■ 神奈川新英研12月例会
2009年12月
12月12日、大倉山記念館にて、参加者17名。
近況、最近取り組んでいること
- ジャンケンポン・ロールプレイ。
- 「一にらみreading」(interpretationの後の音読練習で)
- アフリカの『サラフィナ』(ビデオ)でSouth Africaの20年前を紹介。
授業でうまくいかないこと、悩んでいることなど
- 生徒が自主的に学習する力を育てるためにどうしたらいいか。
- 教室で埋もれている生徒をどのようにステージにのせていくか。
- 学校全体の教育目標を考え、組織の基本的な枠組みを作ること。
実践報告(高校)「地球感覚の育成」
田中祥一さん(県立藤沢総合高校)
カカオを収穫する児童労働に従事しているのに、その製品であるチョコレートを食べたことがない、貧しいガーナの子どもたち。テレビ番組「あいのり」でお気楽な旅をしている、豊かな日本の若者たち。彼らがガーナの子どもたちと知り合って、チョコレートを食べさせてあげたいが、どうしようか真剣に悩む…。そういう番組に出会えたのは、長年に渡って、国際理解教育のあり方を模索し、問題意識を温めていらっしゃった田中先生だからこそだと感じます。「現職校は9年目、来年で異動。今度の学校で出来るだろうか…」とおっしゃっていましたが、また、いろいろな実践を私たちに教えてください。
<レポーターから>
- 総合学科高校ならではの好環境の下で取り組んできた授業「国際理解」の6年間を振り返り、その成果と失敗とこれからについて報告します。
- きっかけ:国際理解に関心を持ったのは、大学時代の英語学の教授の影響。その教授はフィリピンのスモーキーマウンテンに行ったとき、「これがフィリピンの現実です」と言われ、ショックを受けて、自分の教えている学生にスタディ・ツアーを始めた。田中先生は、フィリピン、タイに教授のお世話で行った。フィリピンで、人々が濁った水で歯を磨いているのを見て考えてしまう…。「事実の中に入っていける授業をしたい!」と思うようになった。
- 教授のことば:「上から下までウソをつく人ばっかりの世の中で見えていないことを伝えたい」「日本の大人は金とセックスとセレブにしか関心がない」「understandはunderにstandする(=下に立つ)ことだよ。上から見下ろすんじゃなくて下に立って初めて理解できるんだよ。」
<勤務校での授業>
- 総合学科はバイキング形式。人文国際系列に「国際理解」を科目として入れることが出来て4年が経過。
- 授業の概要:次の6つの分野に分け、年間でカバーする
A)多様性理解、世界の現状 B)多文化共生 C)国際協力
D)開発・環境 E)人権・平和 F)地域理解 - 評価の観点:「関心・意欲・態度」「思考・判断」「知識・理解」「意識・行動の変化」。自分と世界や世界の問題との「関係性」への気づきがあるかどうかを評価するようにしているが、文章や発言に表れない「変容」を評価できないのが悩み。
- 生徒の反応:教師から話し続けるのではなく、「どう思う? どう考える?」と問いかけている。問いかけられた時の生徒の反応の多くは3タイプで「拒絶・無関心・干渉」。「そんな生活は無理。日本にいて良かった!」と拒絶するか、「アフリカなんて全然関係ないし~」と無関心になるか、「物を送ってやればいいじゃん」と、その人に合った生活を考えるのではなく、自分たちの物を送って、相手のいる状況を改造する、すなわち「干渉」していく考えになりがち。「貧困のスパイラル」が「デフレ・スパイラル」になる。安い労働力で作られた物が輸入されると日本の賃金も下がってくる。学校のそばの団地には外国籍の方が多いので生徒を引率し、団地の代表にお話を伺っている。このようなフィールドワークの中で国際関係学部のある大学(桜美林大、文教大など)に進学したいという生徒が出てきた。
<年間予定>
- 年間で「多様性」「つながり」「地球市民」「国際協力・共生」「貧困」「外国人」「難民」「食文化」「グローバル化」などのジャンルを扱った。
- 日本に来たものクイズ(5,6月):生徒が調べてきて出題。9月に文化祭で展示発表。
Q1: 食べるチョコレートを作ったのは? ①イギリス ②ガーナ ③ベルギー
A1:①イギリス。中央アメリカのアステカ帝国が最初でヨーロッパにコロンブスが伝え、イギリスで作った。
Q2: ジーンズの語源は? ①生地 ②人名 ③会社
A2:①生地。デニムはイタリアのジェノバの水夫が履くボトムズが語源でフランス語に入った。
Q3: キティちゃんはある外国のキャラクターの日本版でした。そのキャラクターは? ①エルモ ②スヌーピー ③ミッキーマウス
A3:②スヌーピー。サンリオが日本版スヌーピーを作りたいと考えた。
Q4: シンデレラの話の起源は? ①アイルランド ②中国 ③エジプト
A4:②中国。9世紀の中国の異民族の少女「葉限」が継母にいじめられた話がある。日本の落窪物語も似ている。南方熊楠の研究にある、と生徒が調べてきた。 - JICAエッセイコンテスト(8月):国際協力についてワンクリック募金を題材に書いた生徒、牛肉を食べるために大量の穀物を使って牛の飼育をしているという現実について書いた生徒などがいた。
- 「みんなのゆめが丘」+フィールドワーク(11,12月):「みんなのゆめが丘」と題して、架空の町の架空の外国人「ドンゴロ人」について自治会役員になって考えさせる。生徒は「日本に合わせないなら外国人は出て行け」と言うので、裏側にある背景を考えさせる授業にしている。また学校のそばにある、外国籍の住民が多い団地に生徒を連れてフィールドワークを行っている。
実践報告(中学)「1年間、中学英語を教えて」
森 延生さん(東京都市大学等々力中学校)
これまで女子高で勤務されてきた森先生の初めての中学での授業実践報告です。
<学校>
東京都市大学等々力中学校・高等学校。中学9クラス、高校9クラス、専任教員41名、事務室4名、講師数19名。ALTはイギリス人とカナダ人。
- 持ち時間.:中学2年(8)、中学3年(4)、高校1年の英語留学コース(1)、高校3年の普通コース(1)、総合学習(2)、道徳(1、隔週で華道)。英語留学コースでは英国Oxford大学での語学研修+米国アイビーリーグでのワークショップ。
- 中学2年の担任。学級新聞の発行(必ず生徒の名前が1回は出てくる。家で学校のことを話さない生徒が多いので保護者に好評)、国際交流主任。校外学習と総合学習の担当。
- 信条:「情熱がなくなったら教師はおしまいだ!」「学習することは自分の世界を拡げることだ Learning is spreading your world(と、生徒に言わせている)」
<授業>
パワーポイントでの授業:森先生は、前任校の化学室を「モーリー・ルーム」として、パワーポイントを使った授業を展開していた。現在の等々力中学ではベトナム製の木製ワゴンを購入、「モーリー・ルーム移動コンパクト車」と称して、コンピュータとプロジェクターを搭載、黒地に白布を貼ったスクリーンを黒板に設置して、パワーポイントの文字を投影している。設営準備は時間がかかるが、その間に復習問題をさせている。
<授業の流れ>
- 導入・Warm Up=復習プリント(B5版で「Review!」と題して「Let's learn by heart!」で暗記させる10文を提示、さらに文法問題を5問程度)、英語の歌、英字新聞(2009年度は毎日新聞の英語版やデイリー読売を利用し、プリントは配布した上で、パワーポイントで穴埋めさせたりしている。2008年度は写真と英語のキャプション。またはインターネットで「写真+英語の記事」と「同じ写真+日本文」をB5の上下で提示)、日本クイズ(ドイツ人の友だちにもらったもの。AとBの札を示して答える)
- 展開=教科書の新出単語・音読→本文板書・解説(述語動詞に赤で三角をつける)→日本語訳→音読→スライド→日本語訳ノート記入→DVD→穴埋めetc.パワーポイントで1区切りずつ、英文和訳し、最後に全訳を冒頭に提示。
- まとめ・Wrap Up=教科書プリント配布→日本語訳確認(ジャンケンして音読組と和訳組でロールプレイ=夏の全国大会で知った海木先生の方法)、
- 課題(宿題)・「単語テスト」:英単語10語を和訳、日本語10語を英訳、全部で20問出して「次の日本語は英語に、英語は日本語にしなさい。20問中の10問に解答しなさい」という指示文で10点満点。20問答えた生徒には○をつけ、10点とする。少しでも達成感を与える。苦手な生徒も取り組める。
<質疑>
Q:初めて中1になっての授業は?
A:フラッシュカード作り。ディクテーション。血液型がABなので順応しちゃう。ディズニーランドのように「今日は何かが違う」というコンセプトで授業している。
<参加者の感想>
- 機器を教室に持ち歩いていらっしゃるところがすごいなと思いました。授業の展開の中で円滑にそれらを活用なさっている様子がよく伝わってきました。生徒達との和やかな日々も感じられて素敵だなと思いました。
- 森先生の豊富な経験とエンターテイナーとしての一面を再び伺うことが出来、あらためて、先生のすばらしさを感じました。
(連絡先:萩原一郎)
(2010年10月12日更新)