■ 神奈川新英研12月例会
2011年12月
■12月例会報告
2011年12月10日 大倉山記念館にて 参加者 20名
●近況,最近取り組んでいること
- ICTを取り入れた英語教育に励もうとしています。
- 行間を読む(主人公の気持ちなど)活動など。
- プログレス21を使った授業。
- グラフィックオーガナイザーを使い,オーラル・イントロダクションをしています。
- パワーポイントを使ったプレゼンテーション。
- 教材作成の質と量と種類の維持。語彙力向上に於いて,日本語と英語のバイリンガル状態を作る。
- Critical ThinkingやConflict Resolutionに関心を持っています。
- RAWA(アフガニスタン女性革命協議会)の活動を知らせる授業の準備。
●授業でうまくいかず悩んでいることなど
- 忙しい時期の授業準備。
- 日本語と英語のバランスをどのくらいにすれば良いのか。
- 生徒が面白くないと感じる教科書をどう面白くなるように料理するか。
- 受験対策とのバランスが悩み。亀井先生のレクチャーを聴いて,かなり悩みが解消されました。特に洋書からの英文引用の方法・着眼点が良く分かりました。
- 思考力を深め,有機的な世界のつながりに英語を通じていかに生徒たちを導いて誘っていけるだろうか。受験英語指導をどうやって深めていけるのだろうか。
●事務局への意見
- 「受験対策の必要性と是非」について報告があればいいと思います。
●高校実践報告:
「国際コース高3リーディング 自主プリントを使っての授業報告」
亀井友子(ともこ)さん(橘学苑高校)
ワークショップ形式で例会参加者にオーラル・イントロダクションをしてくださいました。ワンガリ・マータイさんのご主人の写真(にこやかな笑顔の男性)は実は偽物(!)だと伺ってビックリしました(参加者の方々も今,知って驚いていることでしょう! 例会の数日後にお会いしたときにこっそり教えていただきました)。こういう罪のないウソがつけるかどうかで教員の技量は決まるのではないでしょうか(マータイさんのご主人のことを今後生徒も私たちも話題にすることはないでしょうから…)。「正直は美徳」ではあるけれど,教育上では「ウソも方便」なのです。エンターテイナーとしても優れている亀井先生が選ばれた教材は人道的な『平和を作った世界の20人(Great Peacemakers)』『モリー先生との火曜日(Tuesdays with Morrie)』。ぜひ,この2冊を読まれることをお勧めしたいと思います。
ワークショップ形式で例会参加者にオーラル・イントロダクションをしてくださいました。ワンガリ・マータイさんのご主人の写真(にこやかな笑顔の男性)は実は偽物(!)だと伺ってビックリしました(参加者の方々も今,知って驚いていることでしょう! 例会の数日後にお会いしたときにこっそり教えていただきました)。こういう罪のないウソがつけるかどうかで教員の技量は決まるのではないでしょうか(マータイさんのご主人のことを今後生徒も私たちも話題にすることはないでしょうから…)。「正直は美徳」ではあるけれど,教育上では「ウソも方便」なのです。エンターテイナーとしても優れている亀井先生が選ばれた教材は人道的な『平和を作った世界の20人(Great Peacemakers)』『モリー先生との火曜日(Tuesdays with Morrie)』。ぜひ,この2冊を読まれることをお勧めしたいと思います。
亀井さん
- レポーターから:
本校国際コース高校3年生は,2年次をニュージーランド留学で過ごしてきた生徒たちです。1期生から数え,現高3で6期生となりました。昨年まではTuesdays with Morrieという洋書をテキストに自主プリントを作成して授業を行ってきました。この本のテーマはずばり「人生の意味」です。今年はGreat Peacemakersを使い,同じく自主プリントを使って授業を進めています。彼らが一地球市民としてどのように将来「平和」に貢献していくのかを大きなテーマにしています。一緒に自主プリントを使った授業を体験しながら,洋書を使っての授業の可能性について考えたいと思います。 - 勤務校:
文理総合,デザイン美術,国際の3つのコース制をとっている中高一貫校。神奈川県の私学で唯一,国際コースはニュージーランド1年間留学プログラムをもっており,高校2年次にホームステイをしながら提携している現地校に各校1~2名ずつ留学。帰国生たちはまとまった英文を読んだり,自分の意見を英語で書くということにあまり抵抗がなく,雰囲気も前向きで積極的。また受験ではAOや公募制推薦といった受験方式を利用する生徒が多いため,ペーパーテストに直結する演習的な授業というよりは,大学やその先を見据えた幅広い取り組みを行っている。 - 2冊の洋書:
1期生から5期生まではTuesdays with Morrie,そして今年はGreat Peacemakersをメインテキストにしている。Tuesdays with Morrieは死期の迫る老教授・モリーと社会人となった教え子・ミッチの2人が交流するなかでミッチが人生の意味を教えられるという話。亀井先生自身が心を揺さぶられ,生徒にも「人生」について考える契機になればと願っている。またGreat Peacemakersは,日本語版『平和をつくった世界の20人』(岩波ジュニア新書)のタイトルが示すようにガンジーやマザー・テレサといった人々がどのように生き,平和を築いてきたかということを示す自伝的な内容。これは国際コースの目指す「平和を希求する人間の育成」,また創立の精神のひとつである「生命の尊さを自覚し,明日の社会を築く喜びを人々とともにしよう」につながっていると亀井先生は考えている。
実践その1
『平和を作った世界の20人(Great Peacemakers)』を使った授業。ガンジー,キング牧師,マータイさんの順。
-
授業の流れ:
一人の人物で英文5ページ。前半(4時間程度)と後半にわけ,それぞれ3種類の自主プリントWORDS,COMPREHENSION,TRANSLATIONを使用。授業は次の流れで進みます。
①下調べ:
予習として,今回扱う人物について日本語でノートにまとめてくる。授業で発表させ,そこで新たに学んだ事柄などはノートに書き込む。
②プリントWORDS:
本文の難しい単語を抜粋。英語のdefinitionを選ぶ。13問でA~Mまでの選択肢。
例)She got a Ph. D. in anatomy.
選択肢の答え)the scientific study of the structure of human or animal bodies
③オーラル・イントロダクション:
ピクチャーカード(A4版印刷。インターネット検索で画像を入手)を用いる。ここで生徒は初めて本文の英文を見る。
1.マータイさんMaathai 2.farmer 3.fetched water 4.ナイロビでも学んだ 5.anatomy 6.gathered branches to cook 7.アメリカの大学で学位 8.biological science 9.ケニア女性で初めてPhD取得 10.夫の写真(偽物!) 11.議会 12.植林 13.the green belt movement 14.切り倒した木 15.malnutrition(栄養不足のやせた子ども)
英文を読みながら取り組む。読む活動にも必ずタスク(日本語の穴埋め,英問英答やwrong sentencesなど)を課す。
1)日本語の穴埋めの例)
Wangari Maathaiの年譜:空所の答え:
1940年,マータイさん生まれる。両親は〔 1 〕。幼少時代は〔 2 〕をして過ごす。兄の勧めで学校に通うようになる。成績が非常に優秀なため,アメリカの〔 3 〕で学ぶための奨学金を得る。〔 4 〕の学士号および修士号取得。1971年,〔 5 〕の博士号取得。中央・東アフリカで女性初の博士号取得者。ナイロビ大学で初の女性〔 6 〕就任。また環境連絡センターの〔 7 〕に選ばれる。〔 8 〕氏と結婚。3人の子供に恵まれる。夫が〔 9 〕に選ばれる。その頃から人々の関心事である雇用創出と環境保全のために〔 10 〕を始める。離婚。1977年,〔 11 〕創立。これは国有地に〔 12 〕本の苗木を1列に植えるもので,防風林としての役割や土壌保護,景観向上,野生動物の生息地提供を目的とするものである。『一人一本』政策を掲げ,周囲に笑われもしたが,なんとこれは実現し,それどころかその目標値を超え,近隣諸国にも広がりを見せる。マータイさん,すごい! 2011年,死去
1. 農家 2. 畑仕事・水運び・枝集め 3. マウント・セント・スコラスティカ大学 4. 生物科学 5. 解剖学 6. 学部長 7. 所長 8. ムワンギ・マータイ 9. 国会議員 10. 植林 11. グリーンベルト運動 12. 1,000
2)wrong sentencesの例)
She got a Ph. D. in economics. 「彼女は経済学で博士号をとった」
→正答は anatomy(解剖学)
⑤ペアで段落ごと,交互に読む。(当日は例会参加者もチャレンジ。Comprehensionをやった後でしたので,単語理解はスムーズでしたが,発音が不明で,四苦八苦。)
⑥プリントTRANSLATION:
読み取りが難しそうな英文をいくつか取り出し和訳をさせることで,細かいところまで読み取れているか確認。英文にはスラッシュをいれ,構文などで注意すべきポイントは網掛けにする。
⑦リプロダクション(reproduction):
最初に使ったピクチャーカードを黒板に貼り,ペアで交互に内容を英語で言う。その後,数名を指名し,クラス全体でシェア。 - この流れで後半もやる。1年間を通し,数人のGreat Peacemakerたちから平和への道筋の例を学び,自分はさあどのように平和貢献するかなと,年度の終わりにはessayをまとめとして書く。夏休みにもそれまでの人物から学んだ姿勢や感銘をうけた言葉についてessayを書かせた。
実践その2
『モリー先生との火曜日(Tuesdays with Morrie)』を使った授業。映画もある。生徒には「亀井先生のモリーへの愛がすごすぎる」「モリー教」と言われるぐらいに生徒に教えたので,生徒がモリーの言葉を引用するぐらいに浸透した。
- 授業の流れ:
自主プリントはチャプターごとに2種類を用意。ひとつは内容理解,もうひとつは読みのポイントのプリントLet's think。「先生,毎回タスクが同じだね」と言われて,グサッときて様々なタスクを作った。 - ①プリント「内容理解」:英問英答やwrong sentencesの他,同じ英問英答でもペアで一人が英語のquestionを読み,もう一方がテキストscanして答えを口頭で答えるなどの活動も行った。
②プリントLet's think :
生徒にとって難しいと思われる表現や言い回しについて彼らの理解を確かめる。
1)It was almost Labor Day,…(P80 8行目)
Q:Labor Dayとはいつですか? またアメリカの学校は何月から始まるの? 日本は4月だよね,韓国は3月らしい。
A:9月の第一月曜日。アメリカの学校は9月が新学期
2)On some nights, when he couldn't get enough air to swallow, Morrie attached the long plastic tubing to his nose, clamping on his nostrils like a leech. (P81 2行目)
Q:どういう状態か絵にせよ。こういうの見たことある?
A:(病院でよく見かける鼻のチューブがついている人の顔を生徒は描きます)
3)Once you learn how to die, you learn how to live. (P82 10行目)
Q:このチャプターで何度か繰り返される言葉だね。君ならどう訳す?
A:死を見つめると,生き方がわかる。
③ テキスト以外にも映画を見たり,モリーの生き方や感銘を受けた言葉についてessayにまとめ,クラスでスピーチ発表しました。 - 生徒の授業感想:
「モリーの授業では英語以外にも「人間」ということを学べて良かったです。先生のプリントは量が多くてノートにおさめるのが大変だったけれど,見やすくてよかったです。」「授業はLet's thinkプリントがすごくモリーの文を理解するのに役立った。先生がチャプターごとにポイントをしぼってくれるので,大事なところがわかってとてもよかった。」「ずばり楽しかった!!です。」「自分は普段英語の本をあまり読まないので,良い機会だった。ただ,やっぱり最初ペースを掴むまでは大変で,なんとなくしか内容とれてなかったけど,Let's thinkのプリントとか,ある程度進んでから観た映画とかでストーリーを理解できるようになった。」
まとめ
- 亀井さんの思い:
授業はカラオケの機械のようにその場で何点と出るものでもなく,ある意味では手探りのところもあり,私たちの工夫にも終わりがないのかもしれません。だからこそ「こんなメッセージを伝えたい!」「これは力になるぞ!」と教員が信じるもの,またenjoyできるものをやるのがいいのではないかと最近感じています。Tuesdays with Morrieは東京の私学会館で行われた研修会で,Great Peacemakersはあるワークショップでその存在を知りました。普段目の前のことに追われがちですが,研修会に出て他の先生方からアイデアを頂くことは貴重です。リーディングの授業ではこれらメインテキスト以外に,時間を計って読ませることに特化したTimed Reading (Jamestown Publishers)を授業の最初にウォームアップで使っていますが,これも研修会で知ったもの。これからも新しいものを開拓しつつ,英語によって生徒も教員も世界が広がっていければいいと思います。
参考文献
- 亀井友子「国際コース高3リーディング 洋書と自主プリントを使って」『新英語教育』2012年3月号(今回のレポートと内容が同じです)
質疑応答+意見交換
- Q:和訳させているか?
A:プリントTRANSLATIONを和訳させてみんなで確認する。生徒は和訳が苦手なので,好きではない時間。全部終わったらプリント配布。 - Q:A4サイズの画像を出すと「見えないよ~」と生徒に言われるが…?
A:20人の授業。電子黒板は1台あるが使わない。 Fさん:パワーポイントでやっている。 (会報担当から:エプソンのプロジェクタを個人で購入されて,授業で使用している先生が神奈川支部に2人いらっしゃるのは驚きです!) - Fさん:3分の2が帰国生で下線部和訳すると「てにをは」がぐちゃぐちゃになる。T or Fはできるが,書かせるとズタズタ。具体例はどれかなどをscanning/skimmingさせる。パラグラフが「因果関係」「序論→本論→結論」なのか全体をつかませるようにしている。生徒はフィーリングでやってしまうので,わざと日本語訳に間違った表現を混ぜて,指摘させることもある。
A:日本語が分かっていない生徒は英語が分かっていない。 - Q:生徒が食いつく活動は?
A:Comprehensionのプリントの穴埋め。ペアで生徒は取り組めるが,ダメなときは他のペアに訊いている。Comprehensionは達成感があるので人気。Translationは難しい。 - Q:20人の机の並べ方は?
A:9人×2列で18人。 - Q:モリー先生の方ではLet's thinkがあったが, Great Peace Makersの方は?
A:Great Peace Makersは伝記。生き様を下調べさせている。 - Q:wrong sentencesは名詞のみ? 本を見ながらしても良いか?
A:品詞はこだわらない。本を見て良い。 - Q:ペアワークは英語で? ペアで競争させたりするか?
A:音読やリプロダクションは英語。意思の疎通は日本語で。ペアで競争はしていない。読めないときは「いいよー」と止める。 - Q:読み間違ったら訂正しますか?
A:ちゃんと読んでいるか見回っている。読み方を教える。 - 英語を目的としてではなく,英語を手段としてその先にある内容も同時に学ぶというかたちの実践を見ることができ,とても学ばせていただきました。私自身が目指す英語教育でもあります。Great Peacemakers,購入します!
- 英語の語義定義を利用して,上手く新出語句を理解させようと工夫が凝らしてある。写真・地図などを多用しているならパワーポイントを使った方が効果的かもしれない。教科の枠を超えた教養講座を仕立て上げている。(会報担当より:大幅に割愛しました)
- 洋書と自主プリントを使っての授業,とても参考になりました。ありがとうございました。ピクチャーカード主体でのオーラル・イントロダクション→ペア→リプロダクションといった授業スタイルは自分がしようとしている授業スタイルと非常に似通っていたので,今後参考にさせていただきたいと思います。自分の場合はピクチャーカードを補足資料にして,英文に空所を作ったプリントでリプロダクションにつなげていますが,つなげにくいところがあるので,全部をピクチャーカードにした方式も今後取り入れていきたいと思います。ペアワークもここまでテンポ良くいかないので,プリントの改善なども図り,うまくいくようにしたいと思います。ありがとうございました。
- まず,教材が魅力的ですぐに引き込まれました。良い教材をシェアして下さってありがとうございます。長文を読んでいく方法,中学でもエッセンスを取り入れられないかな…!と思い,さっそく次のプリントを作るときにQ&Aなど参考にさせていただいたいと思いました。卒業するときに,この国際コースの子たちはどんな力をつけて出ていくのだろう…とうらやましく感じつつ,私も中学で頑張ろうと思いました。ありがとうございました。
- 内容理解を深めるためのCOMPREHENSION,LET'S THINKのシートのバリエーションに多くを学びました。またTRANSLATIONシートで,生徒の英語力だけでなく,日本語力もサポートする必要を感じました。
- モリ―先生のお話は,私が高校時代に読んでとても感動した本です。それをどう英語で教えていくのか,大変興味があり,本日参加させていただきました。教員になり,2年目でどうやってReadingの指導をすべきなのか,とても悩んでいましたが,wordsやComprehensionなどの指導法をご提示していただき,これからぜひ実践していきたい。
- 生徒たちがアクティブに学習できるリーディングの授業だと思いました。先生自身が感動した本(Tuesdays with Morrie)を題材にするとその気持ちが生徒にも伝わり,「モリー教」ができる程,皆の心に感動を生んだこと…,素晴らしいことだと感じました。
- とにかくテキストがよい。読みたい人物を生徒に選ばせたら熱心に読むと思う。
- 楽しかったです。泉先生のコメントも刺激的でした。「技術」ではなく「思考力」を深めて人を育てる題材,中身のある授業とは…,こういうことを探求していきたいです。
- 面白い。こういう長文のやっつけ方もあるのかと感動した。テーマが良くて,スキーマの広げ方が丁寧。長文には思考力を助ける可能性がありますね。
●中学実践報告:「中学校英語教育における思考力の育成
― 題材の練習問題を中心に―」
大澤美穂子さん(相模原市立相陽中学校)
大学入試突破,英検などの資格取得,TOEICなどのスコアを伸ばすことに関心が向いてしまうと,時事問題や論説など説明文の段落をどう読み解くかということばかりになりがちです。格調高い英詩や味わいのある物語文は扱われる比重が減っています。でも,みなさんの心に今も残る英文ってO・ヘンリーの『賢者の贈り物』『最後のひと葉』のような物語文だったりするのではありませんか? 私の心に残る英文は中学New Crownに載っていた北斗七星の由来の物語(Big Dipper),高校Unicorn(文英堂)に載っていたギリシャ神話(Persephone)の2つです。大澤先生は研究対象をふだん扱っている中学教科書の練習問題に着眼されたところがすばらしいと思います。まず自分の足下から始める。みなさんも是非。
大学入試突破,英検などの資格取得,TOEICなどのスコアを伸ばすことに関心が向いてしまうと,時事問題や論説など説明文の段落をどう読み解くかということばかりになりがちです。格調高い英詩や味わいのある物語文は扱われる比重が減っています。でも,みなさんの心に今も残る英文ってO・ヘンリーの『賢者の贈り物』『最後のひと葉』のような物語文だったりするのではありませんか? 私の心に残る英文は中学New Crownに載っていた北斗七星の由来の物語(Big Dipper),高校Unicorn(文英堂)に載っていたギリシャ神話(Persephone)の2つです。大澤先生は研究対象をふだん扱っている中学教科書の練習問題に着眼されたところがすばらしいと思います。まず自分の足下から始める。みなさんも是非。
大澤先生の問題意識と研究
- 思考力:
どのようにして解釈的思考力をつけるか。それを中学校教科書で行うと考えた。「キャンプに何を持って行くか」,それだけで15歳の生徒の思考力といえるのだろうか? - 先行研究:
森住衛「4技能に『考える』(thinking 個人の判断や感じ方を取り上げる)を加えて本当の言語活動になる。」(1992:30-31『現代英語教育』5月号) 森住衛「自分でいちばん感銘を受けたところを書き出させる。内容に関して一番重要な文や段落を抜き書きさせる。」(2008 Teaching English Now Vol.3) 高梨庸雄「自分が音読するときに重要だと思う語句に波線をつけ,自分の経験に関連づけさせる。意見を入れて創造的に対話させる。」(2003) 石井清「良い教材を読んだあとの感想文を(日本文または英文で)書かせる。」(1980『英語教育』6月号) - 研究の目的:
中学英語で扱われる題材の練習問題についてまとめる。教科書を利用して題材の練習問題を作成し,中3を対象に授業実践,分析・考察する。 - 研究の対象:
2006年度版中学教科書(6種類×3学年=18冊)。各課のまとめを中心に調査。ただし,本文の内容理解に関する問題(T or FやQ&A)は含めない。 - 調査結果は桜美林大学の紀要に載せてもらえた。
授業実践
- 1時間の授業の流れ:内容把握(本を閉じて,次に本を開かせて,CDを訊かせて繰り返し出てくる語句を言わせる。日本語で概要を質問しながら理解させる。),語句の説明,音読(クラス,4人グループ,個人),題材の練習問題(印象に残った英文を抜き書き+日本語で理由を書く。最後は,日本語で書いた理由を辞書を参考に英語に直す作業まで行う)。
- A Mother's Lullabyの評価カードの設問
1)「広島・子守歌」についてあなたが知っていることを書きなさい。
2)p.32~35でページごとに:①本文で印象に残った英文を抜き出して書きなさい。その理由を日本語で書きなさい。②理由で書いた日本語のなかで,英語に直せる単語や語句を英語で書きなさい。
3)まとめ:①全文を読んであなたの感想を日本語で書きなさい。②感想で書いた日本語のなかで,英語に直せる単語や語句を英語で書きなさい。 - 生徒(28人)が選んだ英文で多かったもの:
p.32 They looked happy, and the song sounded sweet.(10人)
p.33 They had burns all over their bodies.(8人)
p.34 She held him in her arms like a little mother.(7人)
p.35 But the little mother did not stop singing. (8人) - 生徒を3つの群(2学期中間テストで80点以上がA群。50点以上がB群,それ以下がC群)に分けて,感想を分析。相違点で印象深いのは,p. 35 But the little mother did not stop singing.についてA群の「the girl, sheという少女についての表現が,突然,the little motherと表記されて,作者の思いが伝わる。」と書いていたこと。
- 同僚の感想:
「印象に残った英文を選ぶために,繰り返し読んでいる生徒が多いのには驚いた。適当に下線を引いたりしない生徒の姿に感激した。」「自分の感想を自動翻訳機にかけて英文に直してきた生徒が居る。課題の主旨を徹底する必要がある。」
質疑応答+意見交換
- Q:読んだ後は日本語の資料はつけるのか?
A:日英どちらでもよい。 - Q:良い英文は少ないのでは? 同僚性はどう築いているか?
A:「A Mother's Lullabyは夏休みの宿題でいいよ」というのをやめて,授業で扱っている。同僚にはお願いしてやってもらっている。win-winやgive and takeの関係。6種類の中学教科書の本文を集めると150ある。58は題材のExerciseがある。音読はpart 3をやるときはpart 1,2を読ませてから,ペアやグループでする。 - Q:「印象に残った文を見つけられない」「文章が分からない」という生徒が居たら?
A:それはそれでよい。正しい答えが出ないものが好き! - Q:ヒロシマの原爆の話A Mother's Lullabyのa big bomb fellのところは,a big bomb was droppedとしたいが…。
A:ユネスコは「戦争は人の心のなかで起こるものだ」という立ち位置。原作では「原爆が落とされた」となっているので,絵本の読み聞かせをすることもある。 Wさん:そこまで深めていらっしゃるのですね。素晴らしいです。 Iさん:マータイさんのところで,女性の仕事とされてきた水汲み,学校へ行けなかったこと,字が読めない女性が出来るわけがないと言われたこと,息子たちが反対運動をして投獄されたことなど…,多くの教員はこういうことを授業で扱わない。1989年のALT導入以来,長文は嫌われている。 Kaさん:家に帰って,今日こんなことがあったと家族に話すのもリプロダクション。ニュージーランドの留学から帰った生徒がスキルとしてリテリングする時間を取っている。 - Kiさん:クリティカル・シンキングに出会い,時事問題の授業では,サマリーしたあとに,Critical Thinking Questionsをさせている。
大澤:意見の書ける文章が教科書に少ないのが問題だ! 読んだ本に下線を引けるような(深い内容のある)教科書でないならば,教師が題材を探してくるべきだ!
Iさん:少人数の中3の授業で中2の教科書のリプロダクションをさせているという実践報告を見たことがある。 Kaさん:読む量は大切。酒井先生の多読100万語をやった生徒がいる。
大澤:「キーセンテンスだけでなく,それに一文付け加える」と斉藤栄二さんが勧めているが,中学生なら出来る。メッセージ性がないといけないというのが私の立ち位置。 - 全面的に賛成です!
- 高校入試に於ける作問の矛盾点を鋭く突いている。確かに正解は一つではないが,中等教育レベル(段階)では「本文の内容把握+論理展開把握=筆者や話者のテーマ・主張の客観的(大筋)理解」(印象に残る英文に対する筆者の立場や視点まで話さなくてはいけない)に力点を置くのが大事なのでは? (会報担当より:一部割愛しました)
- 題材を通した思考に関する先生の研究,素晴らしかったです。教科書も研究することで生徒の思考を育てることが可能であることを実感しました。ありがとうございました。
- 中学英語には教育実習以関わっていなかった自分ですが,今回の発表では教科書・題材について教育のベースについて考えることが出来たので,非常に有意義な時間が過ごせたと思います。本当にありがとうございました。
- 自分の意見を持つということは,興味のある分野・興味のない(苦手な)分野関係なく必要だと思いました。苦手なら苦手なりに調べて,目を開いて知ろうとしていかないと,生徒に伝えられるものがなくなってしまうと感じました。やはり英語の技能を教えることはもちろん,世界に生きる1人の人間として,立ち位置を(はっきりさせることはできなくても)模索し続ける姿勢は大切だと思いました。大澤先生の発表を伺って,教員は知識,技能,それからメッセージというスタンスではなく,人としての考えることの大切さが教員として一番必要なのだなと思いました。ありがとうございました。
- 教科書に載っている題材の練習問題を大切にして,思考力を育てる意義を痛感しました。まず,英文を題材にして,生徒が自分の考えを論理的にまとめて,他者の考えと比べながら多様性を知り,人間として成長していけるように授業を組み立てていこうと思います。時間がかかるけれど,それだけの価値があると考えます。
- 教科書における題材の練習問題の有無で思考力がどれほど伸びるかにとても興味があります。教員になって2年目ですが,「思考力」の視点をしっかり持って授業にのぞまなくてはならないと思いました。
- 言語材料だけでなく思考を深めることを教える…,必要なことだと思いました。
- 答えのないQの設定の大切さ。
- 日本語であれ英語であれ,重要なのは思考力だと思います。思考があって会話が生まれ,文も書きたくなります。先生のご意見に全く同意します。
●日時: |
2011年12月10日(土) 午後3:30~午後7:00 3:20 ~ 受付開始 3:30 ~ 5:00 高校実践報告 [担当:和田] 5:00 ~ 5:15 休憩 5:15 ~ 6:45 高校実践報告 [担当:日比] 6:45 ~ 7:00 アンケート記入・事務連絡 ◆会の終了後,忘年会を行います。初参加の方も歓迎です。予約は不要ですので,当日お申し込みください。(会費:3,000円程度) |
●会場: |
大倉山記念館 第6集会室 (Tel. 045-544-1881) (東急東横線「大倉山」下車 徒歩5分 改札口を右に出て右折、急坂上る) より大きな地図で 大倉山記念館までのルート を表示
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●会場費: |
500円(支部会員200円、学生200円) [当日会員登録(年会費2,000円)で割引適用] |
★お問い合わせ: | 萩原一郎 |
●高校実践報告: |
「国際コース高3リーディング 自主プリントを使っての授業報告」 亀井友子(ともこ)さん(橘学苑高校)
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●中学実践報告: |
「中学校英語教育における思考力の育成 ― 題材の練習問題を中心に―」 大澤美穂子さん(相模原市立相陽中学校) |
神奈川新英研HP(次回以降の例会予定)
(2011年11月30日掲載/2012年3月5日更新)