■ 九州ブロック集会

1999年12月
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1999年 九州ブロック集会(第45回九州民教研<別府>集会)


外国語分科会報告

参加者は29名、レポートは
  1. 「魔法のドロップ英語版読み聞かせ」について 鹿児島県 岩本 綾
  2. 「心を大切にする授業を目指して」 長崎県広田中学校 石原 恭子
  3. 「生徒の心を動かす授業を求めて」 大分県野津高校 中村 龍彦
  4. 「ヘレン・ケラー:映画『奇跡の人』を通して」 大分県野津高校 足立 正和
  5. 「高等部2年1組英語科授業案:レーナ・マリアを中心に」 大分県 南 文隆
  6. 「オーラル・コミュニケーションにおけるいくつかの取り組み」 長崎南商業高校 鈴木 奈尾子
  7. 「ハゲワシと少女」をどのように取り扱ったか」 長崎県大島中学校 中村 智子
  の全部で7本であった。
 一日目は司会を鹿児島、大分が二日目は熊本と長崎で担当。まず各県毎に自己紹介をして今、自分が悩んでいることや参加の動機について話してからレポート報告にはいった。

「魔法のドロップ英語版読み聞かせ」について

 最初は鹿児島から日本で初めて4年制大学を卒業したダウン症の岩本綾さんが自分の夢と共に子ども達に贈る英語版「魔法のドロップ」の読み聞かせをしてくれた。絵もとても愛らしく、彼女の英語の訳自体も自然でわかりやすい表現であったが、その読み方も生き生きと感情が込められていて我々英語教師も舌を巻くほどだった。
 綾さんは養護学校でも英語を学べない事があるという事を知り、自分が楽しんだ英語を障害児を含めたもっと多くの子どもたちにも親しんで欲しいという願いを込めてこの童話を英訳したそうだ。
 綾さんのご両親も教師で特にお父さんはこの九民研の実行委員長までされたことのある方でいつも鹿児島から参加される白坂先生と話され、この外国語分科会への参加と言うことになった次第。
 参加者一同最初から感動!の報告を聞き、皆、この絵本を買い求めていた。

心を大切にする授業を目指して

 次に長崎の石原先生の「心を大切にする授業を目指して」について報告を聞く。
 石原先生はこの3月で退職だそうだが、なかなか心を開かない中学生に対してまず、授業開きではインクのカートリッジを見せ、取り替えの出来ない一人、一人の人間の大切さを訴え、"I am a MAN." を紹介されるそうだ。さらに握手しながら、こまめに言葉かけをしたり、荒れた生徒には夜通し毛筆で心を込めた手紙を書いたり、授業中にハーモニカを吹いたりとベテランでありながら生徒ひとりひとりにしっかり寄り添っておられる姿に聞いていて思わず涙が出てくるのを禁じ得なかった。
 このような先生の姿勢が、"I can stand. "の実践で孤独なN子さんの心からの叫びである次のような自己表現を作らせたのだと思う。
I can smile. I like smile very much. We can smile.
But when I am sad, I can't smile.
Why? When I am sad, I am not happy. When I am sad, I am not happy.
I can smile. Oh, I miss my smile.

生徒の心を動かす授業を求めて

 三番目は大分の中村先生の「生徒の心を動かす授業を求めて」。
 石原先生に続いて、やはり中村先生も生徒の心をつかむ為に教材の発掘に力を入れておられる心意気が伝わって来た。
 スウェーデンのゴスペル歌手、レーナ・マリアのコンサートに南先生に誘われたことに始まり、そのビデオを購入、自分の授業クラスだけでなく福祉科の3クラス、果てはほとんど学校全部の生徒が見るところまで広がり、福祉科からは感想文まで見せてもらったという楽しい報告であった。
 その際、障害という点でレーナ・マリアはクリスチャンとして自分の障害をありのまま受け入れているが、日本人にとってはこのように障害を受け入れる宗教的背景もないし、このようには受け入れられないのではないかという話が出た。
 しかし、We can stand. の松永久美子さんもそうだがやはりたとえ障害があっても自分の生を一生懸命生きる姿勢自体が素晴らしく、人=生徒の心を打つのではないのだろうか。他にも今月の歌の実践等もあり、中村先生は今回は九民研の案内ちらしを20〜30名に郵送され、教え子の方も参加されたとか。その熱意に担当県としても感謝、感謝!

ヘレン・ケラー:映画『奇跡の人』を通して

 続いて同じ勤務校の若手、足立先生の登場。
 福祉科の1年と普通科の情報経済コースでの英語Rは開隆堂の"English Now I"を使用。その中のLesson 4 にPrecious water(命の水)と 題してエチオピアで青年海外協力隊の一員として活動した日本人、安村和俊さんの話が載っており、国際化の中で、同じ人間として何が大切かを学ぶのがねらい。
 また、Lesson 5 にはHellen Keller が取り上げられ、障害者と社会の関わりや人間にとって言語の獲得がいかに大切であるかを考えさせるようになっている。
 それで以前にもこのビデオを見たことがあったので生徒にもその感動を味わって欲しくて教科書がひととおり終わったところでこのビデオを見て、鑑賞記録を書いてもらった。
 いつも九民研で学ばせてもらうばかりなので今回はこの鑑賞記録を持っての参加となった。以下はその質問項目。
  1. 映画"The Miracle Worker "を観てどう思いましたか。
  2. Hellen Kellerの両親についてどう思いましたか?
    a) 父親について b) 母親について c)あなたがHellenの 立場だったら・・・?
  3. a) Sullivan 先生についてどう思いますか?
    b) あなたが Sullivan 先生だったらHellen にどう接しますか?
  4. Hellen Keller についてどう思いましたか? 
  5. a) どのシーンが一番印象に残っていますか?
    b)そのシーンを見てどう思いましたか?   また、自分の日常の生活と重ねて何か考えた事があれば書いて下さい。
 この5.の問いの「一番印象に残ったところ」では、やはり33名が「waterと綴った時」と答えていたがどの問いに対しても生徒は実に丁寧に感想を書いていた。これはとりもなおさず足立先生の若き情熱がそのまま生徒に伝わっているからではないだろうか。1日目はここで終了。

高等部2年1組英語科授業案:レーナ・マリアを中心に

 2日目も大分からのレポートで始まり。南先生の養護学校での15時間くらいかけてのレーナ・マリアの実践。
 しかし討論はその中に出てきた指導の際の体罰について盛り上がった。養護学校だけでなく、特に荒れる中学校での力を背景にしないと指導が成り立ちにくいと考えられている状況も考慮にいれながらそれぞれに悩みながら自分の考えを出し合いやはり力に任せての指導ではその場は収まったかに見えても本当には納得出来ていない場合が多いのではないかというところに落ち着いたように思う。

言葉に興味があるから・・・

 次に1日目の自己紹介の時、教師ではないけれど「言葉に興味があるからこの会に参加した」と言われた熊本の上村さんに少しその思いを話して頂いた。
 国立電波高専に学んでいて3年で大学へ。現在はパソコン関係の仕事をしており、半年前から「7カ国語で話そう!」の「ヒポ・ファミリー」に入会。いろんな国の言葉を勉強中とのこと。
 新英研でもいつも話される事だが、なぜ、英語分科会でなく、外国語分科会なのか、そのあたりを討論しあった。
 英語はこの地球上に3000近くある言語のうちのひとつでしかないのであってあまり英語偏重になるのは(特に日本?)いかがなものか・・・と。
 上村さんによればそのグループのファミリー(集会)に毎週出てじっと耳を傾けていると次第にいろんな言葉が少しずつ理解出来るようになるし、その関係から留学生のホスト・ファミリーを引き受けたりして異文化理解が深まっていくということであった。

オーラル・コミュニケーションにおけるいくつかの取り組み

 このような言語の話を受け、次に長崎の鈴木先生のレポートに入った。
 オーラルの授業でALTとどうティームティーチを組み立てるかは老いも若きも頭の痛い問題である。鈴木先生はこれまで実践してきた11ほどのアイデアを報告された。
 さらにフランス語専攻だった強みを生かしてフランス系のALTとフランスの文化紹介に取り組んだ際の授業を10分程度デモンストレーション。参加者はこのレッスンを楽しむと同時に授業でのいろんな工夫を学ぶ事が出来た。

「ハゲワシと少女」をどのように取り扱ったか

 最後に長崎の中村先生の「『ハゲワシと少女』をどのように取り扱ったか」だった。
 これは九民研のレジメを印刷する時点でどの県からもレポートがあがって来ず、福岡の白水先生のお世話になっているメーリング・リストで呼びかけ、応じて頂いたただ一つのレポートであった。しかも中村先生ご自身は産休中ということで代わりに熊本の畠田が読み上げて報告という形を取った。
 New Crownの3年生の教科書Lesson 7に出て来るこの内容はやせ細って今にも飢え死にしそうな一人の少女を一匹のハゲワシが獲物としてねらおうとしている写真をめぐっての話である。
 中村先生はこれを
 (1)生徒達に途上国の子どもたちの問題に関心を持ってもらいたい
 (2)メデイアを読む目を育てたい
というねらいを持って討議を用いた授業を展開。事前に生徒が自分の意見をきちんと持ち、それをある程度表現できるように
(ア)ロール・プレイ「英語で喧嘩」や
(イ)世界における野生動物の実態や虐待の状態を許せない順番に並べ替えるランキングや
(ウ)96年にリオデジャネイオで開催された世界環境会議で日本の少女が発言したスズキ・スピーチのビデオを視聴させる
などのかなりの下地作りをしておられる。
 その後、授業に入り、本文を読みとらせながらケビン・カーターに対する2つの意見はどんなだったか確認し、パートナーでじゃんけんしてA側(I think he should take the picture)とB側 (I think he should seve the child) になり、日本語で立論を考える。
 次の時間、ペアで紙上討論をし、その原稿を指導しながら討論へと導くというもの。

 この後にもこの写真を撮ったケビン・カーター氏に対する2つの記事、
(A)一つは彼を批判するもの、もう一つは
(B)その後の彼の苦しみと彼を擁護する意見を書いたものを用意。
それぞれの立場を指示する生徒に(A )(B)の資料を与え、ペアで感想を話し合わせ、「なぜひとつの事実をめぐって異なる記事があるのか、また自分の意見を決める前に2つ以上の意見を知っておくことはなぜ必要かなど」についても考えさせてある。



photo by Fujiwara, Tomie  大変内容の濃い,多くの示唆を含んだレポートでみんなで読み合わせをするだけでもかなりの時間を要し、なかなか十分な討議まではいかなかったがただひとつ、レポーターから投げかけられた問い、「討議の中で教師は意見をはさめるか?」という点についてだけ討議がなされた。
 生徒の討論が済んだ時点で教師が自分の意見をいうのは構わないという意見もあったけれど、そうすると生徒たちは「なんだ先生は最初からそういう意見だったのか」という思いもするだろうから、やはり教師は「このような2つの考え方がある、自分はどう思うのかしっかり自分で考えてごらん」の方がいいのではないだろうかという意見が大勢を占めた。

 会の終わりに4月の29日(土)30日(日)はまた熊本市で新英研の九ブロが開かれるのでこちらへも是非参加下さいという連絡で2日間の討議に幕を下ろした。

(熊本県湧心館高校 畠田ミツ子)

日 時: 1999年 12月26日(日)10時開会〜27日(月)
場 所: 阿蘇町体育館
熊本県阿蘇町内牧温泉(TEL 0967-32-4000)
テーマ: 「子どもたちに やさしさと かしこさと たくましさを」
内 容:
記念講演
坂本光男(元中学校教師、現在日本生活指導研究所員)
教科、領域毎の33の分科会
外国語分科会には各県からの実践報告