■ 神奈川新英研5月例会
2008年5月
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 5月は春の1日研修会を実施しました。5月17日、大倉山記念館に32名が参加しました。

●研修会の感想+近況、最近取り組んでいること、悩んでいることなど

  • 今、英語で授業をするように強要されています。英語で授業をやる上で参考になる本などを教えてください。
  • すぐ自分が主役になろうとしてしまいます(自分がこなすことに必死です)。生徒が主役になるように、自分がファシリテイターになれるよう努力したいです。本日はありがとうございました。

●講演

「ここまでの多読、ここからの多読」

酒井邦秀さん(電気通信大学准教授)
  • 「今日は太陽政策です!」とおっしゃって、『北風と太陽』の太陽のような温かな日差しで神奈川支部を照らしてくださった酒井先生。多読を「まずは自分から」そして「ささやかに」始めてみたいと感じた参加者が多かったことでしょう。酒井先生が提唱される「多読3原則」「多読指導3原則」に基づいて、みなさんも英語に対して抱えているコンプレックスを脱ぎ捨ててみませんか? 
  • 酒井先生: 著書:『快読100万語!ペーパーバックへの道』、『どうして英語が使えない?―「学校英語」につける薬』(ちくま学芸文庫)、『多読多聴最強ガイド』(学研 Gakken Mook)
    • サイト情報:詳しい多読の方法はSEGで紹介している(www.seg.co.jp/sss/)。
    • 今日の参加者にアンケート:「audience analysisをしたい」とのことで、参加者に4つの質問がありました。「多読を知っていたか」には多数が挙手、「多読3原則が分かるか」「英和辞書を引け、と生徒に言っているか」「NHKのラジオ講座を聴け、と生徒に言っているか」にはそれぞれ5,6人が挙手でした。・ きっかけ:6年前に多読を開始、本を出版、「日経ビジネスWEB版」に取り上げられ、広がってきた。夏目漱石も多読という言葉を使っており「ひと通り読んだら、辞書を引かずに闇雲に読むと良い」と言っている。「英語力がある人が多読をする」というが、それをひっくり返して「多読をすると英語力があるようになる」と流れを変えた。
  • 多読3原則「辞書なし(=辞書は引かない)」「飛ばし読み(=わからないところは飛ばす)」「途中投げ(=進まなくなったら途中でやめる)」
  • 大量の易しい本=40人学級なら基本の1000語で書かれている本を最低300冊、できれば600冊揃える。
  • 「パンダ読み」=主に読んでいるレベルより「易しいレベルを混ぜる」。「キリン読み」=主に読んでいるレベルより「上のレベルを読んでみる」。「シマウマ読み」=翻訳と英語を交互に読む。
  • 多読3原則:この過激さ故に、全国の先生方に嫌われてしまったとのことです…。
    1. 辞書は引かない(学生には「捨てろ!」と言っている。窓の外にたまったら焼き芋をしたいくらいだが、焼くと有害物質が出る英和辞典は「毒」だ!)
    2. 分からないところは飛ばす(95%の先生が「分からなくなったら辞書を引け」と言う。5%ぐらいが「前後関係から予想するように」と言う。多読3原則では「見なかったことにして先に行く」)
    3. わからなくなったらその本は止めて次の本にする(単語、文のみならず、段落、章を飛ばすうちに主人公が誰だか分からなくなる。そうしたら止めればよい)
  • 多読指導3原則:
    1. 教えない、
    2. 押しつけない、
    3. テストしない
  • 多読指導に踏み切るための2つの条件:「自分の英語はダメだと思っている」「これまでの自分の授業は子供たちに本当の力をつけていないと思っている」。自分でも多読をしてみること(ペーパーバックを1ヶ月かかって読むのでは読書と言えない!)。易しい本を100万語ぐらい読んでいることが必要(ペーパーバックを10冊読んでいてもダメ)。1人1人の顔を見ることやカウンセリングが必要。
    • 個別指導の方法:教室に1000冊ぐらい持っていく。前から引いて、後ろから押して、横から励まし、「バイトで忙しくて読めなかったのか?」と学生の心に踏み込むこともある。「酒井先生はシェルパですね」と授業見学者が言ったがその通りだ。主人公は子どもですよ!
  • 多読から多聴へ:生徒には読後の感想を日本語を通さないでインタビューする。How did you like the book? Good, bad, so-so? Was the book too long, short, just right? 学生には「Good because主人公がかわいかった」のように長く言わせていく。

■参加者の感想

  • うーん、やってみようと思う。まずは中学2年生の選択授業で週1回ささやかに。
  • 多読3原則のうち「文が分からなくなったら飛ばし、章も分からなくなったら途中で止める」という思い切りの良さが大切なのだと分かりました。多読指導3原則のうち「テストしない」というのは、生徒たちは読むことが楽しくなるだろうなと思いました。
  • 自分でやってみようと思った。思っただけでやるかどうかはわからない。
  • 以前から興味があった多読のお話が聞けてよかったです。目からうろこでした。実際、本が用意できない現実があります(予算がつかない…)。しかし、賛同者を捜し実践できる環境を作り出したいです。

●中学校実践報告

「My Last Lesson〜沖縄を扱った授業」

大栗(おおくり)健二さん(埼玉・草加中学校)
 大栗さんは夏の新英研全国大会の早朝にランニングされる健康的な方という印象が強かったのですが、今回のレポートで英語通信『Imagine』や丁寧なノートづくり指導、班指導を拝見し、心温かな方なのだということを知りました。

(1)大栗先生

  • 大栗先生:あだ名は「ビッグマロン」(小学校でも有名!)。中1担当で22時間、陸上部顧問(急坂の頂上にある大倉山記念館を今回初めて訪れ、生徒を走らせたいと思ったそうです)。 

(2)協同学習

  • 4人班:英語/理科/社会科で4人班を作って活動している。年に3回席替え。
    「バトンを持った人が発言できる」(としているので手が挙がる)、「答える順番を決める」(一番手は積極的な人になるように注文しておく)、例えばHow’s the weather today?と尋ね、バトンを持った人が手を挙げ、Group 7と指されたら、ハイ、It’s sunny today.と答える。正解なら次の人にバトンを渡す。グループでポイントをつけるというルール。
  • 「クエスチョンタイム」:ALTのケネスさんに質問する。Where did you go yesterday? To Shinjuku. Who did you go with?など話をふくらませていく。文法的に正しくないとポイントがもらえない。
  • 生徒同士の学び合い:中1はノートづくりをするが、違うところにプリントを貼ってしまう生徒がいる。「じゃぁ、〜ちゃんに愛の手をさしのべよう」と、みんなに考えさせると「もう1枚もらったらいい」「白い紙を貼る」などの意見が出る。「じゃぁ、〜ちゃんはアドバイスもらったから自分で考えて。先生に言ってくれればプリントあげるから」と伝える。
  • Q:佐藤学さんの「学びの共同体」ですか?
  • A:草加の先生に影響されて取り入れた。今、佐藤学さんの本を読んでいる。

(3)沖縄

  • 「島唄」から『Welcome to OKINAWA』「少女強姦事件」へ:THE BOOMの歌う「島唄」はボーカルの宮沢和史さんの作詞。「でいごの花が咲き 風を呼び嵐が来た」で始まるが、意味を読み解くと、1945年4月1日に米軍が沖縄に上陸して殺戮を繰り返したことを歌っている(歌詞の解釈は http://www.enoshimairuka.com/shimauta.htmで読めます)。
    「島唄」の解釈を『サンシャイン3』(開隆堂)のプログラム6「Okinawan Music」で大栗さんは知り、『Welcome to OKINAWA』(三友社)で沖縄の歴史を教えた。生徒は「英語と歴史が同時に学べる」と言って喜んでくれた。『Welcome to OKINAWA』の最終章に1995年の少女強姦事件に対する高校生
  • 仲村清子(すがこ)さんのスピーチも載っていた。ALTのケネスさんが元海兵隊員だったので、チームティーチングにした(ケネスさんは「軍のおかげで高い教育を受けられたし、いろいろなところに行かれた」と語っていた)。2月だったので本来なら入試対策をすべきだったが「今しかできない教育をしよう!」と意地になった。
  • 4人班でクイズで競争:1995年の沖縄での集会の模様をビデオで見せながらクイズを出した。
    1. 集まった人数を尋ねる
    2. 集まった場所を尋ねる
    3. 集まった理由を推測する
    4. 抗議した対象を推測する
    5. フレーズ読みから暗誦へ
    6. ALTの朗読で仲村清子さんのスピーチを導入+日本語によるQ&A〔=タスクリーディング〕
    「仲村さんはどんなことについて自分お考えを話したいと思っていますか?」など3問。
  • さらにQAをいいくつか行い、「沖縄での事件の年表」を提示。そして2007年2月10日の中3の少女が強姦された事件を「デイリー読売」の英文記事の抜粋で紹介し概要を掴ませた後、再び仲村清子さんのスピーチについて4問。
    さらに2007年2月10日に強姦された中3の少女が「どんな状態か」「何をしているか」「何が出来ないか」「何をしたがっているか」「そしてあなたはどう思うか」を文型の例を与えて表現してもらった。
    ★女子生徒の英文と感想:
    She is very shock. She is crying. She can’t talk man. Her heart break.(英文ママ)
      「今日は沖縄の女の子がレイプされたという物語を聞いた。最初はこんな話をしていいのかと思ったけど、聞いているうちにこういう授業も大切だし、女の子の気持ちも分かってきた」(このような感想がある一方で少女や親・学校を批判する感想もあった)
    ★男子生徒の英文と感想:
    She can’t forget this problem for ever. She must be sad. I think Japanese people should more think about these problems.
    「こういった沖縄の問題というのは個人的には基地がなくならない限り永遠に続くと思う。やはり、なくしたいのなら基地の縮小または撤退なども日本政府は頑張るべきだと思う」
  • 自己表現ワークシート+期末試験に出題
    「2月10日の沖縄の少女暴行事件の抗議集会で、あなたは英語でスピーチすることになりました。次の英語の書き出しで最後の部分のスピーチを完成しなさい」
    To stop this kind of incident, I want [ I don’t want ] ~ to ~.
    ★生徒の英文:
    To stop this kind of incident, I want everyone to know there are many people feeling sad in Okinawa.

(4)英語通信

  • 英語通信『Imagine』:2001年発行の第7号、2002年発行の第8号では「歌」「自己表現の生徒作品」「テストの振り返り」「記録ノートに良く出る質問とその答え」などが扱われている。

■参加者の感想

  • 非常に難しい問題を英語で取り組まれたことに感心致しました。なかなかALTとは本音が話せない部分でもあるかと思います。個人の思考に関わることをいかに授業で取り上げていくか私も考えていこうと思っています。
  • 頭が下がります。沖縄の、しかも米兵による強姦事件をやるなんてすごすぎる。


(連絡先:萩原一郎)
(2008年8月14日/2009年1月2日追加)