』という対等に近い関係(=相互的関係)がまず必要。その上で子どもたちの心に希望の灯りをともす言葉を語ることですよ。」と広木克行さん(神戸大学、現千代田短大学長)。広木先生の講演のノートは、迷い悩んだ時の道標となっています。
 新英研や組合教研、生活指導のサークル等で多くの実践に学ばせていただき、今の自分があります。子どもたちから学び、仲間と学び合うことを通して、私たちは、授業づくり・教材づくりへの熱い思いを燃やし続けることができるのだと思うのです。

2.入門期の指導には「学びの仕組み」をいくつも用意する

 音と文字がつながらない生徒にとって、読めない・書けない英語の授業は苦痛以外の何ものでもありません。入門期の指導を、英語という言葉の「仕組み」を知るものにすることが、英語学習の成否を決めるといってもよいでしょう。

(1)当たり前のことこそ、「なぜ」を問う
「日本語のひらがなは、なぜ『あいうえお』からはじまるんだろう」と問うと、生徒は必ず答えを見つけ出します。「『かきくけこ』も『さしすせそ』も、全部、最後は『あいうえお』になるよ」という声が4月、N君から返ってきました。
 母音と子音という音の仕組みを確認した後で、「まずは英語の母音はア・イ・ア・エ・オ(a i u e o)と覚えよう。これから、廊下で私と会ったら必ず『英語の母音は?』って聞くから、答えてね。」と私。アルファベットには名前と音があることも必ず教えます。その後、単語は母音字1つ、子音字2つの3文字の単語をたくさん用意し、英語らしく大きな声で文字を音声化することに重点を置きます。

(2)入門期10時間のプランを持つ

 学習指導要領でコミュニケーション能力の育成が英語学習の目標となり、教材である教科書は一変し、指導方法や内容にも大きな変化が求められました。場面が重視され、文法学習が軽視されるようになりました。しかし、「学びの仕組み」を理解しないまま、ひたすら覚えることだけが要求されたのでは、学習者は不安でイラつき、ついには学ぶ意欲も眠ってしまうでしょう。
Highslide JS
〈資料1〉

〈資料1〉
 教科書のカラーページをどう教材化するかは、大きな問題です。入門期の授業が3年間の授業づくりの土台となるよう、次のようなプランメモを作成しています。(資料①)

 以下、3「アルファベットの誕生」 4「小文字の誕生、身の回りのアルファベット」 5「アルファベットカードを使おう」 6「文字には名前と音がある」 7「単語の作り方(母音と子音)」(①~③) 8「文を作ろう」と続きます。

(3)文法覚え歌を作る

 文法覚え歌で指導することもささやかな工夫の一つです。私は「団子三兄弟」の替え歌で、英文の書き方や過去形について教えています。これらは、広島新英研の活動の中から生まれました。

 文のはじめは大文字(大文字)
 単語と単語は離す(離す)
 文の終わりはピリオド(ピリオド)
 これで完成だ(good job)
※(  )は生徒が声をそろえて言う箇所。大岡里美さん作

1年生の終わりで過去形を教える時には、この替え歌を使います。

 edつけたら 過去形(過去形)
 eがあるとき(dだけ)
 ちょっと注意だstudy (study)
 yをiにする( ied )   (1番)
※ 是恒作  4番まである

「人は新しい知識を得るたびに、本当は人格を成長させていき、判断力を磨いていくもの」とは、暉峻淑子さんの言葉(かもがわCブックス「豊かさへ もうひとつの道」)です。まず教師自身が自らの学びはどうなのかを問いなおす必要がありそうです。私たち自身が、管理と競争・効率が最優先される教育環境の中で育ってきたわけですから、見失ってきていることも多いのです。

4.まとめにかえて――小さくて大きな存在 それが人間

 2004年度を終え転勤することになりました。離任式の日、2年生だった生徒が手紙をくれました。「―授業で先生が見せてくれた地雷のビデオは忘れません。僕は今、将来は英語の先生になろうと考えています。僕が先生になった時は先生に負けないつもりです。だから、新しい学校へ行っても、go your own wayでがんばってください。―」
 一人ひとりがバラバラだと小さいけど、仲間になれば限りなくお互いの可能性を引き出し高めあえる大きな存在――それが人間だと思います。教材づくりを通して、そのことを多くの人から教えてもらいました。子どもたちからの声を聞くことができました。これからも大切なものを見失わないよう、歩んでいきたいと思います。