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■ 学力とは何か、どんな学力をめざし、どう評価するか

5つのテーマ

3つの基礎力で授業が変わる
―2つの評価で授業を変える―

海木 幸登(かいき ゆきと 富山・県立呉羽高校)

 一般に英語の学力と言えば、「読む」「聞く」「書く」「話す」の4技能やコミュニケーション能力を指すようです。
 そして、私たちが具体的に思い浮かべるのは、ペーパーバックや英字新聞が読める、映画のセリフがわかる、日常会話(買物など)ができる、英語で手紙やメールが書ける、入試問題やTOEIC、TOEFLなどで得点できる、というようなことだと思います。
 それらはすべて特定分野で発揮される具体的な英語力ですが、学校では、どの分野でも生かせる英語力の基礎・基本を身につけるのだと言えるでしょう。では、その基礎・基本とは何でしょうか。
 結論を言ってしまえば、国民教育としての英語学力の基礎・基本は、次の3つだと考えています。
  1. 学習した英文がスラスラ読める (音読)
  2. 英文の構造が分かる(語順・修飾) (文法)
  3. 基本2,000語が分かる、使える (語彙)
 本稿は"実践編"ということもあり、この3つの基礎学力(特に音読の力)を柱に、具体的な授業場面を取り上げながら、「学力と評価」の問題について考えてみたいと思います。

1.新出単語の指導―「十回音読」を取り入れて―

 私の経験では、新出単語の読みについては―とくに高校の場合―ほとんどの先生が、教科書付属のCDや自分の後についてコーラスさせるという方法(=追い読み)をとっています。  しかし私の場合、次のような手順で指導することが多いのです。
  • ①教科書の欄外に○を十個書き、一回読むごとに○を一つ塗りつぶす、
  • ②かなり速いテンポで、一回だけ、コーラスする
  • ③立って読む(個人よみ)
  • ④ペア、4人班で読む(ペア・グループ読み)
 私は、「学習した文章がスラスラ音読できる」ようになるためには、まず「単語がスラスラと読める」ことが必要だと思っています。単語がきちんと読めなければ、文章をスラスラ読むことなどできるはずもなく、スラスラ読めない文章が聞き取れたり、その意味が分かったりするとはとても思えません。では、どんな方法でその学力を保証すればいいのでしょうか。
 私は、まず音読の回数を確保することが必要だと考えました。そして、とりあえず10回くらい読めば、たいていの生徒は何とか読めるようになるのではないかと考えたのです。
 しかし、授業で10回の音読を保証することは、意外に大変です。だいいち、いったい何回読んだのか分からなくなってしまうのです。
 そこで私は、①のような手段をとることにしました。最初に○を十個書いてしまえば、教師にとっても生徒にとっても目標がはっきりするからです。そして、1回ごとに○を塗りつぶすことで、目標に向かっての進行状況をチェックすることができるのです。

(1)立って読む
 その上で私は、②③④のように変化をつけて、楽しく10回音読することを考えました。たとえば③では、私が回数を指示すると生徒はすぐに立ち上がり、めいめい勝手に読み始めます。
 そして読み終わると次々に勝手に座っていくのです。
 このような活動をさせるのは、(1)大きな声で朗々と読む態度(自信)を育てたい、(2)周りを気にせず、自分のペースで読む姿勢(強さ)を育てたい、というような気持ちが私の中にあるからです。
 つまり私は、「単語がすらすら読めるようになること」だけでなく、同時に「十分大きな声で自信をもって読むこと」や「自分がどの程度読めるかを正しく認識し、周りに惑わされず、積極的に課題に取り組むこと」(=自己評価、積極性)なども、学校で育てたい学力だと考えているのです。そのような学力を目指すからこそ、英語は教育だと言えるでしょう。
 そのため私は、次のような言葉を頻繁に使用します。
  • これはスピード競争ではありません。
  • 周りの人が座っても気にせず、自分のスピードで読みなさい。
  • 読めない単語は、とりあえず"ムニュムニュ"と読んで先へ進みなさい。(ムニュムニュ方式)
  • 読めない単語がいくつあってもかまいません。
  • たくさんあった方がやりがいがあります。
 このような言葉を"フォロー語"と呼ぶ人もありますが、フォロー語の使い方もまた、授業づくりのための重要な観点になります。

(2)ペアで読む、グループ(4人班)で読む
 コーラスは、いわばモデル(たとえば先生の読み)にしたがって読むという活動ですが、これに対して、「立って読む」のは、自分の力で読む個人読み(=自力読み)だということになります。
 もちろんどちらも大切なのですが、私はこの他に、ペアやグループを利用して、生徒同士の力を生かすことも考えています。
 具体的に言うと、生徒はまず隣同士でペアを組み、ジャンケンをします。そして勝った人からスタートして、交代で1つずつ単語を読んでいくのです。読む回数は、あまり差が出ないように配慮して、私が指示します。終わったら今度は縦列でペアをつくり、もう1度同じことをするというのが定番です。ジャンケンで勝った人から始めるというのが私の工夫の1つです。単純な活動にちょっとゲーム性を持たせるというわけです。
 また、回数ではなく、時間を指定する場合もあります。たいてい1分とか1分30秒とか、短めの時間を設定しています。
 この方式は、終わる時間がそろえられるので便利です。そのため、キッチン・タイマーは私にとって必需品になっています。
 ペア読みは、本文の音読にも使っています。たとえばピリオドで交代する「一文交代読み」(=句点読み)やカンマとピリオドの両方で交代する「区切り読み」(=句読点読み)などです。
 さらに、「音読ご意見番」という方法を使うこともあります。これは、指定された範囲を交代で音読し、二人とも読み終わったら相手の音読に対してコメントを書くという活動です。「会話の部分がうまかった」など、友だちから誉めてもらうとうれしいものです。
 自己評価も大切ですが、相互評価もまた、大きな力を発揮します。音読は、もともと、機械的で個人的な作業などではなく、相手のある社会的な活動です。脳を活性化させるために音読するのではなく、相手に伝わるように読む、自分の解釈を伝えるように読むと考えればいいでしょうか。音読には相手が必要なのです。
 ところで、ペア読みに加えて、私は4人班も利用しているのですが、その際、次のような言い方をすることが多くなります。
  • 今日は、みんなの力(ペアや4人班で)を借りたいと思います。
     先生の力だけでみんなの力を伸ばすことは不可能です。
  • グループを使うのは、他人と協力できるようになってほしいからです。小さなことで協力しあうのも、とても大切な学習です。
  • 社会へ出ると集団で力をあわせて仕事をすることが多くなります。
 この程度の協力ができないのでは、話になりません。
「学力とは他人と関わる能力である」という言い方をすることがあります。私も大賛成ですが、実践的には(実際の授業場面では)、行動内容を具体的に考えて指示する必要があります。たとえば、「わからなければ聞く」「間違いに気づいたら教えてあげる」「指示にしたがって協力する」などの行動を要求していくということです。
『詞集たいまつ』(新評論社)の中で著者(むのたけじ)は次のように述べています。「学ぶ営みは一人で始めて、一人へ戻っていく。始めた自分と、戻っていく自分とのあいだに、たくさんの人が入れば入るほど、学んだものは高くなり深くなる」。このような学習観・学力観を折にふれて話すことも重視したいと思います。
 すぐれた"観"との出会いにまさる経験はありません。

2.魔法の呪文を唱えよう!

 ところで私は、「英文の構造を理解し身体化すること」もまた、英語を書いたり話したりするためには必要不可欠だと考えています。英語の文は述語動詞を中心として成り立ち、語順が重要な役割を果たしていること―それを身体にしみこませる必要があります。そこで私は、「魔法の呪文」という方法を考えました。
 たとえば、まとめの練習問題に、「たいていの人が携帯電話はとても便利なものだと認めるでしょう」という英作文があったとします。教科書なら、ヒントとしていくつか単語を与えておいて、あとは自力で書きなさいということになるのではないでしょうか。
 しかし私の場合、まず「たいていの人が/認めるでしょう/that(~と)/携帯電話が/~である/とても便利」という"魔法の呪文"を用意します。これを私が途中で何回か切りながら読み、後について生徒がコーラスします。
 つまり、日本語を英語の語順に直してみんなで唱えるのです。
 私たちは、英語を書いたり話したりする時に、無意識にこういう発想をしています。それが身についているのです。しかし生徒たちには、そのステップをあえて「見える化」することが必要です。
 その上で、たとえば "will admit / most people / that / very convenient / a cell phone / is "というような語群を並べ替えて英文を完成させます。魔法の呪文の語順・意味順で並べ替えるだけですから、ずいぶんと解答しやすくなります。
 そして、数人の生徒(一人ではなく)を指名して、答えを板書してもらいます。複数の生徒に書いてもらうようにすると、生徒の理解度をより確実にチェックすることができます。
 さらに、"消える英作文"という手法も私はよく使います。
 これは、正解を確認した後、英文の一部を消して、全文を読ませるというものです。少しずつ消して、最後は全部消してしまうのが基本です。こうすると、授業中に、一度は英文を覚えてしまうことができるのです。プリントに「解答・解説が終わったら、いったん覚えて、一気に書いてみよう」というコーナーを作っておいて、その場で書き込んだり、宿題にしたりということもあります。

3.基本2,000語はquick responseで

 もう1つの基礎学力は、語彙の力です。私は、単語は例文の中で覚えるのがよいと考えていますし、文脈の中で意味を推測する力はたいへん重要だと考えています。
 しかし、基本2,000語くらいについては、たとえばadmitといえばすぐ「~と認める」というふうに、単語カードの表と裏のように代表的な意味が言えることが必要だとも考えているのです。とくに英語Ⅰでは、そのような考えで指導する必要があると思います。土台として十分な語彙数があって初めて、意味を推測しながら語彙を増やしていくことも可能になるからです。
 そのため、(1)左側に10個ほどの英文(覚えさせたい単語一つに下線)を書き、右側に下線を引いた単語の意味を書いたプリントをつくることがあります。左側の英文の中の単語を見て意味を答えたり、逆に右側の意味を見て単語を答えたりするのです。
 あるいは、(2)ペアで単語の意味を言い合う、というのも大切な活動になります。ジャンケンで勝った生徒が英単語を言い、負けた生徒が意味を答えるというような活動です。
 これを「単語十番勝負」と呼んで、私は愛用しています。
 1.で述べた(3)新出単語の10回音読も語彙を増やす大事な方法です。その時に(4)単語の意味やイメージを浮かべながらコーラスする「イメージ読み」という作業も有効ですが、本文のコーラスをこの方式で行うことも可能です。ぜひ試してみてください。
 また─具体例は省略しますが─(5)語源や文化的な背景を説明し、単語に関する知識を増やすことも大切になります。
 さらに、生徒が予習をしていなくて単語の意味が分からない時など、私は生徒を叱るよりも(ときには怒りを抑えながら)、(6)英語でヒントを与えて意味を推測させるようにしています。
 以上のように、「三つの基礎学力」をいつも意識するよう努力すると日々の授業が変わります。そして、「二つの評価(自己評価と相互評価)」をうまく生かすことで授業を変えようと努力しています。