■ 神奈川新英研12月例会
2016年12月
神奈川新英研 12月例会報告
■ 近況、最近取り組んでいること
- 入試に向けた教材づくりと、入試から逆算して、1年・2年でやっておくべきことの整理です。
- フル・スイングは反響がありました。
- ディベートの授業
- その日(授業がある日)の朝の最新ニュースをプリントアウトして読ませる
- 中1では、教科書の暗唱を1人ずつチェックしています
■ 最近うまくいかないこと、悩んでいること
- 早期につまずいている生徒への対応(勇気づけ)
- 上手く上達せずイライラしている生徒の怒りのほこ先が私に来ること
(=英語の成績が上がらないのは私のせいだと責められること)
→ハイ、私に責任があります。
●中学実践報告:「佐々木禎子さんの物語『つるに乗って』の英語版を協同でとりくむ」
高草木直子さん(文京区立文林中学校)
高草木さん
- レポーターから:
本校の道徳副読本には「ねがい」が題材として扱われています。原爆の恐ろしさや平和についての考えを深めてもらおうと思い、はりきって教材研究にとりかかったのですが、原爆の学習を充分に行っていない彼らが、「ねがい」の取り組みを知って果たして共感できるのだろうかという疑問が浮かんできました。色々と考えた結果、生徒と同年代である佐々木禎子さんの物語「つるに乗って」を通して、原爆の様子を知ってもらうことにしました。併せて、協同学習も取り入れようと思いました。生徒たちは、1年次から学活や総合学習で行ってきた「エンカウンター」や「参加型学習」を通して、いわゆる『協力的学び』の素地ができていると思ったからです。
1.学校・学級の様子
- 全校で3クラス、全校で55人の小規模校。現在、2年生の担任兼学年主任をしています。男子20名、女子8名のクラスです。全学年で1クラス2展開の少人数授業が行われていて、11教室には電子黒板という恵まれた環境です。
- また、毎週水曜日にはベルリッツが無料で英語講習。
2.学校・学級の様子
- 本校の道徳副読本には「ねがい」が題材として扱われています。しかし、原爆の学習を充分に行っていない彼らが「ねがい」の取り組みを知って、果たして共感できるのだろうかという疑問が浮かびました。思案の後、生徒と同年代の佐々木禎子さんの物語を通して、原爆の様子を先ず知ってもらうことにしました。『つるに乗って』は前任校でも扱ったことがありましたが、今回は新たに協同学習を取り入れてみました。生徒たちは、これまで学活や総合で行ってきた「エンカウンター」や「参加型学習」を通して、いわゆる「協力的学び」の素地ができていると思ったからです。
- 協同で取り組んだねらいは主として2つ。一つは少し難しめの英文、生きた英文を訳すことで、今までの知識の統合のようなことが起これば、と考えたからです。もう一つは、最初から日本語版のアニメを見せるより、一度苦労して作品に関わる機会を作り、内容について考えさせてから見る方が生徒の記憶に残ると思ったからです。
3.ALTはどう活用すればいいか? 打ち合わせの時間がない!
- 私が思っていた以上に生徒たちはよく取り組んでくれました。取り組んだ内容が「ジャンプの課題」であったからではないかと思っています。セリフ中には関係副詞や比較級などの未習の文法事項が含まれていて、「難しかった」と感想を書く生徒が多くいました。しかし生徒たちは、諦めずに興味を持って取り組んでいました。
- ※低学力の子どもが「ジャンプの学び」において、つまり基礎的知識を活用する学びにおいて「これはこういうことだったのか」と〈基礎〉を理解する光景が頻発していることに気づく…佐藤学『学校を改革する』より
4.具体的な流れ
〈英語の授業で〉2校時
①導入
- まず、電子黒板に折り鶴の写真を提示しながら、Who made those cranes? Why are those paper cranes exhibited here? など英文を使い、佐々木禎子さんという人物を少しだけ知ってもらいます。その上で、「なぜ禎子さんは鶴をおったのだろう? 実際に観てみよう」と問いかけ、虫プロから取り寄せたシナリオの部分和訳、DVD『つるに乗って』(有原誠二監督)の鑑賞へとつなげました。
②グループで和訳
- 先ず、4人組になって訳す箇所を決めます。主人公や登場人物は予め簡単に説明しました。そして「分からないときは自分から聞く」「単語は自分で調べる」よう伝えました。
- タイトル「つるに乗って―とも子の冒険」
①担当者( )
MAN 2 Here we go!
YOUNG MAN 2 What a hot day!
GIRL Ohh…
YOUNG MAN No, it's much too hot.
TOMOKO First, I took the one fifteen bus. I'll be getting off at the Memorial Peace Park. I spent twenty yen for the telephone.
②担当者( )
YOUNG MAN I'll bet this is about the hottest day of the year!
MAN Why don't we go where it's cooler?
TOMOKO (とも子の動作)
GIRL Ah, this is a nice, cool spot! Come on, take my picture. I'm a star!
YOUNG MAN Year, you are a star.
③担当者( ) (広島原爆資料館)
TELLER There's your ticket, my dear.
TOMOKO Thank you.
YOUNG MAN Oh, look at this. It really scares you, doesn't it? Look, it must have been just like that. (~だったにちがいない)
GIRL I can't look!
④担当者( ) 1945年8月6日 広島
YOUNG MAN Look, that's where the explosion took place!
GIRL The what?
YOUNG MAN The Atomic bomb! Didn't you read about it in your history book?
GIRL I never had much of a head for history.
YOUNG MAN You never had much in your head, period!
TOMOKO (笑う)
YOUNG MAN たった一発で広島が全部やられたんだぜ。
GIRL この爆弾の名前、リトル・ボーイだって。 - 一人あたり5~6文の英語でしたが、35分位かかりました。生徒どうしで聞きあいながら、どの生徒もよく取り組んでいました。私としては「どの生徒も」の部分がポイントだと思っています。反省点は、生徒の質問に答えてしまったり、ヒントをあたえてしまったりしたことです。
③シナリオで元の訳を確認
- チャイムがなってしまったものの、自分たちが訳したシナリオ部分のコピーをその時間中に渡しました。生徒たちは訳すのに苦労した所をすぐにチェックして、それぞれに「そうだったのか!」「え~!」といったリアクションをしていました。「知的ハングリーな状態」(中嶋洋一先生)だったので、吸収力抜群でした。
<道徳の授業で>同日5校時
④「つるに乗って」の英語版(字幕なし)を訳した所のみ見る。
⑤日本語版(音声)で全編見る。事前に訳したからこそ、興味を持って、訳した部分を見ていたとように見えました。また、訳し方の違いに驚きの声があがりました。
5.成果と課題
- 少し難しめの課題に取り組むことによって「一方的に教える」関係ではなく、「聞きあう」関係の中でどの段階の生徒も気後れせずに取り組めたこと、普段の授業で習得した英語を活用できたこと、辞書を使って自分で苦労しながら訳す体験をしたこと、結果として「応用→理解」が学びの中に起こったことが成果だと考えています。あと一時間とれれば、和訳をシェアしたり、役になりきって音読練習をしたりすることで、一層深めることができたかもしれないというのが反省点です。また、今までは単発的な取り組みになりがちだったので、今後継続的に取り組む中で、アンケートなどを通じて生徒の学びが深まっているか検証したいと思います。
- 正直なところ、私自身が一番勉強になりました。今回の取り組みをきっかけに、「協同学習」を効果的に授業に取り入れて、生徒の学びの質を高めていきたいと思います。
<参加者の感想>
- 私は、まだ協同学習を上手く授業に取り入れることができていないので、参考にさせて頂きます。
- エンカウンターを前提に協同学習的アプローチを行っている点に新鮮さを覚えました。サダコからチェ・ゲバラまで先生の視点が決してぶれないのが素晴らしいと思いました。
- 【高草木先生の発表を聞いて】
- 高校時代の英語の授業に似ていてとても懐かしかったです。ほとんど全員が就職する工業高校でしたので学力は推して知るべし。先生が教科書で授業を進めるのは年度の半ばくらいまでで、その後はプリント教材でした。今でも覚えているのは、A Boy of OkinawaとLeo Huberman の We, the Peopleです。
授業はこんな具合です。①先生の後について音読。②先生が英文をほぼ均等に分割し,各班の代表がじゃんけんで担当箇所を決める。③班員は辞書を引き引き,「ああだ、こうだ」と文字通り無い知恵を絞って訳文をひねり出す。④班毎に日本語訳を発表。当時にあってはおそらくごく一般的な訳読中心の授業でしたが、頭の中にまるで絵が描かれていくような訳出作業でした。半世紀近く前の話ですが、この時の私の感覚は高草木先生の2年生28人が「禎子」を相手に感じていたことに多分ピタリと重なるのではないかな。「えっ、そうなの!?」と生徒の胸にガツンとくるような内容の英文を選ぶことにつきるのではないでしょうか。ありがとうございました。 - 協同学習について詳しくないので、どんな準備が必要なのか、どんな効果があるのか等、質疑応答の中での意見も含めて参考になりました。題材についてですが、監督やプロダクションと直に交渉をされた先生の行動力は素晴らしいですね。今日まで教科書をこなすことで精一杯でしたが、「みんなが難しいと感じるレベルの魅力的な内容」の題材のことを意識しながら、題材になりそうなネタ集めを始めてみようと思います。英語科通信も取り入れたいです。
- 自分も中学生の読解を班活動でさせているので、大変興味深くレポートを聞きました。佐藤学氏いうところの「学びのジャンプ」について論議が出ました。もちろん一斉授業でも、個々に深く学ぶということはあるのですが、喧々諤々と班の中で意見を出し合い、クラス全体に投げかけたときに、また深まることがあるのは、班活動を見ていて爽快です。しかし、一番は教材が優れたものである必要があるので、それを模索中です。自分から積極的に教材化を行っている高草木さんはすばらしいと思います。
●中学実践報告:「中学生に伝えたかったこと―言語活動・言語材料・題材を通して―」
大澤美穂子さん(北里大学非常勤講師)
1. レポーターから
- 発表前の紹介文:発表者は、今年3月に中学校教員を退職した。退職をして、改めて、次のようなことを考えることがある。「授業で中学生を救ってきたか。」「授業は中学生のためになっていたか。」「英語を通して中学生に何を伝えてきたのか。」 発表者が実践していた授業内容を言語活動・言語材料・題材の観点から「中学生に伝えたこと、伝えきれなかったこと」を発表したい。また、中学生にとって「楽しい授業、わかる授業、ためになる授業」とは何かについて参加者のみなさまと意見交換ができれば有り難いと思います。
- 発表当日のコメント:今年3月で退職した。タイトルは決めた通りになっていないかもしれない。伝えられなかったことの方が多かったか。本発表は①4技能を伸ばす手段は文法の知識にある、②実用も大切だが、生徒の「なぜ」に答えて、ことばの面白さを伝えることが大切、③題材は心を成長させる糧になる、の3点に立脚して、言語活動・言語材料・題材を通して中学生に伝えたかったこと及び課題として残ったことをまとめた。
発表
Ⅰ.言語活動…心の琴線に触れることばが使えること
- 「話すこと」「聞くこと」「書くこと」の具体例として New Crown3年 禎子を扱った課より
終わり5分を2週間8回くらい本文を基にした対話練習をさせる。2週間後にテストwriting 「関心・意欲」で見ることが多い。「読んだことを考えて書くこと」の具体例として サダコに何か言えることがあったら日本語で書かせる。「戦争はいけない」「平和が大切」と伝える。 - 5行詩の創作活動をさせた場合生徒の作品はシェアする、掲示するのが大事。1文がやっとでも。
- A Vulture and a Childの課では What do you think about the photo?と問うて自分の考えを表現させた。自分たちができることを考えて英語で表現し、グループで書いたものをお互いに読んで、取り込みや修正を行った。「一番生徒を育てるのは、いい英文に出会って、それをアレンジしてまた文が作れる。」
Ⅱ.言語材料…単語指導に関して
- 5文型を中学では教えないが、7文型まで教えたい。
- 課題:日・英語の文法、文構造には相違点と共通点がある。文法を通してことばの奥深さに気づかせたい。
Ⅲ.題材…自分や他の人の価値観を知ること
- 1平和について、2人権について、3貧困について 4環境について 5異文化について それぞれ学ぶ重要性がある。
- 課題:他の教科ではもっと難しい用語や話題について学んでいること。何もできないかもしれないが、そのことについて考えること。興味はなくても知識を得ることはできること。読むことで心に残る文や語に巡り合うことができること。ことばはそれぞれの民族の魂であること。現在、理系の大学で教えているので、教材に偏りがある。学生にこそ、平和について考えさせることが必要ではないか。
質疑応答・意見交換
- A:(大澤さんのリストを見て)いい英文が中学教科書にこんなにあるんだ。(高校で)生徒に暗唱させるが、本当に文を学ぶためだけに特化したキーセンテンスだと思うので無味乾燥なものが多い。
- 大澤:いいか悪いかはわからないが、こういういい文をテストした。書かせた。
- A:暗誦や暗記には生徒は意義を見出しにくいようだが、どうせ言わせるなら名文、メッセージがある文を与えることは意味がある。何か伝えたいために口があるのだから与える題材の内容の大事さがある。
ALTの力をもう少し借りるのはどうか。夏休みの宿題に文を作ってと頼み、アメリカのレイシズムについて書いてくれるといった。
最後に、言葉について扱うことをテーマに「言葉について」「民族と言葉」などの題材が必要と思われる。 - B:中学でなかったら高校の教科書を調べてみるといい。
- C:5文型とか7文型は必要と言われた。いったいどれだけの生徒が、それが分かるのか。
- D:37年間を踏まえられての課題ということだったので、英語教育は同じことを繰り返し、どうしたらこういう課題を解決できるかと思いながら聞いていました。
- 大澤:昭和33年からの学習指導要領を続けて読んでみたら、大切なことは言っている。4技能に関してもちろんやるべきではあるが、極端なスキルに走るのではない。教師として題材選びが大事といったが、自分が課題として残したことである。
- D:少しでも改良してやってみるしかないか。何をどうしたらいいのかわからないながら…。
- B:なぜそんなに英語を時間かけてやらなくてはいけないか? 生徒が何を要求して、何を求めているか、目の前の生徒をよく見て、必要なことを伝えていければいい。ほかにご意見があれば…。
- E:自分の実践で「フルスィング」を扱った時、言葉の大切さを感じていたので、「つるに乗って」でも生徒たちが感じたことが書けたのではないかと思う。
- 大澤:はっきり言って名文といえるものがあるのはTotal とSunshine くらいか。以前NCはよかったが。韓国日本の例の課の差し替え以後、著者の姿勢が変わったか。
- F:自分がどれだけできるかわからないが。
- G:「英会話は教えられない」とは、ネイティヴのようには話せるようにはさせられないという意味か。
- 大澤:「くり返し練習してすらすら言えるようになるまで」学習の経験が大きい。一度やればもう終わりましたという生徒。少しミスリードがあったようです。
【参加者の感想】
- これまで活動されてきたことの分析という貴重な発表をお聞きすることができて、とても参考になりました。大澤先生の課題を引き継いで、今後に活かしたいです。
- 特に印象に残ったことは、それぞれの柱の残った課題、語順や品詞転換で生徒がつまずいている部分、そして暗唱したい英文です。暗唱したい英文では、先生の信念が凝縮されていると感じました。しばらく行っていなかったので、素敵な英文を暗唱させようと思いました。残った課題は自分に照らし合わせてうなずきながらお聞きしていました。大澤先生の落ち着いていて、かつ力強いお話の仕方を聞いて、自分が生徒だったら、安心して習うことができるなあ、(自分にないものゆえに)うらやましいなあと思いました。貴重なお話をありがとうございました。
- 今までの集大成を発表していただきました。とてもまとめが大変だったと思います。このレポートをもとに教材ができたらいいのに、なんて考えました。
- これまでの実践を通して残った課題という貴重なお話をありがとうございました。日々の授業では目の前の問題を解決することに専念してしまい、英語学習の全体像が見えなくなることがあります。大澤先生の分析を通して、普段自分の行っている活動の全体の中での役割を整理できました。時間をかけて課題と向き合っていきたいです。
- 大澤先生が37年間振り返って自分のやり残したことを逆算して自分ができるかというと難しいと感じました。でも、何に生徒がつまずき、どこを気にかけて教えていけばよいかがわかり、勉強になりました。先生が37年間生徒のことを考えてお仕事をされているのがよくわかりました。お疲れ様でした。
- 同じ読ませる/聴かせるなら、心に響くものを、どうせ書かせる/話させるのなら、生徒本人が心から伝えたいことを、と思いました。
- 本日はみなさまから貴重な意見、感想を頂き、ありがとうございます。
●日時: |
2016年12月10日(土) 午後3:30~7:00 3:20 ~ 受付開始 3:30 ~ 5:00 中学校レポート[担当:棚谷] 5:00 ~ 5:15 休憩 5:15 ~ 6:45 中学校レポート[担当:関口] 6:45 ~ 7:00 アンケート記入・事務連絡 *例会終了後に「忘年会」を行います。是非ご参加ください。 |
●会場: |
大倉山記念館 第1集会室 (Tel. 045-544-1881) (東急東横線「大倉山」下車徒歩5分 改札口を右に出て右折、急坂上る) |
●中学 実践報告: |
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●中学 実践報告: |
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●会場費: | 500円(支部会員200円 学生200円) [当日会員登録(年会費2,000円)で割引適用] |
●問い合わせ: | 萩原一郎 |
★次回以降の例会予定(最新情報):神奈川新英研HP
- ■2017年2月例会 2月18日(土)
- ●高校実践報告(前半):吉田 友樹さん
「協同学習の実践と効果ー英語嫌いと向き合い、スローラーナーに寄り添う」
●中学実践報告(後半):山地 希実さん
「4技能を取り入れて、基礎基本の定着を図る」
(2016年11月27日掲載/2017年2月4日更新)