■ 埼玉県教育研究集会外国語分科会
2008年11月
 以下は11月15日に開催された埼玉の教育のつどいでの外国語分科会の概要である。

外国語分科会の概要

 県立南稜高校で開催された分科会では冒頭に、運営委員の菊地さんから3月に告示発表になった新学習指導要領(中学校・「外国語」)について紹介があった。これに関連して外国語教育の目的について、『学力形成と人格形成の2つが中心』とすべきか、これまで教組教研で確認されてきた「外国語教育の四目的」の立場を追求すべきか議論がなされた。
 続いてやはり運営委員の柳沢から今回の学習指導要領で導入されることになった「小学校での英語活動」について「人間と教育」NO.57('08年3月)の論稿に基づいて問題点が提示された。分科会世話人のKさんも新座市の小学校勤務ということで御意見もお聞きし、できるだけ分科会討議にも加わっていただいた。
 次いで運営委員の田中さんから今次教研の外国語教育の課題が次の4つの柱に沿って提起された。①良い教材とは何か、文法をどう扱うか、②どう学力を保障するか、③平和教育をどうすすめるか、④学習意欲をどう高めるか・小学校の英語をどうすすめるか。
 提出されたレポートは、次の7編であった。
  1. 「学習意欲を高め学力を保障し表現力をつけさせる授業の工夫」<田中渡(鴻巣女子高校)>
  2. 「中学3年生の英語授業〜いくつかの授業技術を紹介しながら〜」<根岸恒雄(熊谷・大幡中)>
  3. 「長崎修学旅行事前学習〜夏休みの課題、英語I、Writingを通じて〜」<斉藤貴子(浦和北高校)」>
  4. 「My Last Lesson in 2007 〜「沖縄」の授業」<大栗健二(草加・草加中)>
  5. 「①子どもたちの学習意欲を高めるとりくみ ②さいたま市教育特区潤いプラン『英会話の授業』に対する先生方へのアンケート調査から」<荒井信次(さいたま・日進中)>
  6. 「進級できれば卒業できる〜久しぶりに1年生を教えてみて〜<あわせて小学校英語を考える>」<柳沢民雄(玉川工業高校)>
  7. 「良い教材を生徒の手に〜文法と題材から考える」<伊藤久美子(さいたま・土屋中)>
  田中レポートは、今年も97ページの力作。①学習意欲を高め学力を保障する、②表現力を高める、の2分野に11の具体的例を網羅したいわば実践曼荼羅図。中でも「英詩作り」について生徒に詩の作り方の型を具体的に示し、素晴らしい英詩自己表現を引き出している報告はたいへん参考になるものだった。
 根岸レポートは、雑誌『新英語教育』へのSunshine3年生の「教科書の創造的扱い方」連載に基づいて具体的実践例の中で活用できる教育技術とセヴァン・スズキのスピーチなどの優れた教材について述べたものである。根岸さんはペア・グループ学習などを利用して協同学習の有効性を実感し、学校ぐるみの実践への見通しを語られた。
 斉藤レポートは、長崎への修学旅行に際して、①被爆の実相に迫らせる、②被爆者の声を媒介する、③生徒自身の言葉で平和を表現させる、ことを目標に、①絵本『あの夏の日』の英文の翻訳、②映画『ヒロシマ・ナガサキ』の監督Steven Okazakiのメッセージを読む、③Peaceをテーマに五行詩を作成する、という3つの取り組みをした報告であった。結論を押しつけるのではなく、解釈・表現の多様性を保障する進め方に共感の言葉が語られた。
  大栗レポート平和を意識した実践。2007年度最後の授業は沖縄を題材にしたものであった。それは3年のSunshineの教科書に載っていた『島唄』(THE BOOM)の歌詞が沖縄戦を扱ったことを知ったことがきっかけで、'95年の小学生強姦事件への抗議集会での仲村清子さんのスピーチや『Welcome to OKINAWA』(三友社出版)を利用しながらALTとのTTを構成した実践である。熱い思いのあふれた実践であった。
 荒井レポートは、教育特区さいたま市の「英会話」の授業を小学校5・6年で受けて中学校に来た生徒に中学校でも「英会話」の授業を週1時間行っている報告と、さいたま教育研究所でさいたま市内の小学校教師に実施した「英会話」授業についてのアンケートのまとめの報告である。すでに小学校教師に「英会話」の授業が大きな負担になっていることが浮き彫りになっているアンケート結果であった。
 柳沢レポートは、通学条件が悪く近年とみに生徒募集に苦労している工業高校で、歌を入れ、辞書引きを継続し、音と綴りの関係を教え、時に『米軍カメラマンが見たNAGASAKI』などの平和教材などを投げ込んだ実践報告であった。
 欠席された伊藤レポートは、1,2年から継続して自主教材を扱ってきた結果、中味のすぐれた教材に生徒が真剣についてきているという報告である。

 昨年の8編から1編だけレポートが減ったが、外国語教育の目的論、平和教育のあり方、英詩の作り方のフォーマット、小学校英語の問題点など、焦点の絞られた実践と論点の提示で充実した分科会となった。新卒で教員試験に受かった若い参加者から感想が出され、分科会世話人からも興味深い論議だったと語られ、時間一杯を活用したゆたかな話し合いが展開された。

(文責・柳沢
(2009年1月3日)