■ 神奈川・東京・千葉合同10月例会

2011年10月
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参加者の感想

●実践報告(高校):
「高校英語での『学びの共同体』の成果と課題~「独裁者」を使った授業で」

沖浜真治さん(東京大学教育学部附属中等教育学校)
 2月11日の公開研究会で授業をご覧になっていたという方が当日の参加者に数名いらっしゃいました。映像で観るよりも実際の授業はもっと暖かみがありました,というお話が出ました。東大附属の生徒達は毎年公開授業をし,ふだんも来訪者も多いので,見学者が教室にいるのはどうっていうことはない(当日は90人!)とのこと。和やかな授業のなかで,絶妙な発問によって生徒から素直な発言が引き出されていましたが,それは,沖浜先生がお持ちのソフトな雰囲気のみならず,佐藤学教授の指導の元,全校で取り組んできた「学びの共同体」の実践研究の積み上げがあるからこそ成立するのだと私は思いました。(20名参加)

沖浜先生

指導案

授業の展開

ワークシート

The Concluding Speech of The Great Dictator
  1. The way of life can be free and beautiful, but we have lost the way.
  2. Greed has poisoned men's souls ― has barricaded the world with hate ― has goose-stepped us into misery and bloodshed.
  3. We have developed speed, but we have shut ourselves in.
  4. Machinery that gives abundance has left us in want.
  5. Our knowledge has made us cynical; our cleverness, hard and unkind.
  6. We think too much and feel too little.
  7. More than machinery we need humanity.
  8. More than cleverness, we need kindness and gentleness.
  9. Without these qualities, life will be violent and all will be lost.
【名訳プリーズ】ワークシートに和訳がない箇所を設け,そこをグループで和訳する作業。ホワイトボードに該当箇所4,5,6のみ板書する。

学びの共同体

 沖浜先生が授業風景をテープ起こしされたものを和田が再構成(生徒のイニシャルはABCを順番に振りましたので本名とは関係ありません):
  1. (モデルリーディングの後,コーラスリーディングで)The way of life can be free and beautiful…(当日の授業観察者から「高校生だがよく声が出ていますね」と言われたそうです。これも「学びの共同体」のひとつの成果かもしれませんね。)
  2. 沖浜先生の作業指示:日本語のチャンクまで読んだら,それにあたる英語を読んでいきます。ちゃんとみんな交代でやるんですよ。一人でやらないように。それから途中「名訳プリーズ」って書いてあります。名訳プリーズ!です。はいどうぞ,始め!  [5分経過] 英語,読んでいますか? ちゃんと。チャンクでスラッシュ入れていますか?
  3. 板書:ホワイトボードに1~10のグループ番号を書く。終わった報告のあったグループ番号には×をつけていく。
  4. 英文Our knowledge has made us cynical; our cleverness, hard and unkind.について相談する生徒達の声: 「名訳プリーズってあるよ。」「だから,かっこよくしろ,ってことでしょ。」「our knowledge私たちの知識は has made us cynical… 名訳しようぜ。」「私たちの知識は私たちを皮肉なものにした。」「言ってた,言ってた。これ,昨日。」「賢さは私たちを…」「でもなんかさあ,clevernessの後にコンマが入っててさあ,動詞がない…」 沖浜先生:その名訳プリーズで言っているのは,結局,中身は何を言ってるのってことなんだよね。だからイメージや具体例を自分で考えた時に初めてことばが出てくるんじゃないの? ね,そういうところをちょっと考えてみて。 [16分半経過] ちょっとみんな,5番でつまってるとか,今ちらっと聞こえてきたけど,共通構文。5番って,こないだやったプリントだよね,そこで実際もう1回やってるよ。
  5. 英文We think too much and feel too little.について相談する生徒達の声: 「しつこいなあ,飛ばすか?」「飛ばすの?」「いや,終わったらまたくればいい。全体像をつかむとわかるかもしれない。」「頭で考えるけど心で感じてない。… みんななんか,いいじゃんとか言ってくれないから,無視されたかと思った。」「いや,いや,あのー,頭の中で整理してたんだよ。じゃあ,それで。」
  6. The way of life can be free and beautiful, but we have lost the way.
    [20分経過]「一旦ちょっと作業をやめましょう。わかんない? えーと,1番は『人生は自由で美しいはずだ。しかし私たちは道を見失ってしまった』 えーと,その後をAさん,読んでね。」
  7. 2) Greed has poisoned men's souls ― has barricaded the world with hate ― has goose-stepped us into misery and bloodshed.
    Aさん:貪欲が人の心に毒をまいたのだ。世界を憎しみで封鎖し,不幸と流血へと導いたのだ。(ワークシートでは「貪欲」「憎しみ」が空所になっている)
    沖浜先生:ちょっと,あのー,Goose-stepped usっていうのは,普通使いませんよ,こんなの。ここで初めて見ました,goose-steppedって言うのはまあよちよち歩きなんですけど,まあ書いてあるよね,「ひざを曲げずに脚を高くあげて歩く」って,覚えてますか映画,わかります?(真似て見せると生徒に笑い) いわゆるあの,まあ軍隊,特別な軍隊式のやつね。それを使って,動詞化して,そういう形で私たちを,つまりmisery and bloodshed,つまり何ですか?
    Bさん:戦争。
    沖浜先生:戦争ですね,つまり具体的には戦争ですね。まあヒトラーをもちろん揶揄してるわけですが。
  8. 3) We have developed speed, but we have shut ourselves in.
    沖浜先生:えー,we have developed speedここはちょっと後で問題になるんですが…。さあ,Cさん。
    Cさん:私たちは…。
    沖浜先生:まあ,そうびっくりしないで。ああ,わからなかったですか?そうですか。(近づいて行って)みんなわからなかった? 言葉が適切なのが見つからなかった?
    Cさん:速度?
    沖浜先生:ああ速度ね,そうなんですよね,速度,まあスピードでもいいんですが,これは何かということをちょっと後で考えましょう。
  9. 4) Machinery that gives abundance has left us in want.
    沖浜先生: 4番,名訳プリーズ,名訳プリーズ…,D君。4番,どんなになった?
    D君:豊かさを与えてくれる機械は私たちをダメにした。
    沖浜先生:ああ,ダメにしたと,きましたか。うちらの方がいい? はい,どうぞ。(笑)
    Eさん:機械が与えた豊かさは私たちを貧しい人間にした。(会報担当のコメント: Machinery that gives abundance「豊かさを与えた機械」という文構造をEさんは理解できていないのですが,当日の授業ではここはスルーしたそうです)
    Fさん:心が貧しいじゃない?
    沖浜先生:今なんか言いましたね,Fさん,何が貧しい?
    Fさん:心が貧しい。
    沖浜先生:心が貧しい…,そうだね,言いたいことはそこのところ,物質の世界と心の世界っていうのを対比しながら,ね。
    Gさん:ティーチャー(沖浜さんのあだ名)言いたいって。
    沖浜先生:あ,はい。
    H君:機械のおかげで豊かにはなったけど,…。
    沖浜先生:後半聞こえないね,そこが肝心の所聞こえない,もう一度(笑)。
    H君:機械のおかげで豊かにはなったけども,私たちは常に物欲の中に取り残されてしまった。
    沖浜先生:「物欲の中に取り残されてしまった」 すごいねえ。あの,H君いつもそういう悩みがあるんですか?
    H君:ないです。(笑) (中略)
    沖浜先生:機械の豊かさって何? 例えばどういうことを言ってるの? たくさん,いっぱい生産できる,だから僕らの生活は本当にいろいろ豊かになってますよね。物がない世界に比べると本当に豊かです。他には何かある?
    Iさん:経費の削減。
    沖浜先生:経費の削減? どういうことですか?
    Iさん:マシンを導入すると人件費が削減できて,黒字の方にまわるかなって。
    沖浜先生:あー,それで豊かになる。なるほどね。でも人間は捨てられていったりして,かわいそうに。そういう豊かさ,もちろん洗濯機にしても,あのー,僕のちっちゃいころなんて,知らないでしょうみんな,こうやってさあ(ハンドルを回す動作),洗った後さこうやってさ,ローラーが二つあって回すと,ぐにゅーって出てきてそれで脱水するんですよ。
    Jさん:知ってる,知ってる,トムとジェリーの。
    沖浜先生:トムとジェリーの! 今やピッて押したら終わりですよ。本当に便利になった。毎日夜やってますよ。さて,それがhas left us in want。さっきから名訳が出てきたね,いろいろね。つまり心の状態がin want,もう1回聞きますけどwantの原義は? 欠けているってこと,欠けているからほしいんですね。そうだったでしょ。だからin wantってそういう状態であるということ。
    Kさん:そうなんだ。
    沖浜先生:そうなんだってこないだ教えたじゃない。だからleaveの使い方,leave誰々・何々をこういう状態(形容詞)においてしまうということですから,それで私たちはいつもin wantだから,H君が「物欲の世界」って言ったんだよね,いつも私たちが置かれているということですよ。
  10. 沖浜先生は次の作業を指示:さて,そうしたら,皆さん,ただmachineryって言うとそれは具体性がないので,えーと。例えばですね,もっと具体的に,洗濯機でもいいんですけど,具体例でなんかないかな?(会報担当のコメント:Be specific.「具体的に」という沖浜先生の呼びかけが素晴らしい!) 僕らの回りのことで,あるいは歴史的にでもいいし。そして,それはもしかしてabundance(丸で囲みながら)と言わないかもしれない。豊かそうだけども実は豊かでないかもしれない,それは何なんだろう? っていうのをみんなで考えます。えーと前やったのと同じでグループで1枚書いたら貼る。どんどん貼っていく。誰か一人ずつちょっと取りに来て。一人一枚。ペンは好きな色をどうぞ。1個書けたらあがってくる。みんなで考えて。動詞も変えてもいいんだよ。Givesでなくてもいい。(以下略:Medicine that gives us health has left us in weak.という英文が生徒から出ていたので,沖浜先生は「結構これからみんなね,おじいさん,おばあさんになってくから重要だよ。薬漬けってやつだね。そういう問題だね。僕はならないようにします。」とコメントしていた。)

参考文献

質疑応答

  • Q:クラスは?
  • A: 2年に1回クラス替え。1学年3クラスしかない。
  • Q:学びの共同体と協同学習の違いは?
  • A:学びの共同体は佐藤学教授が勧めているが,協同学習(ペア・グループで課題を解決)を入れながら,「生徒の共同体」「教員の共同体」を同時に作ることを目指す。授業研究会を学年・学校全体で行い,他教科を見合う。授業研究会は生徒がどんな発言をしたかを見るのが目的であって,批判する会ではない。学びの過程を学び合う。高校の数学や生物の授業は内容がさっぱりわからなくても,見ることが自分の授業にも影響があると感じている。
  • Q:アドリブが多い,それとも,話すことは決めていますか?
  • A:どうなんでしょうねぇ。ワークシートがキーになっているので,それだけ考えている。
  • 意見:greed(貪欲)という単語を見ると,キリスト教で言う「7つの大罪」を言いたくなる。教員しか知らない知識もある。協同学習は生徒主体でボトムアップだが,英語に関しては教員からのトップダウンが必要だと思うが…,どうか?
 このあと,グループ討議があり,さらに質問が出された。
  • グループ1:協同学習として,自己表現や和訳はどこでもよくやっているが,文法説明(「三単現のsとsのちがい」を説明させたら「gets upにsがつくのは,2回起きるから!?」という説明をした生徒がいて可愛らしかったそうです)を生徒にさせているという中学の先生がいらっしゃった。また,東大附属に行って,当日の授業見学をされた方から「沖浜さんの人柄,良さがビデオに出ていない(デジタルはダメだな…)。英語とチャップリンを子どもたちに出会わせている。今日私たちが(うさんくさいものに)だまされているとしたら,それにも出会わせている。これを超える協同とは何かを考えている」とのお話でした。
  • グループ2:うさんくさいと思わせたいのかな,と思ったり,何をねらいとしていたか知りたい。
  • Q:背景知識はどこまで生徒は知っているか?
  • A:チャップリンが映画を作るのに苦労したことが教科書に載っている。映画を見せた。生徒の発言が自分の予測した通りではないかどうかは気にせず,生徒から出てきたものを拾う。ドキドキするが普通のものがでてくる。
  • グループ3:英語に「血」が通う感じになっている。ポイントの絞り方が大切。軽重をつけないと長い教材は終わらない。みんなにしゃべらす授業で成立している。英文の中身の難しさにはまると英語から離れていくものだが,この授業では英文と中身が大きく外れていない。生徒は発言するのが好きなようだが,高3がいちばん声が大きいそうだ(6年間一貫校のせい?)。

■参加者の感想

●実践報告(高校):「英語長文を読む!」

花田禮司さん(都立国立[くにたち]高校)
 花田先生はお忙しい中,急遽レポーターを引き受けられたのですが,短期間の準備でみごとにこなされていました。都立の伝統校・進学校である国立[くにたち]高校の学校独自の副教材を見せていただき,興味津々でした。やはり伝統校はちゃんとした英文をしっかりと読ませているのだなぁと感心するとともにホッとしました。(15名参加)

花田先生

雑誌記事

参考文献

副読本

ワークショップ

  • Q:教科書ELEMENT Iの英国首相のチャーチルの母の手紙です。この文の中で本人に一番こたえた英文とその理由を考えましょう。
  • A:生徒たちはIf you make a plan of action for yourself & carry it out, I am sure you can do anything.を選んでいた。「あなたはできる,と言われると,やる気が出る」という意見だった。Your brother Jack, on the other hand, comes at the head of class every year..は少なかった。比較されるのは嫌いらしい。 Churchill's mother was very upset and wrote him the following letter.; Dear Winston, I have much to you, but I'm afraid it's not good news. Look at your place in school My dear Winston, I love you, but you make us very unhappy - I had built up such hopes around you & felt so proud of you & now all is gone. If you make a plan of action for yourself & carry it out, I am sure you can do anything. Your brother Jack, on the other hand, comes at the head of class every year.. I will say no more now, but Winston, soon you will no longer be a child. You should think about your final two years and how important they are for your future life - Stop, think it out for yourself, & work hard before it is too late. Love, your very unhappy Mother
(★会報担当和田より:
 ネット検索したら,ヤフーの知恵袋に和訳の問い合わせが載っていました。)

質疑応答

■参加者の感想



秋のアフタヌーン・ワークショップ
●日時: 2011年10月15日(土) 13:30~17:00

13:00 ~ 受付
13:30 ~ 15:00 実践報告・ワークショップ(1)
15:00 ~ 15:30 It's A Small Cafe (ミニ教材交換・即売会)
15:30 ~ 17:00 実践報告・ワークショップ(2)
●場所:
中野区立第三中学校
(JR東中野駅、東京メトロ東西線「落合」駅から徒歩5分)
東京都中野区東中野5-12-1

「東中野」駅東口改札をでて、左に進み、階段を下りて、右手に進む。石段を降りて、左手に日本閣、右手にショッピングモールを見ながら、3分ほど直進する。左手に「東中野幼稚園」をみて、右斜めにあります。
より大きな地図で 東中野駅~第三中学校 を表示
●実践報告・ 
ワークショップ
(1):
①「世界は君を待っている―映像と長文で巡る世界の現場―」
泉康夫さん 泉 康夫さん
 
(川崎市立白鳥中学校)
レポーターから:
映像によるスキーマ拡大の後に初見の長文に挑ませるという学習活動を思い立ちました。映像と長文が伝える「そんなふうな世界のありよう」(小田実,1989)に心が動き,酷薄な現実を生きる人々に関心を寄せるコミュニケーション能力であってほしいという願いからです。
②「高校英語での『学びの共同体』の成果と課題~
  「独裁者」を使った授業で」

沖浜信治さん 沖浜真治さん
(東大附属中等教育学校)
レポーターから:
私の勤務校ではここ6年間ほど協働学習を取り入れてどの子にも質の高い学びを実現しようと学校全体で研究、実践に取り組んできています。この取り組みが生徒にも教員にも徐々に良い変化をもたらしてきたとは思いますが、順風満帆というわけでもありません。昨年度担当した学年(高校2年生)ではなかなか思うように授業がうまくいかず四苦八苦しました。そんな中で学校の公開研究会で行った授業について、ビデオを見ながら皆さんに分析していただき、協働学習と学びの関係について一緒に考えられたらと思います。この授業はチャプリンの「独裁者」の演説を読み込みながら、今の自分たちの生き方についてもう一度考えさせることを目標にしたものです。
●It's A Small Cafe
(ミニ教材交換・即売会):
It's A Small Cafeafternoon tea set(500円)、Conflict Resolution Calendar(200円)、教材バイキング(東京新英研の先生方の作った授業プリントでお好きなものを選んでファイルに詰めます! 100円)などが販売予定です。
●実践報告・ 
ワークショップ
(2):
①「英語の授業の中で行うキャリア教育」
山口浩一さん 山口浩一さん
  
(千葉市立花園中学校)


「長文読解に必要な力」「やっぱり文法は教えたい」
花田禮司さん 花田禮司さん

(都立国立[くにたち]高校)

●ご注意:
  • ①と②の実践報告・ワークショップは同時に行われます。①②のうち、ご希望の方を当日選んで参加して下さい。
  • レポーターやレポートの順番・内容が変更になることがあります。あらかじめご了承下さい。
●参加費:
500円(資料代含む)
[神奈川支部会員は無料/学生は無料]
●お問い合わせ:   神奈川:萩原 e-mail   東京:安野 e-mail   千葉:宇野 e-mail

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(2011年9月26日掲載/11月30日更新)