■ 神奈川新英研7月例会
2014年7月
近況,最近取り組んでいること
- なぜ訳読式の授業のみでは不十分なのか。どのようにやる気を出させ、継続させることができるか。
- 現場を離れたので、できる限り研究授業などの授業実践を見せていただくようにしている。
- 動機減退について、学習者要因の観点から文献を読んでいる。
授業でうまくいかないこと、悩んでいることなど
- 音読・リスニングをもっと取り入れたいが、文法説明に時間がかかり、なかなか導入する時間がない。
- 読解と文法、語法をどう関連づけて展開するか。
- 音読(重要性を伝えたり、実感させることがうまくできていない)
中学実践報告:
「帯活動で鍛える基礎基本 ~やっべー! 俺、8番まで一回も裏見てねーよ!~」
泉 康夫さん(川崎市立平間中学校)
1. はじめに
- レポーターから:「生徒は誰でも分かりたいと思っている」というのは本当でしょうか。学校の勉強など、まるで眼中になかったあの顔、この顔が目に浮かびます。必ずしも「生徒は誰でも分かりたいと思っている」わけではないが、しかし「分かった瞬間は誰でもうれしい」というのが精々のところではないでしょうか。
分かった瞬間を積み上げることができる環境にいる生徒と、分かる瞬間はあるけれど、様々な事情からその瞬間だけで終わってしまう生徒の力を共に伸ばそうとするとき、ハードルを下げ、間口を広くした学習を帯状に長短何本も組み、さらにその帯を幾重にもオーバーラップさせることで生徒が既習の文法事項や表現に何度となくふれることを可能にする帯学習は優れて有効性が高く、とりわけ基礎を固めるには最適と考えています。帯活動のいくつかを実際に体験して頂き、よろしくご意見下さい。
2. 授業
- 「生徒は誰でも分かりたいと思っている」わけではないが「わかった瞬間は誰でもうれしい」のではないか。生徒が落ち着いて勉強しようとしない困難校においてはまず第一に、教師がしようとしている事に食いつかせることが大事だ。泉氏は困難校で普通の授業(導入―展開―まとめ型)をしてみたが、全く授業は進まず、思い余って他の先生の授業をのぞいて見たり、新英研のレポートを参考にしたりして次の様な考えに至った。
- 何度も説明するよりも、何度も練習できるシステムを作ること。又何度も練習していると飽きが来るので、そのためにポイント制を使うというやり方を導入しよう。この何度も練習する方法は「帯学習」などと言われています。以下にその方法を紹介します。
- 1レッスンを10時間で進めようとすれば、最初のページから順番に読んで訳してというのではなく、そのレッスンの基本文に焦点をあてて「文法事項の前裁き」「基本文口頭練習」「基本文音読チェック」「基本文のwriting練習」「本文訳」「ドリル」などを1時間の中で数項目をやっていく。次の時間も又次の時間も何項目かを組み合わせて実行する。この方法でやっていくと、同じ基本文や重要項目を何度も復習していることになる。そしていままで知らなかった英単語や英文を知らず知らずのうちに身につけていくことになる。その結果生徒たちは、いままで知らなかった英語を少しずつわかっていくことになる。正解した生徒にはシールなどを使ってポイントを与える。このポイントをためることも生徒にとっては喜びになる。
3. 帯活動
- それではその「帯」の内容をいくつか紹介してみたい。(詳しくは資料をご覧下さい)
1.文法事項の前さばき
- 1年から3年までの文法事項を短い文、または歌(コマーシャルなどで知られている曲を使って作った)にして覚えさせる。
2.基本単語練習「英鍛語マシーン」
- 約6分の曲を流すうちに、英単語・その読みのカタカナ・単語の意味が何題やれたかを競う。このレポートの表題「やっべー!俺、8番まで一回も裏(正解表)見てねーよ!」という叫びはわかった瞬間の喜びの声なのです。又この練習プリントは回を重ねるたびに、伏字を増やしたり、その位置を変えたりして飽きさせないように作っています。
3.基本文のwriting練習
- 「過去のことを英語で書いてみよう」というプリントは女の子がピアノを弾いているイラストとyesterdayという文字だけを見て過去形の文を書かせています。
- その他、どの帯にも生徒が食いつくようなおもしろい工夫がされていて、英語が得意な生徒も、不得意な生徒も次第に意欲的に取り組んでくれるようになっていくのです。生徒たちの泉氏の授業評価は表題の生徒の言葉にも表れていますが、感想文にも沢山書かれていますのでご覧ください。
<参加者の感想>
- 生徒が泉先生の授業が好きなのはアクティビティの向こう側に泉先生の人柄を見ているからだと思いました。
- どの学力の生徒も参加することができる授業であり、システマティックに用意されている点が参考になりました。
- 私が生徒だとしたら、最初の授業でプリントをもらっても何をどうしたらいいかわからないだろうなと思った。それを今の中学生の(ゲームや遊びの中で手に入れた)感性にフィットするたくさんの活動を思いついた泉さんはすごい!最後には生徒たちは泉式英語ゲームに夢中になったのだから。その中で、たとえ、単語一つあるいは文章一つだけでも獲得して、英語授業へのモチベーションが上がってきたのだから。
- いつもながら泉先生のパワフルな実践に圧倒されました。豊富な活動がとても参考になりました。授業で社会問題を扱いたいと思っても、押しつけになってしまうのではないかという心配がありましたが、授業内容とうまく結びつけたり、泉先生のように熱く語りかける姿勢が生徒に思いを伝える秘訣なのかなと思いました。
- 帯学習の効用について実践発表を聞き、改めて帯学習の大切さを感じました。
- 繰り返しってやっぱり大切ですね。
高校実践報告:
「高校3年生:訳読式のみの授業からの脱却の過程」
中村拓也さん(立正大学付属中学校・高等学校)
1. はじめに
- レポーターから:長い間文法訳読式の授業をひたすら続けてきましたが、生徒たちに思ったような力がつかないことに疑問を感じ、授業改善に取り組み始めました。文法訳読式の授業から「脱却すること」が目的でなく、「脱却して何をするか」が大切だと考えていますが、学習者の視点に立って授業を考え、準備することは簡単ではありません。その失敗の過程をご覧いただき、アドヴァイスをいただければ幸いに思います。
- 英授研に5~6年前から関わり、萩原先生と出会う。昨年2月英授研で同題で発表し、先月続編を行った。様々なご意見をいただき、後半を変更した。
2. 実践報告
- 本日の流れ
1)脱却する過程における失敗の数々
2)受験を控えた高校3年生との格闘
3)反省を踏まえた高校1年生の取組み - 立正大学付属中は1872年開校し、今は西馬込駅近くに位置する。立正大学に進学するのは18%で、立正大に進むことができるということが中学受験の売りにならない。
- 授業を変えようと思ったきっかけは、以前は訳読式で音読もなし、単語帳、文法書を与え、定期的にテストを行っていた。その結果、模試での成績が上がらず、センター試験で時間が足りない。何が問題なのか考えるために、いろいろな研修(英授研含めて)に参加した。みなさん音読を尊重していた。それはなぜか?入試問題を改めて研究してみると、音読のスピードで文章が読めないと時間切れになる。以前と比較してアウトプットに関する問題が増えている。入試の動機付けだけではなかなか生徒は勉強しない。英語を楽しいと思えなければ家庭学習をしないし、「わかった」「通じた」という体験は非常に大切。そのために英語の楽しさを経験させることが大事だと思った。
- そして、失敗した。なんでも真似した結果、生徒は英語も先生も嫌いになった。音読は重要だと聞き、とにかくやらせた。目的の見えない活動に生徒は嫌気がさした。私も怒鳴った。自学帳は良いと聞き、徹底的にやらせたところ、一生懸命見ているうちに、字が汚い生徒にイライラし、関係が悪くなった。
- 改善に向けて、英授研で相談してみたところ、学習者の立場になって考えることが重要だと分かった。 1)生徒はみんな「できるようになりたい」と思っている。 2)一見積極的でない生徒への対処は、何で前向きになれないのかと考えた。
- 6年間持ち上がった生徒がこの3月に卒業したが、彼らが高2の時のアウトプット活動の映像を見ていただきたい。
- 地球上の生物が植物は円柱形、動物は左右対称に作られているという教科書の内容を踏まえて、新たな生物の存在が確認されたという前提で記者会見を行う。あるグループが発表し、ほかのグループが記者として質問する。発表者グループはアドリブで答えを考え、応えなければならない。
- "How do you find the creature?" "(We are supported by the government. We have money.)" "What food do they eat?" "(They use )" 等々。
- 彼らが受験期に入り、予備校みたいな授業を期待する。偏差値の上がる授業を期待し、音読は必要ないと思い、アウトプット活動は必要ない、受験対策さえやればよいと思う。
- 英語力はどうやってつくのかという問い、
理解(reading)から産出(speaking)の橋渡しをしてくれるから音読が必要で、Input とOutputの往復により英語力がつく、しかしインプットのほうがより大事というと、彼らも納得する。 - 問題演習だけでよいのか、音読やアウトプット活動と比べると問題演習の量は少しでいいはず。
- ある日、オクスフォード出版の人が授業見学に来て、生徒に話しかけ、会話をした。本人も周りもコミュニケーションが成立していたことに、すごいな~という感想であった。そもそも、コミュケーションって楽しいという気持ちを共有できたことが良かった。
- Reading Powerという教科書が、目からうろこだった。Previewing and Making Predictionのページで、内容についての背景情報だけ先読み・もしくは推測すると本文が断然に読みやすくなる。
- Reading Powerの挙げるReadingの4つのパターンは、Listing, Time order, Comparison, Cause and effectである。パターン別のリーディングの後に特有のロジックと表現が紹介されている。定着を図るために、高3になってからも「Reading Power でやったCause and effectだね!」と思い起こさせた。自分が気づいてないところで生徒の方から「先生、これはComparisonでしょ?」と気づかせてくれる生徒もいた。
- 授業改善に邁進した結果、入試結果は悪くなかった。(早慶は10倍など)進路実績以上に、卒業した後も海外に興味を持ち、英語学習に前向きになっているということが大きな収穫であった。
- 2月に思ったことは、それまでに欠けていたものは、ゴールを明確にすることであった。先にどういう高3になってほしいか考えて、各学年何をクリアすべきか考えることが大事だと気づいた。しかし、具体的にはどうすればいいのか。4月から高校1年を持つことは決まっていた。彼らがどんな能力・モチベーションを持つか想像できなかった。アバウトに、高2でディベートするということを目標にした。
- 最後の授業実践の教材は、辻井伸行さんの半生であるが、授業と家庭学習の音読活動の結果、各生徒が宿題でストーリーのマインドマップを書いてきて、授業では「ペア読み→マインドマップ修正」を数回繰り返して、ストーリーライティングの小テストを行った。つまり、辻井さんの半生を英語で論述した。
3. 質疑応答、意見交換
- Q:スキーマという言葉をどういう文脈で使っているか。
中村(以下N):背景知識がなければ、どんなことを聞いても刺激されないということで、事前知識の大事さを表す言葉。 - Q:どんな音読をやっているか?
N:授業では(コーラスリーディングはやらず)バズリーディングしかやっていない。4月にシャドーイングなどのやり方は教えているので、家庭学習で行う余地があるが、授業として担保していない。 - Q:コンセプトマップのチェックは?
N:チェックはしてない。発表時に、間違いがあってもグループの誰かがフォローに入ることができるし、今まで教員が訂正を行うつもりでいたが、必要を感じたことはない。 - Q:訳読式からの脱却するにあたり、やめてよかった部分と残すべき部分は?
N:教科書1pを理想は20分だが40分で進む。なるべく短くしようと検討しているところ。 - Q:生徒に全文和訳を提供するか?
N:渡すことも検討したが、なくても生徒は何も言わない。これでいいかなと思っている。 - Q:対象レベルは?
N:教科書のレベルによる。教科書は大修館『コンパス』。まじめな生徒だけではないので、難しい部分はあるかもしれないが。 - Q:寺島隆吉さんが、石川県立定時制におられた時に(今岐阜大を退職されているのだが)、いくつか本(三友社)も出版されている。寺島さんが、量から質に転化すると主張されている。米沢さんは、調べ学習を提唱されている。モチベーションが高まると、授業外でも調べる。最後に紹介されたフットプリントの詩は、タイトルを書いたほうがいい。
- Q:最後の女子生徒の作文は、英語の上手・下手ではなく、人の心を打つものだった。それを引き出したのは、彼女の人間性。それに加えて、授業でのインプットが彼女の心をつかんだのでは。
- Q:8枚1セットでプリントを渡しているとのことですが、1pごとに一つの目的に絞ったプリントを出されているのがいいと思いました。
- Q:黙読をやらせるとき、真剣にやるか不安。黙読も2回目となると、自分の生徒はやらない子もいる。それをどうチェックしているか?
N:特進クラスでは、やらない人はいない。別のクラスでも、やらない子に目が行き過ぎて全体が見えなくなるよりは、多少やらない子がいてもいいかと思っている。
<参加者の感想>
- 最後に紹介された女子生徒の文章が素晴らしかったです。彼女のつらい経験、彼女の人間性、そしてThe Lordの三位一体の結果ですね。そういう意味で、生徒の良きアウトプットを引き出すために教師ができることは、良きインプットを与えることだと思いました。
- 訳読式のみでは不足している部分を補うために、音読、outputを行っているということが明確になりました。私も勤務校では高校2年生ではCrownを使っています。資料作成、授業展開共に取り入れたいと思います。大変勉強になりました。
- 訳読式から音読式(のみならずoutput方式)まで、非常によく考えて転換できたと思います。このような実践を、入試だけの英語授業をしている先生たちに、広く知らせてほしいと切に思う。きっと、元の私の勤務校でも、このような転換が必要なのではないかと思う。
- Thank you for inviting me. I'll talk to you at school. Tell me something you heard at the night session.
- 授業を行って見つけた疑問やぶつかった壁に対して一つひとつ丁寧に考える姿勢をお持ちで、その取り組みの「姿勢」にとても刺激を受けました。
- 研究授業を見せていただくと、やはり皆さん音読を実践されていますが、中村先生のおっしゃるように、なぜ音読が必要か?や、なぜoutputが必要か?を生徒に理解させることは、授業以前に大事だと思いました。また、受験がゴールではなく、ずっと英語を学びたいという気持ちが継続することが大事なんだよということを伝えたいと思わせてくれた発表でした。ありがとうございました。
- 訳読脱却を目指そうとされた中村先生に両手を挙げて激励します。
- 先生のご努力も実践も素晴らしものでした。きっと研究会に参加されたことを試行錯誤しながら実践していき、成功したのだと思います。チャレンジ精神と研究心が素晴らしいと思いました。理論に基づいているところも素晴らしい。
●日時: |
2014年7月12日(土)午後3:30~7:00 3:20 ~ 受付開始 3:30 ~ 5:00 中学レポート [担当:棚谷] 5:00 ~ 5:15 休憩 5:15 ~ 6:45 高校レポート [担当:萩原] 6:45 ~ 7:00 アンケート記入・事務連絡 |
●会場: |
大倉山記念館 第1集会室 (Tel. 045-544-1881) (東急東横線「大倉山」下車 徒歩5分 改札口を右に出て右折、急坂上る) より大きな地図で 大倉山記念館までのルート を表示
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●会場費: | 500円(支部会員200円 学生200円) [当日会員登録(年会費2000円)で割引適用] |
●中学実践報告: | 「帯活動で鍛える基礎基本 ~やっべー! 俺、8番まで一回も裏見てねーよ!~」 泉 康夫さん(川崎市立平間中学校)
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●高校実践報告: |
「高校3年生:訳読式のみの授業からの脱却の過程」 中村拓也さん(立正大学付属中学校・高等学校)
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●お問い合わせ: | 萩原一郎 |
★次回以降の例会予定:神奈川新英研HP
(2014年6月29日掲載/8月27日更新)