■ 神奈川新英研9月例会

2011年9月
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●近況,最近取り組んでいること

  • 帯の時間帯に和英辞典を使って連想ゲームを入れてみました。
  • 言語文化観の育成。来年度より週4時間になる。1時間を朝10分モジュール学習にした場合の授業のあり方。
  • 音読,フレーズの暗記に重点を置いて授業を組み立てています。
  • iPodの使用。音読指導の工夫。映像と長文の授業。
  • ペア活動として,ターゲットセンテンスを使った会話活動
  • 様々な形を変えた音読活動
  • 最初の10分間でコミュニケーション活動,リーディング活動,単語練習,リスニングなどを取り入れること。
  • 単語練習シートの作成→授業の最初のパーツにして,授業にリズムをつくる

●授業でうまくいかず悩んでいることなど

  • 生徒の声が小さくなってきた気がします。言えても書けなくて,テストの点がとれないので,もどかしく思っているところです。
  • 1学年を複数の教員で教えている場合,指導に関する情報交換がむずかしい。壁は高いと感じる。
  • 中堅層の引き上げ。
  • 音読,フレーズの暗記がワンパタンになってしまい,生徒が飽きてきた…。
  • 生徒との関係作り(欠席の多さ,怠け)
  • 生徒の学力格差が激しく,生徒が飽きずに,また,学習内容を理解して学力がつくような授業の展開をどうすればいいか。
  • 音と文字が定着していない生徒がいる中でのリーディング活動の充実
  • 授業のリズムがなかなかうまくとれない。もっと授業に安定感がほしい。
  • 長文読解の力をどう付けるか。夏休み中2,3年の宿題に『人魚姫』『ハイジ』(各5パラグラフ)を出したら,嫌われてしまった。

●事務局への意見,例会の感想

  • 久しぶりに伺えました。ありがとうございました。
  • いつも多様な実践者のレポートを紹介していただき,ありがとうございます。また,詳細な報告をいつもネット上に載せていただき大変参考になります。
  • 中学高校の学力の低い,また自己肯定感の少ない生徒にいかに力をつけていくかに悩んでいる教師の実情が把握できた。大学でも英語が入試科目になく英語の学力が低い生徒が入学してくる。このような学生の指導が大変だ。TOEICに特化した授業をやらなくてはならず,講師は学生をいかに授業に集中させるかが課題である。

●中学実践報告:「チーム英語科の試み―1コマ50分の盛りだくさんな内容」

鶴指勝雄(つるさしかつお)さん(千代田区立麹町中学)
 iPodをケーブル(5000円ぐらい)をプロジェクタにつないで,授業風景をビデオで見せていただきました。鶴指さんの「朝食は何?」のビデオ授業では,笑顔で生徒の間をフラッシュカードを持ってまわり,楽しそうにしていらっしゃる姿が印象的でした。

鶴指先生

  • 鶴指先生:大学卒業後,中堅進学塾で小学・中学の英・国を指導(18年間)。平成14年より私立高校非常勤講師(4校で6年間)。平成20年より公立中学・高校の臨時任用講師(産休代替3年間)。平成23年東京都中学校教諭に新規採用で現在に至る。英語を始めたのは小学6年の時通っていた書道教室の先生から「英語をやるといい」と退職された高校英語教員を紹介されたのがきっかけ。中1からNHKラジオ基礎英語,続基礎英語,テレビ英会話Ⅰ,高校時代はラジオ「百万人の英語」のヘビーリスナーになり,奈良橋陽子主宰MLSに所属し,雑誌・ラジオ・テレビ・舞台で活躍し,大学入学と同時に友人の経営する塾の手伝いを始める。新英研との出会いは平成20年当時の勤務校で神奈川支部の日比和子先生からのご紹介。
  • 鶴指先生は「教えていて面白くない。生徒も楽しそうではない」という授業をしていらしたそうでしたが,神奈川支部に参加して泉康夫先生の実践報告を見て「目から鱗」。それ以来,例会で学んだことを活かして楽しい授業を実践されています。

レポートの概要

  • 概要:英語科主任(小林恵美子先生:通称「ガガ先生」 以下,この会報でも「ガガ先生」にします!)を中心に英語科担当教師(専任3名,時間講師2名,ALT2名)の共通理解・認識のもとに実践された授業内容。特に授業で使用するワークシート(English Dojo)は,ガガ先生が3学年分全て作成済み。その当時流行した有名人,ドラマ,映画等の題材を担当学年責任者が差し替えるだけ(そのまま使用してはダメだとガガ先生は考えられている)。専任教員がそれぞれの学年の責任者となり,授業計画・展開・評価を行う。鶴指先生は中学1年生の責任者で,中学1年生は非常に重要な学年なので専任3名で4クラス8展開授業を実施。
  • レポーターから:英語は実技科目,準備運動がなければ,失敗します。毎回決まった10分〜15分のルーティーンがあり,間髪いれずに畳み込んでいきます。今日の授業どうしよう? 気がのらないな。そんな時でもお決まりコースでOK!! きっと,明日からの授業が変わること請け合います。さあ,一緒に,英語道場の扉を叩いてください。道場破り!?
  • 学校:1クラス31人,週3で2時間は少人数,1時間はALTでクラス単位のTT。

授業の準備

  • 授業開始のroutine(副教材費が2500円!! 数冊の本を生徒は携帯)
    1. Greeting【全学年】 遅れてきたらYou're late。I'm sorry I'm late.と言わないと着席できない。
    2. criss- cross【全学年】 全員立たせて挨拶。What time is it?などのQ&Aで答えられたら,縦列で座って良い。
    3. 音ペン(株式会社地球人村)【中1のみ】 DVDが無料でもらえる(申し込み必要)。映像でフォニックス。
    4. たてよこドリル(正進社390円)【中1・中2】 黙読したら座る→ガガ先生の「指パッチン」に合わせて音読
    5. Writing Marathon 【全学年】
    6. 100語程度の読み取り(正進社 他)【中3のみ】 
    7. 同 リズム読み【全学年】
    8. BINGO BOOK(浜島書店)【全学年】
    9. 辞書引き【全学年】
    10. 視写&ワークシート【全学年】
    11. フラッシュカード【全学年】 素速く捌くためには練習が必要! 「泣きながら練習しました…」とのこと。ガガ先生は「うしろから前に送る」とアドバイス。
    12. ピクチャーカード【全学年】 オーラルイントロダクションで使用したり,復習で生徒に言わせたりするのに使用。
  • 教具
    1. 50インチ液晶テレビ
    2. DVD/ VIDEOプレイヤー
    3. 書画カメラ:OHP 1台6000円 4台まとめてヤフーオークションで入手。(20~30万円するそうです)
    4. CDプレイヤー
    5. バーコードプレイヤー
    6. デジタル教科書
    7. リズムボックス:ヤフーオークションで入手。
    8. ストップウォッチ
    9. タイマー
    10. ipod
    11. ipod 専用ケーブル(5000円ぐらい) テレビやプロジェクタにつなげる。
    12. 呼び鈴
    13. ○×ブザー

授業内容

  • 中3(ビデオ視聴12分)
    1. Greeting
    2. Criss-cross
    3. Writing Marathon:「一人の少女が…」と課題を言う。板書で単語の数にあわせた下線を引く。OHPで投影し,採点。5点。
    4. Homework:次回の宿題予告
    5. Dictionary Time:Today's Point。「空耳」と題して6題。「下駄ちゃん」(Get a chance!),「紙屋」(Come here.),「湯呑み?」(You know me?)「野田徹」(Not at all!),「いつも会いたい」(It's my tie.)「夕飯はカンピョーだ」(You have a computer.)
    6. Bingo:リズムボックスで発音しながら丸つけ。3つラインが出来たら,教卓に来てシールをもらう。
  • 中3(ビデオ視聴15分)
    1. Rhythm Reading :100語の英文を黙読したら立ち上がる。音読したら座る。Q&Aあり。そのあとリズム読み。
    2. Picture Describing:マザーズララバイの復習。
    3. Flush Card:ペアで言わせて,言えないと立たせる。
  • 中2(ビデオ視聴12分)
    1. Greeting
    2. Homework Check:crispy「ぱりぱりした」。和英辞典で「湿気っている」は何というかを探させた(soggy)。
    3. Bingo
  • 中1(ビデオ視聴10分) 鶴指先生の授業
    1. Introduction:朝食は何? What do you have for breakfast? I have toast and milk. 手作りのフラッシュカードをしたあと,デジタル教科書のフラッシュカードを見せた。ペア立って行い,できたら座る。
    2. たてよこドリル(正進社390円) 『疑問文と否定文を作ろう』のカッコ穴埋めを1分間でさせる。ガガ先生に「ストレスを与えなさい」と言われている。

参考文献

  • 山田 雄一郎『CD‐ROMブック モジュール式英語の基礎 』金星堂 (2010)
  • 染矢 正一『教室英語表現事典―英語の授業を英語で行うために 』大修館書店 (1993)
  • L.A. Hill, Introductory Stories for Reproduction 1, Oxford University Press; New Ed版 (1987) など,リプロダクションの教材。
  • 小倉慶郎『英語リプロダクション トレーニング』ディーエイチシー (2011)
  • Raymond Murphy, Helen Naylor, Essential Grammar in Use Edition with Answers and CD-ROM PB Pack (Grammar in Use) 2007

質疑応答+意見交換

  • :「空耳」のネタはどこから?
  • :ガガ先生がインターネットで入手。

参加者の感想

  • すごいなー!! とても熱意あふれる授業を見せていただきましいた。学年別だとしても学校の中で柱があり,その中で各先生方の個性があり,素晴らしいと思いました。いろいろと手の届きそうな実践もあり,やってみたいと思います。ありがとうございました。
    気になった点:ビデオはもう少し見やすいと良かったです(画質・音質)。
    発問するときに机間を回ってしまうと他の子が飽きてしまうのでは…? 
  • 教材や志津法に工夫を凝らすことで,とにかく生徒に英語を使わせることに徹していると感じました。実技科目として英語を位置づけ,トレーニングを通してインプットする実践例として大変参考になりました。デジタル&アナログ機器の活用を真剣に考え始めています。
  • いろいろな工夫があり,大変参考になった。実践に対してどのように評価するのかまで発表してほしかった。
  • チームで取り組んでいる3人の先生の授業を見て,リズムの大切さを感じました。生徒に負荷を与えてアキさせないためには…,ある程度下位層の生徒たちを置いていく覚悟も要るのでしょうか…ね。私も「呼び鈴」は使っていますが○×ブザーも購入したいと思います。
  • 多様な活動をテンポ良く実践されていることが映像からうかがえた。英語が苦手な高校生に教えているので,生徒の力に合わせて使えそうな活動や教材があったので,ぜひ生かしたいと思った。「音ペン」で「文字と音の関係」を理解させる活動があったが,いわゆる「アブクド読み」(フォニックス)ではなく,文字の名前を読み上げていたので,それでは文字と音(音声・音素)との関係を定着させるには難しいと思うのだが…。
  • フラッシュカードのやり方は「もらい」ですね。「たてよこドリル」(正進社)をやってみようかなと思いました。「下駄ちゃん」(Get a chance!),「野田徹」(Not at all!)のネタの入手先はインターネットなんですね。
  • 初めて見る英語の活動がたくさんあり,繰り返しが多くても生徒が飽きずに参加できる授業が展開されていて,興味深かった。学力が追いついていない生徒にとっては,スピードが速い展開について行けないのではという危惧がありますが,習熟度別にすることによって成功しているのではと思いました。低学力の生徒への対応や授業の展開はどうしているのかと思いました。
  • 5~10分の短い時間の活動の引き出しを増やせるよう,ぜひ自分なりに有効に活用させていただこうと思います。文法の説明はどのようにされるのかという疑問が残りました。また是非,次の機会にでもお願いします。
  • warm-upがすごい! これだけ毎時間鍛えられて実力がつくと思いました。これだけの機械をすぐに使いこなして,生徒にも目を配りながら授業をされる先生方には頭が下がります。
  • やはり生徒に興味を持たせることに熱意を注いでいるのが感じられました。映像を見せてもらって参考になりました。
  • 主任の先生のやり方をすべての英語科教員が同じように実行することは,学校に安定感をもたらし,生徒が安心して授業を受けられるのかなと思いました。最初の10分の型が決まっている,パーツがたくさんあることは,特別支援の観点から見ても,効果が高いです。自閉症の子は先が見えて安心し,様々な活動は様々な生徒がどこかで活躍する可能性を高めています。「英語の授業は英語で」=「生徒が英語を使う」というねらいがあると英授研(英語授業研究学会)で聞いたことがあります。生徒の現状をきちんととらえている先生は,とても力のある型だと思いました。たくさんのパーツを学びました。ありがとうございました。
  • 会報担当・和田の感想:鶴指さんの上司「ガガ先生」(多くの教員がカーペンターズやビートルズなど古い歌手を取り上げる中,最新の歌手であるレディーガガをすぐに授業で取り上げたことに驚いた鶴指さんが命名。今回のレポートに「ガガ先生」と書いてあるのを小林先生ご本人にお見せしたところ,笑ってくださったそうです!)のリズム感のある活動を拝見。「空耳」と題して「下駄ちゃん」(Get a chance!),「野田徹」(Not at all!),「夕飯はカンピョーだ」(You have a computer.)など6問をすらすら板書して,どんどん生徒に答えさせる。フラッシュカードの見事な手さばき。例会参加者もガガ先生のスピード感に圧倒されたことでしょう。「mummyの別の意味は?」と問いかけ,「ミイラ」という生徒の答えを引き出すところやマーフィーのEssential Grammar in Useがお好きというところは,ガガ先生とルターのセンスはピッタリ一致。近いうちに例会や全国大会でお会いできそうなので楽しみです。

●高校実践報告:「『リーディング』をどう扱うか」

川村 雅則さん(旭丘高校)
「人物をたくさん取り上げているから,生徒に『授業の後に残るもの』があるはず」と『Cosmos Reading』(三友社出版)を選び,レーナ・マリアさんのところを中心に生徒の反応を報告してくださいました。中学生の教え子が旭丘高校に進学したというT先生から「その生徒は中学時代不登校だったが,休むこともなく通学できていると先日報告してくれました。感謝しています。」とのお話がありました。心とからだをはぐくむ教育をされている旭丘高校だからこそなのだと感じました。

川村先生

  • レポーターから:三友社のテキストを選んだ理由は人物を扱ったレッスンが多いから。英語と人物を結んで興味を引き,あとに残る授業をしたいと考えています。
  • 勤務校:小田原市内に位置し,創立107年目。生徒数1516名,学級数43。2010年度より不登校生を対象にしたベーシッククラス新設。
  • 旭丘高校英語教育の目的:民主主義に基づいた新たな英語教育を通じて,すべての生徒が一定の英語の学力をつけ,平和に貢献する地球的な視野をもった市民になってほしいと願いを込め,年度当初に英語科全員で確認をしている。①英語学習を通じて,世界平和,民族共生,民主主義,人権擁護,環境保護のため世界の人々の理解,交流,連帯を深める。②労働と世界を基礎として,英語の学習で養うことができる思考や感性を育てる。③英語と日本語を比較して,日本語への意識を深める。以上を踏まえ,④子どもたちが英語を好きになるように深めながら,英語能力の基礎を養う。また,1965年ユネスコ勧告第59号「外国語教育はそれ自体が目的ではなく,その文化的,人間的側面によって,その生徒の知的能力と人格の育成に役立てることになる」ことも併せて確認しながら,英語科の先輩たちが築いてきた文脈を発展させようと授業実践を展開している。

ふだんの授業の流れ

  • 本文写し(一時間でできる範囲で3-4 sentences)→音読(①教師Repeat after me.→生徒がコーラスリーディング②読み終えたら「今日は3日だから,出席番号3番の生徒」のように指名,縦列か横列,斜めで読ませる,③もう一度Repeat after me.(語句を意識させて,back-upして読ませている)→各パートが終わる際には,生徒ペアで音読→一方が同時通訳のように日本語を言う。(これはかなり難儀している。英語好きな子は,日本語に直せるようにしている。)
  • 黒板には本文板書(記号付け),日本語に直す→まとめ という流れである。
  • 黒板の板書は,急いでテキパキと丁寧に字を書くように心がけている。私が板書しているのを生徒が見て,「このぐらい早く書くのだ」とモデルになるようにと考えてである。昔,汚い字を書いていて,女子に文句を言われた苦い経験がある。授業者の意を汲む子は,家で教科書本文をノートに書いてくる子もいる。ありがたい。板書した本文には記号を付けている。いわゆる「記号付け」から見ると,不完全であるのは承知しているが,主語S+述語動詞V+αで,Sには黄色の下線,Vには○(赤丸),αは黄色の括弧( )と色分けをして,最低限SとVは理解させるように努めている。英文の意味を何とか理解しようとしている実感はある。

「リーディング」で人物を読む

  • 学内でカリキュラム改訂を行った際に,高校3年時の英語の授業をどうするか(リーディングとライティングのどちらを採用すべきか)議論になった。その時に,世界中で活躍する人々の生き方を英語で読み,知ることに生徒は共鳴するものがあるのではないかと考えて,それ以来リーディングを扱い,4年を経た。今年度は教科書採択にあたり,ほとんどの出版社のものを読んでみた。最終的に様々な人に焦点を当てている『Cosmos Reading』(三友社出版)に行き着いた。
  • 3年生はリーディングを週2時間で行っている。「分量が多く大変です」という教員の本音も出される中,英語科の共通理解として「全ては扱わなくていい」としている。クラスによっても時間数が異なる状況の中では,中間,期末のテストも共通テストにはしていない。これは私学の本校で,先輩教員が艱難辛苦の上に,実践の自由を築きあげ,長らく保障されている学校風土の一部である。一方で教科書のレッスン全てを扱うことは,(本校に限らず)高校全般の課題と考えている。
  • 導入部分であるパート1には触れることにしている。そして,パート2以降は,週2時間の制約から来る問題もあり,日本語で生徒にはメッセージとして伝えることにしている。Lesson 2はレーナ・マリアさんを紹介している。一言で,レーナ・マリアさんは"どこまでも努力の人"である。水泳選手として活躍し,ゴスペルシンガーとして活躍したりと,レーナさんの生き方から,進学や就職にこれから挑戦しようとする高校3年生にもカルチャーショックを受けている。レーナさんから励まされると。レーナさんは障害者であるが,障害の有無を超えて,努力し続ける姿勢に,共感していることが読み取れる。生徒は,障害者,健常者という枠組みには囚われていない。夢に向かって,努力することのしんどさを直感的に感じながら,レーナさんの姿勢に賛同を示している。
  • 教科書の写真にもあるように,足で車を運転し,コンピュータを使いこなしている。ビデオでは,料理を作るシーン,たべるシーンもあり,ピアノを弾きこなすシーンもある。口を使って,ペンで字を書く,化粧をするシーンもあり,そのたびに真剣に見入る姿は,何者にも代えがたい姿勢である。授業時間になるまでは,うるさくしている生徒たちであっても,本物に触れる,人に出会う体験を積み重ねるなかで,ある一時に集中できる姿勢や,体験を重ねることで,生徒たちの生き方を問えるようになりたい。全く英語が分からず,授業になると聞いていますよとポーズを送る生徒Sは,視覚に訴えるビデオでは,食いつくように見ている(このことをどう評価すべきなのか困惑してしまうこともあるが)。これは,視覚に訴えるビデオがなせる技。毎時間ビデオを見せるわけにはいかないが,授業のわずかの時間で視聴できるものを用意できると,生徒にとっては,英文が訳の分からぬ暗号でしかないものから,意味のある生きた文に変わるので,視聴覚教材はありがたい。

今後の課題

  • 今後の課題1
     「学び合い」:以前,アメリカのウイスコンシン州のNPO法人の語学学校を見学したことがある。年齢層の幅広い"生徒"がいたが,印象深かったのは,難民者や移住者の人々で,英語を第二言語にしている人々が,生きていくのに必要な英語を必死に覚えようとしていたことだ(ちなみに授業料は日本では信じられないほど格安で,テキスト代程度)。あの語学学校のように,個別化している学びを「学び合い」の姿勢にいかに作り替えていくか,当然外的条件はあるが,英語科の課題として,また全校での課題としてもせり上がってきている。
  • 今後の課題2
     「教材の共有化」:日ごろから教材研究を深く追求するK先生からは,レーナ・マリアさんのビデオをお借りした。このビデオで視覚に訴え,読んできたものをさらに深めることになった。こういう教材は,科内でも大事に受け継いでいかなくてはならない。教材リストは頭の中でしかできておらず,英語科全員の財産となるように,リストアップも課題である。二学期は,グラミン銀行創設者ユヌス博士,大物歌手ジョンレノンが待っている。

参考文献

  • 川村雅則「『リーディング』をどう扱うか」『新英語教育』2011年10月号(今回のレポートと内容が同じです)
  • 『新英語教育』2008年1月号
  • 『クレスコ (No.100)』2009年7月号
  • 「レーナ・マリア 愛のゴスペルシンガー」いのちのことば社

質疑応答+意見交換

  • 「生徒たちは『学び』から逃げてきたところもあるので,記号付け(主語に下線,述語動詞を丸で囲む)で工夫しています」とおっしゃる川村さんへのアドバイスとして「英文を和訳するのをグループで行わせる」「1文を取り上げて,その構文を用いた文を作らせて発表させる(自己表現)」「例えば『障碍』など,内容に合わせてテーマを決めて調べ学習をする」という意見がありました。
  • :わからない生徒には? 評価は?
  • :とにかくノートを作らせて,書けと…。ノート20%。テスト80%。ノート提出すれば救済できる!
  • :レーナ・マリアさんのビデオで生徒の反応が良かった箇所は?
  • :アメイジング・グレースを歌っているシーン。
  • Taさん:「いきなり音読しても暗号に過ぎない」のは,中学校でも同じ。読ませるのは止めた。絵を見せて,リスニングを3回。字を指で追う。次にないよう理解。それから音読。
  • 川村さん:パタン化されているので,生徒は音読できている。「ご唱和下さい!」というかんじで,気の良い子達が読んでくれる。
  • N高校のOさん:英語は技能だといったら崩壊する。新出語をカタカナで書く。「一語(いちご)読み」をストロベリーリーディングと呼び,「みなさんストロベリーです」と声をかけると,4人で読み合う。星印をつける。フレーズ読み。「日本語で言うから,どこか言ってみる」というのを手を挙げてくれる。
  • Kさん:高校の教科書では,ここが大切という文があるはず。班で文を探して発表する,また,自己表現として自分で1文を作らせると良い。
  • Tさん:定時制で教えていた。repeatしない生徒達。そこで寺島さんの記号付けの本を買った。単純化した。生徒は1対1だと発言してくれる。
  • Sさん:旭丘高校の全学校研修会を見てきた。トレッキングしながらグミや木イチゴを食べたり。授業を通じて時間させる。「人物を通じて教科書を学ぶ」というのが良いと思う。
  • :女性の視点とは?
  • :グラミン銀行は女性の集団に融資している。ジョンレノンは主夫になった,
  • :高1の授業で人間関係作りで意識していることは?
  • :アルファベットの確認。評価方法(テスト80%,ノート20%)を伝える。
  • Wさん:自分がいた高校の生徒は自己肯定感がなく,周囲にいる大人が嫌いだった。平気で人を傷つけてしまう。大人に愛される経験が必要だと感じる。その子を肯定する場面をつくらなくてはいけない。1対1で認めると「開いてくる」。授業の中でこういう場面のパーセンテージを上げていかないと,変わっていかない。
  • Sさん:生徒の名前を覚えることも大切。
  • Sさん:今の生徒は地理や歴史が分かっていない。教室に日本地図,世界地図を貼っている。

参加者の感想

  • センテンスの理解を徹底することで,英語を読むことへのハードルを下げ,書かれている内容について考えさせることを主眼としている点で,readingという科目の本来の姿だと感じました。読むことを通して考えることにもっと重点を置いていこうと改めて自分のreadingの指導法を見直す機会をいただきました。
  • 高校も大変なんだ…と知りました。
  • 寺島先生の実践は自分が定時制勤務しているときに参考にしたので,懐かしく拝聴しました。人物を取り上げる視点が素晴らしい。
  • いつも教室に何か視覚に訴えるものを持ち込めたらと思っています。readingでもwritingでも文字を見る前に背景が分かるようなactivityをしたいと思います。いろんなレベルの学校事情など,勉強になりました。
  • ビデオ教材の利用には私も注目しています。ビデオに関する英文には関心を示さず,ビデオの内容のみが心に残ることになっても,それはそれでいいと考えています。
  • 学び合いを大切に考えていらっしゃることがよくわかりました。
  • 困難校ということでは,私の勤務していた学校もそうだったと今にして思います。だから何も言えないというのが本音ですが…。少しでも自己肯定感を持っていけるような学力をつけてやりたいですね。
  • 生徒のノートにレーナ・マリアへの手紙を書かせていたことが,短くても自己表現の一歩であり,とてもいいと思いました。先生のコメントが入って,一生子どもの心に残るでしょう。
  • 私立で困難校という状況で,先生のこれまでの苦労がよく伝わるご報告でした。私も困難校で勤めておりますので,学校の状況がよく想像できます。その中で同僚の先生とご一緒に参加され,このように発表されるということが素晴らしいことだと思いました。私はこの夏,様々な研究団体のセミナーやワークショップに参加しました(ELECサマーワークショップ,全商英語セミナー,学び合いセミナーなど)。それぞれのセミナーで異なった実践方法や教育論を学び,夏前とはかなり視点が変わりました。私立高校は公立に比べて研修の機会が少ないと思います。先生のような学ぶ態度を続けていくと,授業に魅力が出ると思います。Cosmos Readingはかなり難しい教科書だと思います。國弘正雄氏の『國弘流英語の話し方』では100回音読しないと英語を使えるようにならないといいます。本校はVISTA, ENGLISH NOW, NEW STREAMなどB5判の教科書を使っています。一度見てみてください。


●日時: 2011年9月3日(土) 午後3:30~午後7:00

3:30 ~ 5:00 中学実践報告 [担当:日比]
5:00 ~ 5:15 休憩
5:15 ~ 6:45 高校実践報告 [担当:関口]
6:45 ~ 7:00 アンケート記入・事務連絡
●中学実践報告: チーム英語科の試み
〜1コマ50分の盛りだくさんな内容〜

 鶴指勝雄さん(千代田区立麹町中学)

レポーターから
 英語は実技科目、準備運動がなければ、失敗します。毎回決まった10分~15分のルーティーンがあり、間髪いれずに畳み込んでいきます。今日の授業どうしよう? 気がのらないな。そんな時でもお決まりコースでOK!! きっと、明日からの授業が変わること請け合います。さあ、一緒に、英語道場の扉を叩いてください。道場破り!?
事務局から
 50分の授業の組み立て方をご紹介していただきます。毎回決まった10分~15分の帯学習でリズムをつけたメリハリのある授業です。鶴指先生がティームティーチングなさっている中学1~3年の各学年の授業をビデオで観ます。
●高校実践報告: 「高3リーディング(2単位)をどう扱っているか」
 川村 雅則さん(旭丘高校)

レポーターから

 人物を扱ったレッスンが多いのでリーディングの教科書は三友社のNew Cosmos Readingを選びました。英語と人物を結んで生徒の興味を引き、授業が終わったあと、生徒の心に残る授業をしたいと考えています。
●会場: 大倉山記念館 第集会室 (Tel. 045-544-1881)
(東急東横線「大倉山」下車 徒歩5分
 改札口を右に出て右折、急坂上る)
     
●会場費:
(資料代含む)
500円(支部会員200円、学生200円)
[当日会員登録(年会費2000円)で割引適用]
●お問い合わせ: 萩原一郎 e-mail

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(2011年8月27日掲載/11月8日更新)