■ 神奈川新英研4月例会
2008年4月
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2008年4月19日 大倉山記念館にて  参加者17名

●近況、最近取り組んでいること、悩んでいることなど

  • まだ授業を始めて2週間ですが、早速行き詰まっています。英語嫌い&やる気のない生徒の私語が目立つようになりました。文法指導をどうおもしろくするか、できるか悩んでいます。
  • 高校英語Tでノートに英文全文を写させて自分のノートを作らせることに取り組んでいます。ノートを取らない生徒が多かったので画期的です。
  • 高校と中学の統合。国際バカロレアの導入。
  • New Horizonの2年用はリーディングの量が多く、どう扱うか未だ決めかねている。
  • 悩んでいること:手際よくできない。準備が…。
  • 最近取り組んでいること:音声中心に少し挑戦しています。

●例会の感想

  • 若い先生方が厳しい環境に負けず、活躍されている姿に感動しました。私も年に負けずがんばります!!

●配布プリント(みんなでshareしたいプリント)

  • フォニックス早見表(萩原先生から):知っていると便利なルール「強く短く発音された母音の後の子音は2つ書かれる。ただし発音は1度だけ。」 例)egg, tennis, soccer, batter
  • 5月の講演者・酒井邦秀さんの資料:
    1. 「英語の時間 多読で身につける英語力」
    2. 特集「多読最前線」、座談会「“めざせ100万語”とは!? 多読は授業で実践できるか」『英語教育2004年2月号』(大修館書店)

●実践報告(高校)

「対極の学校勤務で見たモノ得たモノ感じたモノ」

阪本裕紀さん(國學院高校)
 「所変われば品変わる」。複数の学校勤務を経験したことのある方なら誰もが、阪本先生に同感されるのではないでしょうか。教員2年目のフレッシュな視点で見た生徒たちの姿と学校の抱える問題点を浮き彫りにしてくださったレポートです。

(1)阪本先生

  • レポーターから:民間企業から転職して2年が過ぎとしています。大学時代から目指していた教員という仕事に携わり、学校、授業、生徒、先生方との関わりの中から気づいたことレポートさせていただきます。
  • 國學院高校の授業:高1の英語1を4クラスと高3リーディングの上級クラス担当。
高1は英語1(3単位)で『ジーニアス』『Next stage』『ターゲット1900』(毎週40単語、20問中、18点で合格、不合格者は40語を10回書いて提出)+総合英語(3単位)で文法『フォレスト』。高2は英語2(4単位)+文法(2単位)。高3はリーディング(5単位)で長文読解を習熟度別+ライティング(3単位)で文法。

(2)2つの学校

  • 神奈川県立白山高校:2006年6月非常勤講師。9月から3月まで臨任教員として勤務。生徒たちの良いところは「自己表現をよくする」「反応がすぐ返ってくるので楽しんでいるのがすぐわかる」。良くないところは「授業はみんなで作るもの、ということが分かっていない」「学習意欲が低く現状に満足しがち」。英語科として良くないことはコース制のため業務の負担が重く、教員同士の関わりが希薄。学年としてのつながりがない。
  • 私立國學院高校:2006年4月から非常勤講師として勤務。渋谷区にある伝統校。生徒たちは教員の話を中断することを良くないと思っているのか、自発的な発言はあまりないため、講義型の授業が行われがちである。ペアワークをしている教員の授業では生徒は活発に発話している。プライドある生徒たちなので「ほめること」「プライドを傷つけないこと」を授業で心がけている。講師同士の連携が良く、年間計画も明快で週1回のミーティングで進度を調整している。
  • 2校の生徒の共通点+阪本先生の取り組み:評価や承認を求めている生徒たちなので一人一人の目を見て授業するようにしている。気遣うと生徒が変わる。

(3)問題点と取り組み

  • 國學院高校:受験を意識する学習スタイルなので、英語本来の面白さを伝えにくい。
  • 2校の生徒の共通点+阪本先生の取り組み:「継続性のない、その場限りの授業」「やることをこなす授業」になりがちなので、年間計画を立てて、単元ごとの活動をきめたいと考えている。また自己満足のための授業にならないよう、生徒にアンケートをとっている。厳しい意見をもらうこともあるが、生徒が望む授業になるよう、他の先生方と情報を共有しながら改善策を考えている(例会当日、生徒のアンケートを持ってきてくださいました)。
  • ポイントアップカード:白山高校で点数が良かったとき「5枚たまったら良いことがあるよ」と言って生徒に手渡していた。お財布に入れてくれていた生徒がいた。「POINT UP CARD Bravo!!! You can get a bonus point from your teacher. Don’t miss this card; you will lose your priority… Your name: (生徒名)」

(4)意見交換

  • 参加者(中学):自分が教えている生徒たちもコーラスリーディングで声が出ない。点数は高いが楽しく学んでいない。
  • 参加者(高校):英語の面白さを伝える授業を自分でも心がけている。4月の初めにはキャロルキングの You've Got a Friend の歌詞でRhymeを教えた。
    「春夏秋冬」ではなく「冬春夏秋」の順にしてあるのはfallとcallの脚韻のためである。
    Winter, spring, summer or fall(フォーゥ) 冬、春、夏、秋
    All you have to do is call (コォーゥ) あなたがすること全ては呼ぶことだ
  • 阪本:英語の面白さを伝えるということでは、歌とか海外ドラマとかを取り入れたい。違う国の人と話が出来る楽しさを伝えたい(Chatなど)。『ジーニアス1』にジェイミーとオリバーの料理番組が載っており、英語をしながら別の活動をするのも楽しそう。
  • 参加者(高校):先生が「尊敬」を集めたら、やっていけるし、ひろがっていける。

(5)参加者の感想

  • 阪本先生の発表、多々、勤務校と似ている状況だと感じました。
  • 阪本先生の前任校と現任校の違いは互いにある意味で対極にある。その中でのカルチャーショックを覚えながらの英語教師としての実践ぶりを拝聴していると、ひとつひとつの実践の中にさまざまな試金石がちりばめられているようでした。若い先生の心から応援をしたいと思います。
  • どんな教科書にもよく調べると自分の関心と一致するものが見つかるし、少しアレンジして生徒に合ったものを開発していけると思う。少しずつ改良するヒントは生徒からもらえるはずです。Try and errで前進しましょう。
  • アンケートなどを拝見させていただき、阪本先生が一生懸命に授業されている姿が浮かんできました。ああいう自分への評価をここでまわりに後悔するのは、とても勇気のいりことなのではないかな、と思いました。自分も振り返ってしまいました。どきっとする(自分にも当てはまる)こともたくさんあって…。どうもありがとうございました。
  • ネイティブがたとえ無理だとしても、生徒たちに好評のペアワーク(同僚の方の帯学習)を取り入れるべきだと思います。日本人対日本人による英語のコミュニケーションであっても、それがないより余程マシだと思います。思い切って何か今までにない活動をやってみることで、思わぬ化学変化が起きて、現在「点」である授業がきっと動き出すと思いますよ。不慣れな活動は雲の上を行くようで足下が覚束ない、イヤなものですが、なんとか我慢して続けると間違いなく得るものがあって、宝になります。最後に…、中学教員ですが、私の場合はそうでした。

●実践報告(中学)

「さわがしいクラスがシーンと聞く英語の歌」

竹石奈津子さん(横浜市立蒔田中学校)
「『耳なし法一』の話、ご存じですか?」と問われ、その唐突さにポカンとしてしまった例会参加者たち。琵琶法師である法一が語る、平家の壇ノ浦での悲しい物語を聞いた亡霊たちが涙を禁じ得なかったように、職場の先生方が夜な夜な集まってクラスの状況を聞きあって泣きながら過ごしたという前任校での6年間。そのエピソードが次々と語られ、一同納得。そんな「出口なし」の辛い日々のなか、青い空を見上げ「どうしたら?」と考え、発想転換。教育集団TOSSを始めとする英語団体の情報をネットで得る、英語教育達人セミナーに参加するというところまでは思いつきそうですが、「コーチング」「ファシリテーション」を学び、都心まで出かけ、高いビルに登り、六本木ヒルズのアカデミーヒルズでモチベーションの高い起業家たちに混じることで、下がってしまいそうな自分のモチベーションを高め、さらには起業家に混じってロサンジェルス研修に参加するまでになった竹石さん。苦難を「テコ」に変え、羽ばたき続ける竹石先生の報告です。

(1)竹石先生

  • 前任校の様子:毎年職員の3分の1にあたる16名の教員が出て行く。生徒用のトイレのドアは壊されてしまうので「中国式」(=ドアがない)etc…。
  • 前任校の生徒への思い:あまりに生徒たちに手を焼いたので、卒業式の時は「終わりよければすべてよし…とは、いかないぞ!」という気持ちだった。今は「私の人生のテコになってくれてありがとう」という気持ちでいる。
  • 働気会(どうきかい)のブログ:「働くみんなのモチベーションを考え、みんな の力で周りを熱く盛り上げる集団『働気会!』のメンバーが作るブログ」(http://ameblo.jp/doukikai2008/)を更新中。「自分たちが変わり、周囲が変わることで、この日本を元気にしていきます!」というメッセージが熱い!

(2)授業の工夫

  • 工夫その1「女子生徒を使う」(!)=女子生徒に頼んで、ペアワークの時にやんちゃで困る男子生徒に声掛けしてもらって懐柔する方法。(露骨な手法ですが、他の参加者も「している」と言っていました…)
  • 工夫その2「プリントで左から右に転写できるようにする」:ADHDの生徒の場合「目を上げて黒板を見て、下を見てノートを書く」という作業だと、黒板の周囲の掲示物に目が向いてしまい、集中できない。リントでさせると、気が散らない。
  • 工夫その3「飽きの来ない音読」:
    1. 「かぶせ」と呼んでいるが、わざと隙間を入れないで(生徒がふーっと言わないように)モデルリーディングをしている。テキストの上方に丸を10コ書かせる。(作業が終わる毎に○にチェックマークを書くことで「自分で出来た」という気持ちを確認させる)
    2. 先生とパート別
    3. 「Boys for Ken, Girls for Ms. Kileo」のように英語でパートを指示。「朝食を食べた人と食べていない人」で分けたりする。
    4. ペアで声を合わせる→出来たらハイタッチ
    5. タケノコ読み:TOSSの国語科でやっていたもの。「2つの文を選んで、線を引きなさい」と指示。自分が選んだ文のところを読むが、「先生に読まれたら負け」なので、沈黙が出ないようにみんなでつないでいくというルール。
●そのほかの読み方はTOSS(http://www.tos-land.net/)中学英語の大北修一先生、川神正輝先生、青木英史先生を参照のこと。

(3)歌を使った授業

  • 幼稚園方式:「音楽で歌い始めると授業が始まる」というふうにしないと、いつまでも授業が始まらない状況になってしまうので、幼稚園方式と名付けている。
  • 心に響く歌:コマーシャルソングを取り入れる。「はじめてのチュウ」の英語版(セレナのCM)や「SAKURA」(森山直太朗)などが好評。元気な生徒たちなのでエアギターを始める子もいる。(神奈川支部の萩原先生に教えていただいたように)「心にふっと落ちる歌」を出したいと思っている。
  • 歌詞探し:ネットで探す。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス Social Network Service:社会的ネットワークをインターネット上で構築するサービス)でアイディアをもらう。
  • Smoky mountainの「Paraiso」:

    まず「スモーキーマウンテンはどういう山か日本語で1文書きなさい」と指示。Everyone, stand up.の声で全員起立。指名して、「モクモク煙の出ている山」「スモーキーという熊の住んでいる山(?)」のように答えを言わせ「同じものを書いた人、座りなさい」と指示。ゴミを拾っている少年やフィリピンの都市のゴミ捨て場パタヤスで生活している人たちが下敷きになり、その救助している様子などの写真を見せる。歌詞を配布。背景を語るとやんちゃな生徒たちも神妙に聞いていた。スモーキーマウンテンは1970〜80年代のフィリピンのグループ。年末の紅白歌合戦に出場したこともある。
  • CCRの「Have You Ever Seen the Rain?」:ベトナム戦争の米軍によるナパーム弾攻撃を批判したとされる歌を紹介。

(4)自己研修

  • セミナーに参加して…:セミナーに参加してSNSに加入すると励ましてくれる人がいる。例えば、授業の流れ(授業作り)を小説のように考えようと考えた。「王子と姫が出会った」(楽しい歌)→「他の国のお姫様が登場して試練」(文法導入)→「国を捨てようとするがポックリ王様が亡くなる」(ドリル学習)→「ハッピーエンド」(歌やゲーム)にもっていくと思いきや「宿題」(!)のように…。
    • TOSS(TOSSランド(http://www.tos-land.net/):「教育技術法則化運動」の向山洋一氏が主催。(TOSSの実践を監視・批判するサイト「TOSSウォッチング」http://www.cm.kj.yamagata-u.ac.jp/toss_watch/がある。江本勝氏の「水からの伝言」をTOSSが道徳の授業で取り上げたことが発端。) 45分授業を5分×9のパーツを組み立てると考えている。目的にたどり着くまでにずれが生じるので、生徒の様子を見てパーツを変えている。今の悩みは少人数授業のため他の先生と進度を合わせなくてはいけないこと。
    • 達人セミナー(http://homepage1.nifty.com/goto/eigo/):谷口幸夫氏が主催。研修会を全国各地で開催している。
    • 神経言語プログラミング、NLP (Neuro-Linguistic Programming):例えば「sad」を悲しそうに言うと覚えるときの「質」が変わる。ジョン・グリンダーとリチャード・バンドラーが提唱、催眠療法のミルトン・エリクソン、ゲシュタルト療法のフレデリック・パールズ、家族療法のバージニア・サティアの3人の心理療法家が意識的・無意識的に用いていたテクニックを体系化したものだとされる。(「脳のプログラミングの方法を教え、人々が変わることができるようにする」というNLPの主張に疑義を抱き、「自己啓発セミナー」だという批判(http://ww.dma.aoba.sendai.jp/~acchan/Seminar/neurolin-draft.html)がある)。
    • Vital Japan (バイタル ジャパン)(http://vitaljapan.com/):ビジネス・公共政策等について英語で討論する勉強会、英語力向上の勉強会、メンバー間の交流会を主な活動としている。1000円程度で、JR田町駅そばでセミナーを開催している。竹石先生はここでコーチングを学んだ。
    • 横浜ベンチャーポート(http://www.ventureport.jp/):神奈川新聞で知った。起業家向けでモチベーションの高い集団。
    • アカデミーヒルズ(http://www.academyhills.com/):六本木ヒルズ40階からの景色がすごい(東京タワーが見える)。承認要求が強い人たち(認めて欲しいという気持ちが強い)が多い。
  • なぜセミナーに行くのか:生徒を羽ばたかせるために行く。生徒を羽ばたかせて、自分は羽ばたかないのはおかしいと思う。春休みには3000人が参加したロサンジェルスの研修に行った。
★会報担当から:竹石さんが実際に足を運び、例会で紹介していただいたセミナーについて、インターネットで検索しながら会報を作成しました。TOSSや神経言語学の手法には批判もあります。最後の判断は自分が頼りです。

(5)質疑応答

  • Q:テクニックは?
    A:コーチングのスキル。生徒の気持ちの起こりを待つ。不要な言葉は省いて、気持ちが起きたらバンと出す。
  • Q:トップダウンではなく、スキルを積み上げているようだ。大きな理念は?
    A:男女の違いだと思う。言語化できない。『働気会!』というモチベーションを考える自分のブログがある。生徒はまわりの人に承認されたがっている。自分の殻を破ってステップアップしてほしい。
  • Q:スモールステップの行き先は「六本木ヒルズ」なのか、「スモーキーマウンテン」(フィリピンで貧しい人々が暮らすゴミ捨て場)なのか?(=竹石さんが授業の中で作ろうとしている生徒の未来像は「エリート」や「企業向け人材」なのか、それとも別のものなのか、という問いかけ)
    A:コンクリートの中で「今日は空を見たかしら?」という日々。輪の中でくるくる回る「ハムスター」のようだった。目の前で生徒にひどいことをされた同僚の先生に何もしてあげられなかったことがあった。「やんちゃな生徒たちがそのエネルギーをプラスに転化できるか?」というところから始まっている。
  • 意見:私の中学では中1が少人数。テストは統一だが各自が自由にできる。
  • 意見:スモーキーマウンテンの歌なら「She Has Gone」「Mama」がいい。

(6)参加者の感想

  • 竹石先生の冒頭からの荒れた学校の様子、身につまされました。その中での涙ぐましい教員研修がご本人の成長を育くんでこられた。ここに日本の教育も捨てたものではないとの意を強くした。
  • 歌にSmoky MountainやCCR「雨を見たかい?」が出てくることにSurprised! 中身のある詞がいつも子どもに訴えることを教えてくれました。Thanks!
  • 前任校での濃い6年間、まことにお勤めご苦労様でございました。
  • Smoky Mountainのおとしどころ、どうまとめたのか、聞きたかったです。(フィリピンの都市のゴミ捨て場の)パタヤスは「今はこうなっている」というのも伝えたら良いかも知れません。2001年(だったかな?)の事故から状況も変わっているので。「日本は着物とチョンマゲ」のように、あるひとつだけのイメージがいつまでもフィリピンに対して根付いてしまうことを懸念します。「その後、こんなふうに改善の取り組みがあったんだよ」(でもまだ足りないけれどね)などなど…、って伝えられたら!! 他には「羽ばたいていく」のイメージをもう少し聞きたかったです。セミナーは私もたくさん行ってみたいです。行けるうちに。ためになるソースなどもたくさん、どうもありがとうございました。
  • 会報担当より:「アウトプットがあるとインプットがある。何か下さい!」という、竹石さんのことばが印象に残りました。例会でレポートされたことで、竹石さんにとってお土産になるものが得られたらよかったなぁと事務局員として思っています。セミナーに関しては、この会報でわかりやすく情報を伝えたつもりです。私はコーチングという手法に対して疑問をもっており、相手と同じ地平に立たず、神の高見に立つかのような手法は慎むべきだと信じています。例会の後、私とののやりとりのなかで、感情をコントロールする手法で、例えば悲しい出来事を悲しまずに意識的にずらすという方法があるが、それはいいことなのだろうかという疑問を竹石さんも感じられていたので、私はそこで竹石さんの立ち位置」を知って、安心しました。苦しい中でさまざまな手法を試すという正攻法で難局を切り抜けられた竹石さん。これからのご活躍を楽しみにしています。

(連絡先:和田さつき)

(2008年10月27日)