■ 九州ブロック集会

2000年4月

2000年 九州ブロック集会


 4月29、30日の両日、熊本の県青年会館にて東京から講師として田中安行先生をお迎えし、54名の参加で開催。開会の言葉についで熊本のメンバーがWe Can Standの歌を合唱し、歓迎の意を表しました。

1 講演と講座について(1時〜5時)

 まず、田中安行先生の講演、「自己表現で伸ばそう生徒の力を!-やっと出来たよ! 自己表現の喜びと苦しみ-」を聞きました。パワーポイントを駆使しての生徒の作品の紹介や先生ご自身のレジメもスクリーンに映し出され、参加者はすっかり田中ワールドに引き込まれてしまいました。
  1. 自己表現をどう読むか
  2. 自己表現指導のステップ
  3. 自己表現実践のあゆみ
  4. 現代の子どもの状況と教育の課題
  5. なぜ自己表現なのか-現代における自己表現の意義
という項目に沿っての、実に深く広まりのある、しかもわかりやすい感動的な講演でした。私たちが何気なく毎日やっている生徒の英文への添削は今のままでいいのでしょうか?この問いかけに先生は
「『自己表現』とは『生徒が自己の内面に抱いている思いや願い--希望、怒り、絶望、悲しみ、喜びなど様々な感情や考えを表現すること』です。そうやって表現させた生徒の作品に表れた思いや考えを深く受け止めずに、単に英文としての完成度だけを目指す英作文指導と同様に扱ってよいのでしょうか?」
と答えておられます。もうこれだけで英語教師としての心構えが伝わってくる文章です。

 さらに「生徒は自分の作品が認められ、評価されたことで、自信を持って英語への意欲と興味が次第に増してきます。作品をクラスで紹介することで、生徒はお互いを多面的に理解できるようになり、なごやかで仲の良い質の高い集団に育っていきます。」と生徒間のコミニュケーションの大切さを力説しておられます。
 今、学校現場では競争原理が幅を利かせ、生徒たちはばらばらにされ、心の底からの友達はいないような状況があります。不安定な思春期のこの時期、生徒たちに寄り添えば、どれほどこのような授業が望まれているか、誰でも理解出来ます。しかし、「多忙」という言葉で私たちは一番大切な点を後まわしにしているのではないでしょうか?
 先生の紹介された「母の日」の詩や「父の日」の詩にはユーモアあり、悲しみありで一人ひとりの生徒の息吹が感じられ、とても心を動かされました。
 ではこのような指導はどうすればいいのか、田中先生はここでも私たちに細かなステップを示して下さいました。5文型の指導も必要ですし、討論をさせて表現したくなるような動機付けをし、更にどんなことについて書かせるかの題材、五行詩、感想文、スキット、劇など、どのような形式で書かせるか、個人でそれとも集団でなどなど。
 実際に生徒の作品のOur Real Timesを見せて頂きましたが、どれも素晴らしい出来映えでした。それは毎週、先生の心のこもった英語通信"The Real Times"として質の高いものを学生達に与え続けてこられたからこそ生徒の中にも、「書こう!書きたい!」という思いが盛り上がっていたのだと思います。
 英語通信の内容として英詩とそれに関する日本語の詩などが乗せられていて先生はT.S.エリオットの「詩とは思想をバラの香りのように感じさせるものーT.S.Eliot」という言葉を使われました。私たちは索漠とした現代にもっともっとこの「自己表現の思想」を広めなければと痛感したことでした。

  つぎに地元、熊本の永野敬子先生が「We Can Standのその後」という題で講座を 担当して頂きました。
 これは昨年末の九民研阿蘇集会外国語分科会で障害者問題について討議している最中、参加者から永野先生に質問があり、意見を求められた時から永野先生の心の中でもう一度、若い先生方に「We Can Stand 」についてきちんと話しておかなければならないという思いがあったのを今回このような形でお願いしたのでした。
( 折しも5月1日で水俣病公式確認44年を迎えました。)
 この為、永野先生は再度水俣を訪ねられ、参加者が授業に使えるような形での資料提供を心がけてレジメを作成されたのでした。この詩がどのようにして生まれたのかを話され、田中先生と同様、上村さんの協力を得て、プレゼンテーションの準備も出来ていたのですが、ちょっとうまくいかず、説明の時の表が小さくて残念でした。
 いずれ熊本新英研のホームページを作成した暁にはこの資料もアップしたいと話しています。水俣病に関する年譜、地図、グラフがあって、「公害の原点」と言われる水俣病だが現在では20種類以上のゴミの分別を徹底し、環境観光、福祉に力を入れているという報告がありました。
 田中先生と永野先生の講演が終わったところで質問や意見の交換をしました。

2 1日目のレポート分析(5時から6時まで)

 その後、長崎の鈴木、熊本の柳原の両先生の司会で一日目のレポート分析に入りま した。
  1. 「自己表現の場を作る」 熊本・湧心館高校:高崎かおり
  2. 「赤ペン先生」 福岡:竹山祐一
  3. 「Life Is Beautiful」 熊本・大矢野高校:廣田美保子
の3本を1時間で報告、まとめて質疑、意見の交換をしました。
(1)はオーラルBの授業で生徒一人ひとりに自己表現ノートを持たせ、教師が設定したテーマに沿って英文を書き、それをALTが読み、返事を書いてくれるという実践。最初は短い文章しか書けなかったものの、ALTが長い返事を書いてくれるので生徒も励まされ、自分の家族の写真入りとかで、だんだん長い文がかけるようになってくるという内容。
 まさに田中先生の言われる内容のあるコミニュケーションの実践でした。残念ながらレポータの高崎先生は転勤に伴う1ヶ月遅れの引っ越しの為、参加できませんでしたが今後の実践が期待されます。
(2)は忙しい教師でも生徒にお互い添削させることで実力もつくというアイデア溢れるベテランの実践でした。
(3)は今後の総合学習を見据えての「1本のバナナから」「ジュネーブ条約」に至るまでの9項目の授業で生徒の心をしっかりとらえた実践でした。
 討論では特に(3)について、いつも問題になることだがこの授業は社会の授業とどう違うかという点でやはり生徒には少しでも英文を与え、少しでも良いから英語を使って感想などを書かせるほうがいいのではないかという意見が出ました。

3 2日めのモーニング・ポエム(7時〜7時40分)

 これは九ブロの計画段階で田中先生から提案があり、全国大会などでも好評なのでやってみませんかということで日程にいれたものでした。
 本当は近くの公園などへ出かけると良かったのですが30名分の椅子も無いし・・・ということで、窓から新緑を眺めながら田中先生が準備してくださった3枚のプリントの中からリクエストしながら順に英詩を読み、日本語訳を読みました。有名な詩もあり、田中先生の作品もあり、2つの詩の組み合わせも楽しみながら読みました。
 驚いたことにイラストもすべて田中先生の作品と聞き、その詩がますます深く理解出来たことでした。忙しい毎日だけれどちょっと工夫すればこのようにしっとりとした落ち着いたひとときを過ごす事が出来ると気付いたのも嬉しい収穫でした。

4 2日めのレポート分析(8時45分〜11時30分)

8時45分からは大分の中村、鹿児島の白坂の両先生の司会で本格的にレポート分析に入りました。
  1. 「原爆絵巻『崎陽のあらし』を英訳して」 熊本人吉高校定時制:柳原三男
  2. 「リスニングアップのためのトピック教材:長崎の緒方先生達の編集)を使用して」 長崎・広田中学校:石原恭子
  3. 「『総合的な学習』の時間を活かした本校の取り組み」 長崎広田中学校:山口直美
  4. 「Good Vibrationからバリアフリーを自分のこととして考える」 長崎南商業高校:鈴木奈尾子
の4本をまとめて報告を受け、意見交換をしました。
(1)の英訳は今後の完成が待たれるところです。月に2回の学習会がもう1年以上続いているそうです。
(3)の総合学習は地元の「広田を知ろう」というテーマで伝統文化、自然、産業、地域発展、歴史、福祉、広田中学校とそれぞれの班に分かれて資料を収集し、英語で紹介しようという実践で今後の総合学習のモデルとも言えそうな着実な取り組みが評価されました。(4)は8歳で聴力を失い、超人的な努力で音楽家になる夢を叶えた英国人パーカッショニスト、エヴリン・グレニーを授業で扱った実践でした。
 鈴木先生のインターネットを駆使しての国会図書館までも含めての資料集めの熱心さに参加者は敬服。「プライベートライアン」も殺し合いの場面も長いけれど、腰を抜かしたりする兵士も描かれており、人間的な部分もあるので利用出来るとのこと。
 ここで休憩し、後半は
  1. 「教科通信FRIENDSHIPの取り組み」 大分・耶馬渓中学校:羽野祐司
  2. 「生徒の英詩から」 福岡・南小倉中学校:富崎千賀
  3. 「第一学年英語科学習指導案ービデオによる授業風景紹介」 山口・松野一郎の
3本に関して分析、討論をしました。
(5)の実践を羽野先生は94年から続けておられるということで講師の田中先生からも自分も自己表現を10年、20年と続けているという励ましがありました。また、最初の授業でいきなり「I lived in Hita.I lived in Kusu. I lived in Nakatasu.」と話し始めておられるがスクリーンに教師の姿を映し Who is he? と生徒の注目を集めてからその人に関しての説明という形を取った方が効果的ではというアドバイスがありました。
 この後、時間の都合でレポート紹介のみでしたが
  1. 「英語の表現力をつける授業の試み」 福岡・南筑高校:藤原富枝
  2. 「魅せます!!私の授業」 長崎福島中学校:緒方智子

の2本の報告がありました。
 どちらも大変大きな意味を持つ、深まりのある実践なので紹介だけではもったいないのですがお二人から今回はこれで良いと言う了解を頂き、なんとか時間内に終了となりました。これは中村、白坂お二人の熱意ある、てきぱきとした司会の力量によること大でありました。

5 閉会

(1)初参加の感想:
 熊本の上村さんから「先生方は実践の場があってうらやましい」という言葉がありましたが、彼は目下、日本語教師としての資格取得のため猛勉強中です。彼にもやがて世界に実践の場が出来ることを心から期待したいと思います。
(2)熊本からのお礼の言葉
(3)田中先生からの総括
  九ブロの横のつながりがとても強く素晴らしい、郷土の歴史を中心に据えて学習する雰囲気があり、とても良いなどお褒めの言葉で総括して頂きました。
(4)大分から来年の九ブロについて60名の参加を目標とするという力強いご案内がありました。
(5)最後にhand in hand でWe shall overcome.を歌って2日間の充実した日程を終えました。

(文責:畠田)